乙女の敵はもう一人?
いつの間にか帰ってきた少女は、手を取り合って笑いあう二人を見た瞬間、体が勝手に動き、ゼノのニヤケた(お嬢にはそう見えた。)顔を飛び蹴りを食らわしていた。
「まったく、お前という男は、僕が少し目を離しただけで、お姉さんを口説こうとするなんて、本当になんて奴なんだ。お姉さんには婚約者がいるのが判っているだろ?」
と、ハァ~と深いため息をついた。
「はい~!?チョイ待ち、お嬢。それは誤解だって!っていうか、お嬢は足癖悪すぎ。俺は鞠じゃなんだから、そんなにポンポン蹴らないでくれない?」
お嬢の本気の蹴りを食らって、かなりの勢いで、吹っ飛んだはずのゼノは、何も無かったかのように、服についた土や葉っぱを払いながら、「まったく、こんなに汚れたらせっかくの男前が台無しだよ。」などとブツブツ文句を言いながら、向かって歩いてくるゼノに、「相変わらずゴギブリ並のタフさだな」と悪態をつきながら、
「何処が誤解なんだ。僕はこの目でしっかりと見たぞ。乙女の手を、しっかりと握っていたのを。それでもまだ、言い逃れようとするのか?」
ズンズンと近寄ってきたゼノに、負けじと胸を反らして見上げながら睨み付ける。
長身のゼノのに対して、少女は同年代の平均的な身長より少し低い。
見上げるたびに、それを思い知らされ少女は余計にイライラしてしまう。
「何故お前はやたらと婦女子に触れようとするんだ?ハッ、さてはお前、欲求ふ…ムガっ!?」
「ちょ、お嬢ったらなんてこと言い出すの!?」
ゼノは慌ててお嬢の口を塞いだ。
軽くパニックになり、早く掌を離して欲しかった少女は、ガブリとゼノの手を噛んだ。
「ッ~~~~て!」
お嬢の口を塞いだ手を、おもいっきり噛まれて、ゼノは思わず手を離した。
「イッて~!お嬢、おもいっきり噛んだな!」
と、噛まれた手をプラプラと振る。
「噛んで何が悪い!本当に油断も隙もない奴だ。僕にまで手を出すとは。お前の欲求不満も、かなりの重症だな。」
なんだかよく判らないが、今の自分の頬は少し赤くなっているかもしれない。
「お嬢…だから、誤解だって。俺のこと、そんな節操なしだと思ってるの?酷いよ、お嬢…。」
と、一瞬哀しげな顔をしたが、ハッと何かに気付いた顔になるとニヤリと笑い、
「あれ~お嬢、もしかして、妬きも…」
ゼノの言葉が途中で途切れた。
「うわっ、なっ、な~~~~!なんで僕が妬きもちを妬くんだ!?バカ!!バカゼノの分際で生意気だぞ!!ちょっと掌が、僕より大きいからって調子に乗るな!」
顔を真っ赤にしてわめき散らし、背一杯、背伸びをして、両手を使ってなんとか口を塞いだ。
そんなお嬢の姿にゼノは、抱き締めたいという衝動に襲われたが、そこは理性を総動員しておさえこる。
しかし、お嬢の仕草が余りも可愛すぎて笑いが込み上げてくる。少し悪戯してやれと、唇を押さえている掌を、ぺろっと舐めてみた。
「にぎゃ~!!な、舐めた~!舐められた~!ゼ、ゼノのバカ!!舐めたら減るだろう!!バカ!!」
慌てて手を離し、真っ赤だった顔を湯気が出てるんじゃないか?というほど更に真っ赤にして、ゼノの服に舐められた手を擦り付けて拭う。
「人をバイ菌みたいに扱うなんて酷い!!それに、減るって、なにそれ。舐めた位で何が減るの?」
「減る!!僕の中の何かが確実に減った気がする!!」
と、涙目で、上目使いで睨まれて、ちょっとやり過ぎたかなと反省しつつ、お嬢の頭をクシャリと撫でながら、
「あ~。ハイハイ、そうですね~全ては俺が悪いんです。すいませんでしたね~。それより、いつまでもマリアさんを放ったらかしは、不味くない?」
ゼノの言葉に、ハッとした表情をして、お嬢がマリアを見ると、マリアは、ゼノが飛び蹴りで吹っ飛ぶという、衝撃的なシーンで呆然としていたのだが、再び始まった二人の舌戦、というより砂を吐きたくなるようなイチャイチャを生暖かい目で見守っていた。
そんな、生暖かい目に気づくことなく、少女は
「ああ~!!ごめんなさい。僕ったら自己紹介もしてなかったね。僕の名前はアリシア・コルト。マリアさん、立てる?足、怪我しちゃった!?」
と、座り込んだままのマリアを心配そうにのぞきこむ。
「ああ!ごめんなさい。大丈夫、怪我はしてません」
と、慌てて立とうとすると、少しふらついてしまった。
少女は、マリアに手を貸して立ち上がるのを助ける
お嬢の手を借りながらも、なんとか立ち上がり、
マリアは、優しく微笑んで、
「お礼が遅くなってしまいました。危ない所を助けて頂き、ありがとうございました。私はマリア・ユフリーと申します。」
と、アリシアの目をしっかりと見つめ礼を述べた。
「アイツに、何もされなかった?どこか痛いとことかない?」
マリアの手をキュッと握る。
それを見たゼノは、「ほら~。お嬢だって手、握ってたじゃない。なんで俺がダメで、お嬢は良いの!?」
納得いかないと、拗ねるゼノを睨み、
「僕は女で、お前は男だからだ!」
「え~なにそれ~。」
「それに、お前が触ったら妊娠する!」
「はぁ~なに、それ。触っただけで妊娠するわけ無いでしょ!?お嬢、まさか本気でいってるのソレ?」
「結構、本気で思ってる。」
「え~、お嬢の俺に対するイメージが酷すぎる。俺、泣いちゃいそう…。」
「勝手に泣け。」
「酷い~。」
クスンと嘘泣きをしだす。
再び始まった二人のじゃれあいに、思わず吹き出し、マリアはクスクスと笑いだした。
「お二人は、本当に仲が良いのですね。もしかして、お付き合いされているんですか?」
そう言って笑う。
アリシアは「まさか、こんな女誑しと、付き合ってなんかないよ!」と力一杯、否定し、力一杯、否定されたゼノは、「お嬢は、絶対何か勘違いしてる!!」と、両手で顔を覆って更に大袈裟に嘘泣きをし始めた。
そんな二人のやり取りが、微笑ましいくて、さっきまで冷えきっていた心が、ほんわり、暖かくなっていた。
いつまでも、二人のじゃれあいを見ていたくて、黙ってニコニコと眺めているマリアを見て、ゼノはもう大丈夫かなと、お嬢に、聞きたかったことを聞いた。
「お嬢、そういや、アイツどうした?」
一瞬、ポカンとアイツ?誰ソレと、完全に忘れていたが、ああ!と思い出して手を叩き、
「ああ、アイツね!あの馬鹿者なら、ロイが迎えに来てたから引き渡してきたよ…あ、そう言えば。ロイが、ゼノになんか話があるからゲートで待ってるって言ってたよ。」
そんな、アリシアの台詞に、ゼノの顔はゲンナリとした表情になっていた。
ストックが無くなってきちゃいました( ;∀;)
頑張って(・・;φします。