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会長編01

 夏休み。それは嬉しいけど、暑くてどうにかなりそうな休みだ。

 ボケーッと部屋の窓から外を見つめる。日差しがジンジンと照り付け、見るだけでも暑そうだということが分かった。

 外には出たくないと思ったが、こういう時ほど出なくてはいけないことが発生するんだ。


「みさー、お願いがあるんだけど」


 私のお母様が一階から私を呼ぶ。その時の私の心情は「くると思ってた」だ。

 一階に降りて要件を聞くと、やっぱりと言いたくなる内容だ。買い物をしてきて、というごく普通の内容だ。

 それを二つ返事で了承して、近くのスーパーに行く準備をする。持って行くものはお金と買ってくるものが書いてある紙だ。


「おお、結構ありますな!」


 紙には一回読んだだけでは覚えきれないぐらいのものが書いてあった。その量は母が一回の買い物では持って帰れないぐらいの量だ。

 私はこれでも力には自信がある。気合いを入れればいけるだろうと考え、家を出た。


 近くにあるスーパーは歩いて15分ぐらいのところにある。

 そのスーパーまで歩くまでが凄く暑くてどうにかなりそうだ。帰りは荷物もあるのだから、今よりも大変なのだろうと思うと今からでも憂鬱だ。

 スーパーの中に入るとクーラーが付いていて暑さにやられた体は冷やされていく。体にとってそれがあまり良くないものだと分かっていながらも、クーラーは日常に必要だと思い知らされた。


「幸せだー」


 つい呟いた言葉が周りに聞こえてなかったか辺りを見渡す。誰も私の方を見てなかったので聞かれてはなかったみたいだ。

 だけど、私はこのスーパーで見てはいけなかったものを見た気がした。


「ん?」


 見てはいけないものは一度見てしまったら、目を逸らしてもう一度見るという行為をするのが人間だ。

 このスーパーには似合うはずもない一人の青年。彼は目立つ。目立ちすぎていた。

 青みがかった黒髪に一目見れば魅入ってしまう紫の瞳。彼こそ、我が高校の生徒会長様だ。

 名は、碓氷(うすい)悠真(ゆうま)。彼もまた、この世界である乙女ゲームの攻略キャラである。

 そして、私とも接点があるお方であったりする。


「見なかったことにしよう」


 うん、そうしよう。そう独り言を呟いて回れ右をする。向かう先はスーパーの出入口だ。

 しばらくはスーパーの近くの公園で時間を潰して、会長がいなくなった時にスーパーで買い物をしようと思ったのだ。

 だけど、この時に既に私は会長に気付かれていたなんて思いもしなかった。


 スーパーを出ようと自動ドアのところまで来たのはいいが、目の前に立ちはだかるイケメンをどうしようかと迷う。

 私の選択肢に「イケメンをスルーしてスーパーを出る」か、「イケメンをスルーして回れ右をして、スーパーで買い物をする」しかない。どちらにしろ、目の前のイケメンはスルーだ。

 というより、こんなところで目立ちたくない。こんな規格外のイケメンと一緒なんて目立ちまくるに違いない。


「ということで、私は会長をスルーすることに決めました」


 じゃ、と片手を上げて選択肢二である「イケメンをスルーして回れ右をして、スーパーで買い物をする」を選んだ。

 逃げれると思っていた私は実に甘かった。考えが甘すぎたんだ。

 パシッと逃げるより先に腕を掴まれる。


「くっ、君はいつも面白いことを言う。私を無視出来ると本当に思っているのか?」

「思ってました、ごめんなさい!」

「思ってたのか」


 クックとゲームのラスボスである魔王がしような笑いをする会長。それが似合うのは彼だからだ。


「では、いいところに君を見つけたので私は君と買い物をしようかな」

「へっ?」

「君は何かを買いに来たのだろう?」


 確かに買いには来たのだが、会長が買い物というのは理解出来ない。しかもスーパーで買い物って、本当にあなた会長ですか?

 心の中で呟いた言葉が口に出ていたみたいで会長は「私が碓氷悠真以外に見えるか?」と聞いてきた。

 会長以外に見えたいけど、今ここにいるのはイケメンすぎる会長である。そっくりさんだったらどんなにいいのだろうと思うが、規格外なイケメンがそう何人もいては駄目だろう。


「なら、いいだろう。一緒に買い物をしてあげようか」

「上から目線ですか!」

「君よりは失礼ではないと自覚しているが?」


 それはごもっともです。私は会長にいろいろと失礼なことを言ってるし、してるような気もする。

 それに実際に会長は私よりも年上で会長だし、上から目線でも大丈夫なのだが。

 そんなことを考えている内に手に持っていた買うリストの紙を取られ、会長はカートにカゴを置き、カゴの中に買うものを入れている。

 カートを押して歩く会長は新鮮で似合わない。似合わなすぎて笑いがこみ上げてくるが、それをグッと我慢するのが私の役目だ。


「笑ったら、罰ゲームでもしようか」


 ぼそりと呟く会長の声で私は一気に現実へと引き戻された。

 笑うわけにはいけない。どんなに似合わないことでも笑うわけにはいけない。

 買い物が終わる頃には既に私の精神は疲れ切っていた。


 レジ袋に買ったものを入れ、いざ帰ろうとした時にレジ袋を三分の二ぐらいを取られる。えっ!と思って会長を見ると「送る」と言われた。


「いえいえ、いいですよ!」

「この量を君一人では運べないだろう?」

「頑張ればいけるんで」

「君は女の子だ。少しは男の私に頼りなさい」


 クスッと笑みをこぼす会長に心臓がどくんっと跳ねたことは私だけの秘密だ。

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