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代償の異世界記  作者: リョウ吉
第1章 始まりの日々
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一話 プロローグ

刑務所で服役中の受刑者の前に現れた神と名乗る存在。

神は復讐の手助けの代償として異世界への転生を持ち掛ける。

犯罪を犯した者のその男は悪とは言い切れない。むしろ魂は……

異世界での暮らしは神からの頼み(使命)を果たすために邁進していく。

プロローグ


いつものように目が覚めいつものようにその日の勤めを終える。毎晩ように眠りにつくときは自分の不甲斐なさに苛まれる。今現在自身のおかれた立場については後悔などないものの果たせなかった復讐に心が縛られている。

男は三畳一間の社会から隔離された環境に身を置いている。つまり刑務所の中だ。ほぼ現行犯で逮捕され、約1年半もかけ、裁判が終了し八年近い刑期を科され刑務所に移送されてきた。初めのころは集団部屋で暮らしたこともあるがこれまで過ごした刑期のほとんどは個室、通称独居であり、かなり早い消灯時間にもなれつつある。だがいまだ自身の犯した罪、正確には完遂できなかった罪に心が縛られている。他の受刑者のように雑談が認められた休憩時間や運動時間にバカバカしい話に加わるでもなく陰気めいたままの男として孤立していることさえ気にならない闇をいまだ抱えたままである。

担当官に受刑者に割り振られる称呼番号で呼ばれること、点呼の際に称呼番号を答えること受刑生活には慣れたものの思い描く未来は復讐のみ、その日もいつもと同じように復讐の方法を考えながらいつしか眠りにつくはずだった。


「おい、おまえ。」

はじめは他の部屋のものが当直の職員に指導されているのだと思った。

「おい、おきろって」

それは自身への問いかけだった。

目を開けると声の主は自分の横で信じられないことにのぞき込んでいた。

「だ、だれだ。な、なんでここに。」

そうここは単独室、内側にはノブも取っ手もない。毎回職員が大きなカギで外側から開錠して初めて出入りできる環境である。

一目で施設の関係者ではないことはわかる。むしろ日本人でないこともわかる。映画で見るような中世のマントのようなものを羽織り、銀髪の男があごをしゃくり起きるように催促してきた。

当然のように慌てて職員を呼ぼうと立ち上がったが男が醸し出す雰囲気、正確には威圧感が体を硬直させる。精一杯視線を廊下に移すもののそこには信じられない光景が待っていた。

「起きたか?ああ、お前に話が合ってやってきたからな、邪魔が入らないよう細工はしている。」

職員がのぞき込むために設けられた小さな窓から見える光景はいつもの廊下も斜めに見えたはずの工場に服役する受刑者の部屋でもない。一目でこれが異空間であることがわかる漆黒の空間であった。現実とは思えないこの状況に言葉を失うと目の前の男は手も使うことなく備え付けのやかんを宙に浮かせながらお茶を入れている。

「うす、まず。」

と顔をしかめながら配給されているお茶に文句をつけている。

「これは俺の世界でもかなりまずい部類だな。」

そうケチをつけながら次はどこからともなく銀のポットを取り出し、さらには食器を取り出しては二人分の飲み物を用意していく。

「な、なんなのですか。」

なんとか絞り出した声は弱弱しい。

「そうだな、とりあえず自己紹介をしとこうか。俺はいわゆる異世界の神という存在だ。ある国では慈愛の神なんて言われていたがそもそも慈愛をつかさどっているわけでも慈愛の精神なんてものも持ち合わせていない。たまたまそう呼ばれていた神だ。」

「神…」

こちらの反応も気にすることなくその神は話を続けた。

「そう神、まあお前を裁きに来たわけではないし、そう構えないでくれ。むしろお前にとってはいい話を持ってきた。」

神の瞳が怪しく輝き、おびえながらも座り込んでいく。

「話というのはお前の命がほしい。」

(ああ、死神か)そう心の中で思うと、

「いやいや、違う違う」と心を読んだのだろう訂正してくる。

「確かに本来は生と死を司る神だがお前を裁くつもりは毛頭ない、単刀直入に言ったのが悪かった。お前の助けがほしくてな。俺の世界に行ってもらうにはこの世界からだと死んで転生してもらわないとならないんだ。」

オタクでなくとも映画や小説でこのような展開、お約束は聞いたことがある。たしか異世界に自身のまま行くような話もあったはず、この状況で死んでくれと言われて断るのは当然だが断れるとも思えない状況のようにも思う。

「私に成し遂げないとならないものがあります。」

そう生きるしかばねでもある自身が唯一生き続けている理由、復讐を果たさずこのようなバカげた話に耳を傾けることなどできない。

「それは知っている。いやむしろその復讐を俺が果たしてやれるからお前の前にやってきたのだ。それにお前でないといけない。この世界ではどうか知らないがお前のその魂は俺にとっては最上級のものでな。話を聞き、引き受けてほしいのだ。」

「ほ、本当に果たしてくれるのですか?」

「ああ。」

食いつくように尋ねると神は大きくうなずいた。

それからは素直に神の話を聞いた。そしてもしかしたら夢や妄想だったかも知れないとも思うものの、約束が果たされてからでと条件も提示され神との話し合いは終わった。いつしか眠りについていたのだが翌朝、あの出来事が夢ではなかったことを証明するようにまずいと言われた飲みさしのコップが置かれていた。

そして約束はその日の昼休み、食堂に備え付けられたテレビにて伝えられた。

『次のニュースです。今日11時ころ東京……にて殺人事件が発生しました。被害者は…………25歳、………24歳、何者かにより首を切断されて死亡しています。被害者は代議士……の長男で過去に数回にわたりトラブルをおこしたこともあるようで過去のトラブルとの関連性を疑っている状況です。』

約束は果たされた。最愛の人奪い、あまつさえ親の権力で罪を逃れた復讐相手の死を確かめるともはやこの世などに未練などない。

そのあとは自身の事件を良く知る担当官が被害者でもある復讐相手の死を知ったためか個別の面談室に隔離をはじめ、刑務所のお偉い方が様子をうかがいに来たり、慌てて刑務所まで駆けつけた警察官などに無言で対応したのちにこちらも約束を果たした。

神の迎えが来たのはその夜のこと、刑務所の単独室には安らかに眠る遺体が残されていた。

代償による異世界での暮らしの始まりである。


初めての投稿のためお粗末ではありますが宜しくお願いします。

頑張って皆様に楽しんでいただけるようなものを生み出せたらと思っています。

尚、投稿はのんびりペースになると思います。

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