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桐島編01

ノリとテンションと勢いで書いているのでサクッと読んで下さると嬉しいです。

 夏休み。それはぐーたらな生活を送る素晴らしい休みだ。

 なのに、なのに宿題が私の邪魔をする。


「もう、むりだー」


 持っていたシャーペンを投げ捨て、一階のリビングに行く。冷蔵庫からアイスを取り出し、かぶりついた。

 ソファに座り、テレビをつける。ちょうど遊園地特集があっていた。

 遊園地か行きたいなぁとテレビを見ながらそう思う。

 遊園地特集はいくつもの遊園地が紹介されていた。その一つに近くの遊園地が紹介されていた。


「おぉ、お化け屋敷がパワーアップ!」


 幽霊などそういうオカルトは大好きなので、ちょっといやかなり行ってみたいと正直に思った。



 次の日。宿題が捗らない私は図書館に行くことにした。

 図書館は涼しくていいところだ。家では節電と言われ、クーラーがつかないんだ、昼間は。

 図書館に入って入り口付近で他の人に迷惑がられながらも涼んで、奥へと進む。

 空いている席に座り、宿題をバックから取り出す。机に広げながら問題を解いていく。


「あれ、海砂ちゃん?」

「はい?あっ、桐島先輩」


 図書館には似合わない金髪に耳にはピアスだ。どこをどう見てもチャラ男の桐島奏汰だ。

 彼、桐島きりしま奏汰かなた先輩は『桜咲乃学園さくらざきのがくえん』という乙女ゲームに出てくるキャラである。なぜ、そんなゲームのキャラが目の前にいるのかというとここがゲームの世界であって現実であるからだ。


「海砂ちゃんも宿題を?」

「そうです。桐島先輩もですか?」

「英語以外は普通だから捗らなくて、ね」


 桐島先輩は英語が得意だ。それはもう、英語だけ学年一位を取るぐらい得意なのだ。

 その理由は桐島先輩の親戚である柳葉伊吹が原因である。柳葉伊吹は私のクラスの担任で英語担当だ。

 昔から柳葉先生に比べられてきた桐島先輩は負けたくないと勉強した結果で英語が得意なのだ。

 これは私が思い出した乙女ゲームの内容で知ったものだ。だから、私がこのことを知っているのは桐島先輩は知らない。


「こんなことになるなら英語以外も勉強してたら良かったよ」

「でも、先輩は凄いじゃないですか。私は英語はもちろんですが、他も出来ません!」

「ふふ、海砂ちゃんは自慢するところが違うと思うのだけどね」


 隣に座った桐島先輩は赤縁眼鏡を装着して、ホッチキスで留めてある宿題のプリントをぺらぺら捲る。あるプリントでぺらぺら捲っていた手はピタリと止まった。

 右手はしっかりとシャーペンを握っているというのにプリントには何も書き出さない桐島先輩。

 どうしたのだろうか。それが凄く気になる。なんでシャーペンを握ったまま、プリントを凝視しているのか。

 どうしても気になった私は桐島先輩に「どうかしたんですか?」と聞いてみる。プリントから私の方に視線を向けた桐島先輩は呟いた。


「数学ってこんなに難しかったんだ」

「へっ?」

「数学って何これ、英語?いや、英語なら余裕で分かるのだけど…」


 ぶつぶつと数学のプリントを見つめながら呟いている。最終的には右手に持っていたシャーペンを机に置き、私と会う前に探したのか、全部が英語で書かれた小説を読み始めた。

 数行読んだところで私の視線に気付いた桐島先輩はにっこりと微笑む。


「何事も息抜きは必要って言うしね」

「いえ、そうですけど……」


 それでいいのか桐島先輩よ。あなたはもうちょっとしっかりしていると思っていましたよ。

 普段は見られない桐島先輩のさぼりが発動している。私は出会ってから数ヶ月目で初めて見た。

 宿題をするために掛けていた赤縁眼鏡を邪魔そうに片手で外し、目頭を揉む。その姿が普段の笑みから想像出来なかった分だけ胸がドキッとした。


「あれ、どうかしたの?」

「あっいえ…その、珍しい桐島先輩を見たなぁって思いまして」

「そうかな?普段からこんな感じだけど、海砂ちゃんの前では格好良くいたかったのかも」


 ふふっと笑みをこぼしながら優しい目つきで私を見つめる。

 桐島先輩の瞳は不思議だ。元は乙女ゲームだからと言ったら終わりだが、攻略キャラの中で一番綺麗だと思う。

 青と黄が混じった不思議な色合いの瞳は私を捉えて離さない。


「海砂ちゃん」

「な、なんですか?」

「海砂ちゃんもサボろっか?」


 机の上に読んでいた小説を置き、私のプリントを掴んでいた手にそっと自分の手を重ねる。ここで流石はタラシだ!やることが違うぜ!と言える余裕は私にはなかった。


「あ、あの先輩…」

「ん?」

「手が、手がですね……その」

「手がどうかしたのかな?」


 ギュッと私の手を握り締めた。涼しい図書館の中がやけに熱い気がする。

 赤い顔を隠すために俯いたが、桐島先輩は私の顔を覗き込んだので意味がない。

 私は赤くなった顔で近くにある桐島先輩をキッと睨み付ける。そうすれば、しばらく私の顔を見つめた後に顔を逸らした。


「そんな顔で睨まないで」

「……えっ?」


 手は握ったまま顔を逸らした桐島先輩を視界に入れる。私の方から見える耳が赤に薄く染まっていた。

 心臓がやけに速く鼓動している気がする。桐島先輩もさっきは私と同じように顔が近いとか思ったのだろうか。

 自分だけではない。顔を赤くしてドキドキしているのは自分だけではないと思うと嬉しくなるものだ。


「桐島先輩もドキドキしているんですか?」

「あのさ、それ聞く?普通、聞かないんじゃないかなぁ」


 いつの間にか、赤かった桐島先輩の耳は戻っていて、その顔には呆れが表れていた。

 私の手を握ってない方で肘を付き、手の上にあごを乗せる。


「海砂ちゃんってさ、馬鹿だよね」

「馬鹿じゃないですよ!」

「いや、海砂ちゃんは十分に馬鹿だよ」

「うっ…」


 なぜか真面目な顔で「馬鹿」と言われる。それにきっぱりと反論出来ないところがある。

 私は馬鹿なのかと落ち込んでいると、握っていた手を離される。その代わりに頭を撫でる桐島先輩だ。


「海砂ちゃんは馬鹿でも可愛い。馬鹿だから可愛いのかな?」

「……何気に失礼です」


 私の心は桐島先輩の所為でズタズタに引き裂かれてしまった。本当は傷付いていないのだけど、そう言ってみたかっただけだ。心の中で言ったので聞いている人はいなかったが。


「ごめん」

「謝るぐらいなら、あそこ連れて行ってくださいよー」

「あそこ?」

「遊園地!」


 そう、ちょうど行ってみたかったんだ。だから一緒に行く人を探していたんだ。

 桐島先輩となら楽しいだろうなぁと思いを馳せた。


「まさか、君から誘ってくれるなんて。ありがとう、行かせて貰うよ」

「はい!」


 いえーい、遊園地!と叫びたいがここは図書館だ。言えるわけもない。


 それにしても、遊園地楽しみだ。そう、お化け屋敷が!


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