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夢の中でのダンスタン

 夢を見た。


 空では紅と藍が交わらないで渦を巻いている。見た事も聞いた事もない空だ。昼と夜が同時に来るとはこの事なのだろうか。鳥達が隊列を組んで飛んでいく。羽ばたいているわけでもないのにどこまでも飛んで行っている。昔テレビで見た戦争映画に出ていた戦闘機みたいだ。

 夢だと言うのは頭のどこかで理解していた。妙に頭は冴え渡っている。朝起きてコーヒーを飲んでいる時のようなそんな感じだ。

 足を出してみると更なる違和感が私を襲った。足下がスポンジのように柔らかい。と思ったらしっかり舗装されたように硬いところもある。見た目は普通の道なのに。苦労しながらもとにかく進む。道はうっそうと広がる森に向かって一本道だ。不格好に歩きながらなんとか進んでいく。


 ずっと歩き続けてやっと森の入り口に着いた。道の歩き難さ以上にとにかく長かった。遠くから見た森は大きいという印象で、それは間違ってなかったのだが、とにかく規模が違っていた。右を見ても左を見ても森の端が見えない。森の奥から響いてくるカラスの鳴き声が「早く入れ」と急かしているようだ。引き返す事も出来るわけがなく、ゆっくりとだが森の中へ踏み出す。さっきまでの道と違って今度は歩きやすい。空からの光が木々に遮られ、森の中は暗い。何羽ものフクロウがこちらの様子をうかがうように見つめてくる。自分の夢の中でもこの森では部外者か。私の思いなだ露知らず。フクロウ達は飛び立って行った。フクロウ達がいなくなった事で、少しの間だけ森に静寂が訪れる。近くの音が無くなると、遠くの音がよく聞こえる。カサカサと枝の間を小動物達が駆け抜ける。

「急げ急げ」

「森の音楽隊がもう着いたって」

「年に一度のコンサートが始まるよ」

 みんなが向かっているのは今私が歩いているのと同じ方向のようだ。コンサートと聞いて足が少し速くなる。音楽は心をウキウキと沸き立たせる。

 コンサート会場にはすぐに着いた。森の中とは思えない程煌びやかな音楽会場のステージでは、様々な動物達が楽器や自分の喉の調子を確かめていた。会場とは言っても木だらけの森でそこだけ広場になっている。そんな感じだ。

「森の音楽会の会場はこちらだよ。はいはい、どうぞ楽しんでいってください」

 会場の入り口ではイタチがチケットの回収をしていた。もちろん、私はチケットなんて持っていない。

「おや……あなたはチケット不要ですよ。ささっ、どうぞ中へ」

 イタチに背中を押されて入ると、中はたくさんの動物達で埋め尽くされている。空には満月が浮かんで、わずかながら会場を照らしている。さっき見た空と変わって満点の星空だ。

 ステージ上の動物達は、オオカミがアコースティックギター。きつねがエレキギター。二匹の前にマイクがある事を見ると、二匹がボーカルなのだろう。クマがウッドベース。イタチがドラム。たぬきとシカがパーカッション。小鳥達とカエル達が並んでコーラス。全員が並ぶとステージも賑やかだ。楽器を構え、イタチのドラムで曲が始まる。始まった途端に観客は熱狂する。

「プライドばっかじゃつまらない。こんな日くらいは化けの皮剥がして楽しもう。臆病者も過激な奴もみんな一緒に楽しもう。野の花摘んで木の実を取ってそんな毎日刺激がなさすぎ。潮風よりも俺たちが好きなのは森の匂い」

 森の動物達らしい歌詞に合わせて、鳥やカエルもドゥーワップで合わせる。観客も合わせて飛んだり叫んだり。相当人気のバンドのようだ。

 私は、一曲終わったので会場をあとにした。うしろから受付のイタチが、

「もう行ってしまうのですか」

 と寂しそうにしていたが、挨拶だけして私は背を向けた。

 しばらく歩くと、森の出口が見えてきた。不思議と、これだけ歩いても体はまったく疲れていない。これも夢の中だからか。森を出ると空はまた、さっきと同じの紅と藍が渦の空だった。


 歩いていると前方の左右を看板がヒョコヒョコと跳んでいる。右は右に向かった矢印。左は左に向かった矢印。

「私は右。あなたは私の方に来る?」

「私は左。いやいや私の方に来ます」

 進むとそれに合わせて看板も進み、止まると看板も止まる。体の向きを変えれば、それに合わせて看板も向きを変える。

「キョロキョロキョロキョロと忙しい方ですね」

「右か左か迷っているのでしょう」

 細かく言うならば、右と左ではなく右前と左前に看板はいる。

「なるほど、確かにその通り」

「ふむ。それでは直しましょう」

 看板はヒョコヒョコと私の隣についた。右を見ても左を見てももう看板は見えない。それに合わせて看板が動くからだ。

「私は右。私が案内できるのは右側だけ」

「私は左。私が案内できるのも左側だけ」

 私の左右で右だの左だのとうるさい。無視して歩き続けているとある所で、

「私はここまでしか行けません」

「私もここまでしか行けません」

「あとは一人で進んで下さい」

「大丈夫。いつでもあなたには右も左もありますから」

 そう言ってついて来なくなった。うしろを振り返ると看板はピシッと止まって動かない。右の看板は右を指し、左の看板は左を指している。もうどちらがどちらだかわからない。


 前で、だんだん畑と二足歩行の黒猫が何事か言い争っている。

「ミーが働かニャかったら、せっかくの作物もネズミに食べられて台ニャしニャ」

「ええ、一向に構いませんよ。そうしてエサがなくなり、困るのはあなたですから」

「ニャんだと? お前は前から気に食わニャかったんだニャ。偉そうに上から目線で、畑のくせにニャま意気ニャ」

「あなたよりかはご主人様の役に立っていますから。上から目線になるのも仕方のない事です」

「仕方のニャい事? ふざけるニャ! お前ニャんてこうしてやる」

「止めなさい! 小便をここでするのは止めなさい!」

「いい気味ニャ」

 笑って去って行く黒猫のあとを私はなんとなく着いて行く。私の夢にしてはおもしろい登場者達だ。私が着いているのに気がついたのか、黒猫が立ち止まった。

「お前はニャに者ニャんだニャ。さっきからうしろを着いて来て」

 私が名前を尋ねると、

「ミーはミーだニャ。それ以外のニャに者でもニャいニャ」

 自分の事をミーと言っているが、そう言う名前なのか。それとも一人称のミーなのか。

「ニャッハッハッ。君のニャ前は私って言うのかニャ? 違うでしょ。それと同じニャ。ミーがミーの事をミーと言っているだけでミーのニャ前がミーニャわけニャいニャ」

 一通り笑うと黒猫は一転して悲しそうな顔になった。

「こんニャ事をしていても無駄だニャ。ミーの夢にはほど遠いニャ。小作農の飼い猫から始めて、いつになったらミーの夢はかニャうんだニャ」

 そう言って黒猫の姿は消えてった。

「ミーもチェシャ猫にニャりたいニャ」

 その言葉が最後に聞こえた。


 段々と周りの風景が変わってきた。建物が増え始め、地平線が見えなくなってきた。煉瓦造りの建物が並ぶ街に入ってみると、遠くから爆発音が聞こえる。多数の足音が建物の向こうから聞こえてくる。

「君、そんな所でなにをやっているんだ!」

 ヘルメットを被った茶毛のイタチが、私の元へ駆けて来る。そのうしろにはリスやネズミも着いていてイタチと同様にヘルメットをしている。

「隊長! 早くしないと海軍が……」

「一般人を置いてはいけないだろう。君早くこっちへ。ヘルメットもしていないじゃないか」

 イタチが私の手を引いて街を進む。ヘルメットを貸してくれたが、イタチのなので頭にチョンと乗っているだけだ。

 イタチ隊の案内で街を進んでいると、笛を吹いたような音がして直後、すぐ横の建物が爆発した。

「くそ、もうこんな近くまで……前線基地はもう少しだ。頑張ってくれ」

 その後も、なんとか爆発をかわし、瓦礫を乗り越え、森軍の前線基地に着いた。基地ではきつねがヘルメットの調子を確かめていたり、クマがウサギに傷の手当てをしてもらったりしている。

「海軍が来たぞ! 全員準備しろ!」

 オオカミが叫ぶと、みんな慌ただしく位置に着く。遠くから海軍がやって来る。アシカやペンギン。タコやイカ等、魚以外の海の生き物達が進んで来る。森軍の全員が一斉に銃を撃つ。

「ドングリミサイル準備完了」

「ドングリミサイル発射」

 大きな発射音と共に大きなドングリが発射される。

「みんな逃げろ! イカスミ爆弾だ」

 シカが叫び、周辺の動物達がわらわらと逃げ出す。さっきまで動物達がいた所には真っ黒なスミが広がっていた。

「さぁ、君はこっちだ」

 さっきのイタチに手を引かれて、戦場から遠ざかる。

「このまま行きなさい。そうすれば安心だろう」

 イタチ隊長にお礼を言って走り出す。すぐに銃声やら爆発音は小さくなっていった。


 さっきまでの戦場が嘘のように辺りは静まりかえっている。音がなくて少し寂しく思いながら歩いていると、道の先で小さなランタンを下げた男が地面になにかを広げている。

「ちょっと見ていかないかい?」

 シートの上に並んでいるのは、曲がったボールペンや電池の切れた懐中電灯。ヒビの入った時計やフタのないペットボトル等、使えるかどうかもわからない代物ばかりだ。お世辞にも欲しいとは思えない。

「とっておきのがあるよ」

 そう言うと男は、懐からなにか液体の入ったフラスコを出した。こぼれないようにテープで口を塞いであるが、心許ない。

「これはね、飲むと腹痛でも頭痛でもなんでも治る薬だよ」

 怪しさ満点の薬である。紫色をしているのもそれに拍車をかけている。加えて、小汚い男の懐から出た物を口に入れたくない。

「そうかい、残念だね。またいいのが入ったら店開くから。その時はまた見に来てね」

 見るだけならば楽しいのだが、買い物する気は起きない。「いいのが入ったら」とは言っているが、並んでいる物を見ればそれも信用できない。


 そろそろ起きたくなって来た。空を見ていると更に不安が掻き立てられる。どうすればこの夢から目覚められるのだろうか。悩んでいても答えは出ないので、とにかく道をまっすぐ進む。これまでの事から思うに、歩いていればなにかに突き当たり、なにが起こってもおかしくはない。困ったらとにかく歩けばなんとかなるだろう。その時、ガゴンと鈍い音が大きく響いた。うしろを振り返ると、地面が二つに割れて、下から大きな壁が迫り上がっている。壁には大きく顔が描かれ、全部が出るとこっちに向かって進んで来た。

「ホーホーホー、逃げろ逃げろ。どんどん私は迫っていくぞ」

 口が大きく開いて壁がしゃべり出す。壁の根元には大きなナイフがいくつも地面を刻んでいる。どうやら逃げるしかないようだが、幸いにも壁の動きは遅い。

「逃げる方はー、全力でー、追いかけるー」

 急に壁はスピードを上げ私に迫り来る。地面はどんどん削られて走らなければすぐにも追いつかれるだろう。

「ホーホーホー、私はただ壁ではない。しゃべって叫んで、泣いて笑って。忙しい私はいつでもお腹が空いている」

 走って行く内にさっきの男を通り過ぎる。男は壁に吸い込まれて消えてしまった。

「今のは中々。もっともっと」

 街に戻ると未だに、森軍と海軍の戦いは終わっていない。戦場の真ん中を走り抜けていくが、誰も私に気付いていないようだ。

「撃て、撃ちまくれ」

 イタチ隊長も叫んでいる。隣にいた動物達が次々と壁に吸い込まれていくが、周りの動物達も気付いていないようだ。そうこうしている内についに、イタチ隊長も吸い込まれていった。

「まだまだ。あなたが逃げる限り追い続けるのです」

 小石を蹴っている黒猫も、作物を実らせているだんだん畑も瞬く間に吸い込んでいく。ついに私は森の中へと飛び込んだ。木々が邪魔して動きが遅くなるかと思ったけれど、壁はそんな事もお構いなしにどんどん私に向かって来る。

「小賢しい。この程度で私は止められませんよ」

 森の音楽会はすでにアンコールに入っているようだ。バンドも観客も、壁はどんどん吸い込む。ヒマそうにしていた受付のイタチも一瞬だ。

「いつまでどこまで逃げるのですか。私のお腹はまだまだ満たされない」

 森を抜けてついに私が最初にいた所に来た。忘れていたがここの足下はとても歩き難かった。歩き難いのであれば、走るのなんて以ての外。私の進む速度はガクンと落ちた。

「ついに観念したのですか。さぁさぁ、あなたから飛び込みますか?」

 壁が迫る。吸い込まれたくない。夢よ早く覚めてくれ。前を見るとおかしな顔をした動物がいた。この壁から助けてもらえるなら誰だっていい。とにかく助けてくれ。

 その動物が一つ叫ぶと、周りの風景がどんどんとその動物の突き出た鼻に吸い込まれていく。

「オホホホホホホ、今回は逃しましたが次は逃がしませんよ」

 そう叫びながら壁も吸い込まれていった。助かったと思ったのも束の間。その動物は吸い込む事を止めない。私は地面にしがみついて吸い込まれまいと抵抗するが、それも虚しく、すぐにその動物の鼻に私も吸い込まれた。


 目が覚めると、カーテンの隙間から朝日が私の顔を照らす。パジャマは汗でグッショリだ。私は夢を見た。最後は怖かったけれど全体的にはおもしろかった夢を。

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