恋する乙女の敵は誰?
皆様、初めまして、卯月琴音と申します。
今まで、読専でしたが遂に書き出してしまいました。私なりの精一杯で頑張っていきます。可愛い私の子供たちの物語を楽しんで頂けたら幸せです。
「放して!放してください!!」
若い娘の悲痛な声が、こだまする。
あまり裕福な家庭ではない、質素な身形だが、顔立ちは美しい。
そんな美しい彼女の目には涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうになっていた。
住み慣れた村から、連れ拐われ、恋人でもない赤の他人に抱き抱えられて、今は、森の奥深くにまで来てしまっていた。
あまりにも、理不尽な扱いに泣いてしまったら負けてしまうような気がして、彼女は気丈にも泣くのを必死で我慢していた。
「煩い、いい加減諦めろ。」
娘を、抱き抱えているとは思えない速度で走る青年は、冷たく言い放つ。
「私には、将来を誓いあった婚約者がいるんです。お願いですから、村に帰らせてください。」
娘は、諦めきれず青年に訴えたが、青年はニヤリと笑うと、
「弱い人間の男の婚約者か…。そんな弱い奴に未練など残してどうする?そんなに弱い男が気になるなら未練など残らないように、今すぐ村に戻って、その婚約者様を、お前の目の前で殺してやろうか?」
と、クツクツと冷たく笑う。
「あぁ…そんな、なんて酷い…。」
泣くものかと、涙を堪えていた娘は、青年の
非道な言葉に涙がポロリとこぼれた。
彼女の、幼馴染みの恋人も、けっして弱い訳ではない。むしろ村で一番の強さだった。その強さはあくまでも人のためにと、今では王宮騎士として王都で頑張っている自慢の婚約者。
しかし、自慢の婚約者がどんなに強くても、今回は相手が悪すぎる。彼女を連れ去ろうとする青年は人間ではないからだ。
竜族と呼ばれる種族で、結界によって別けられた別世界の生き物。
人間など、とても歯が立たない戦闘能力を持ち、歯向かったところで、簡単に返り討ちにあってしまう。
人間が住むティリアコンウェと、竜族が住むブロフォンロトスには、結界によって自由に行き来出来ないようになっている。
その結界は、今や伝説として伝えられる竜族の竜姫と、人間の青年との恋物語が起源とされている。
しかし、その結界も長い年月のせいか、綻びがみえ始め、数年毎に訪れる竜族の繁殖期になると、結界の綻びから竜族の男達が、人間の娘に求婚しにやってくるようになった。
求婚といえば、聞えは良いが、実際は人間の娘を奪い去りに来ているようなものだった。
ほとんどの竜族の青年は人間の娘を口説き落とし、お互いに愛し合ってから、ブロフォンロトスの結界を駆け落ち同然で越えていく。
何故なら、二度と戻ってこれない、しかも人ではない竜族の世界に行ってしまうのだから、娘の親達が、結婚を許すことがないからだ。
そして愛し合う二人は、親に祝福されないまま、結界を越えていった。
残される家族は、大切な娘が駆け落ち同然で竜族の住む別世界に行ってしまったことで、心情的に竜族を憎むようになる。
こうして、人間世界において竜族の繁殖期とは、娘を持つ親達にとって、災厄以外の何物でもなかった。
そして、今回は既に婚約者がいる娘が竜族の青年に見初められた。
しかし、本来の竜族の青年なら、婚約者がいると判った時点で、求婚をあきらめる。
竜族の決まりで、無理強いはしてはならないと決まっているからだ。
なのに、青年は娘の言葉などに耳を貸さず、しつこく求婚し続けた。
婚約者のいる娘は、執拗な青年からの求婚を、根気強く断り続けていた。
だが、青年はついに、村から娘を連れ去るという実力行使に出た。
「脆弱な人間の男より、竜族の優れた強い子を生むのが、女の幸せというものだろう?大人しく俺の番になれ。そうすれば、その男の命は奪わないでいてやろう。」
と、竜族の青年は当然の事のように理不尽な台詞を口にする。
より強い子供を産むことが、女の幸せ?
そんなはずはない。愛しい人と、愛しあって子供を産むことが本当の幸せのはずだ。
でも…。
娘の脳裏に、婚約者の笑顔が浮かぶ。
『私が諦めてしまえば、あの人の命は助かる…。』
あの人の命が救われるなら…と弱気な心が頭をもたげる。
竜族の繁殖期が、よりによって今年だなんて。
収穫期を終え、過ごしやすくなる秋には、彼は村に帰ってくる。
そして強くて優しいあの人と結婚式をするはずだったのに…。
『私が諦めて、魔界に行けば、あの人は助かる。ならばあの人の為に…。』
一度弱気になってしまった娘の心は、抵抗しようとする気力をじわじわと奪い、諦めてしまえば楽になるとさえ思うようになっていた。
そうして何度も、そう思い諦めようとしても、彼への想いは強すぎて、その想いが溢れているかのように、娘の柔らかな頬にポロポロと涙がこぼれ続ける。
一度流れ出した涙は、止まることなく流れ落ち、彼女をどんどんと弱気にさせ、
『お願い、誰か助けて…。』と、心の中で呟いた…その時。
ある人の言葉がふいに甦ってきた。
今年になって、繁殖期を迎えた竜族の青年達が、結界の綻びからやって来たと、村に情報がきたのは、まだ春の初めだった。
やがて彼女の住む村にも竜族の青年が訪れ、彼女に一目惚れした青年は彼女に求婚し始めた。
彼女は何度も繰り返して、断り続けたが青年は諦めようとはしなかった。
あまりにも執拗な青年の求婚に恐怖を覚え、困り果てた娘は、竜族の男に言い寄られて困っていると、村の長老に相談したのだ。
「お婆様。私、竜族の男に連れ拐われるかも知れない…。」
最悪の事態を想像し、震える体を自ら抱き締めながら話すとお婆様は、
「万が一、連れ拐われた時は、人間界と魔界の結界付近で、力の限り助けを求めなさい。そうすれば、必ず彼らが現れ助けてくれる。忘れていけないよ。必ず助けを求めなさい。」
確かに、お婆様はそう言った。
今は、ちょうどその結界付近。
何もしなければ、ただ連れ拐われてしまうだけ。
救い人が現れなかった時は、私の運命はそう決まっていたのだと諦めよう。
今は、お婆様の言葉を信じて助けを呼ぼう!
覚悟を決めた娘は、力の限り、叫んだ。
「お願い!!誰でも良いから、私を助けて!!」
小鳥の囀りしか聞こえたない、静かだった森に、再び娘の助けを求める声が響き渡る。
そんな娘の悪足掻きに、竜族の青年が鼻で笑い、
「往生際の悪い娘だな。こんな森の奥深くに人などあるはずもないだろう。」
そう行って、歩みを進めようとした時。
「その言葉、待ってたよ!!」
彼らの頭上から、力強く凛とした声が降り注ぎ、彼らの足元に一人の影が伸びた。
最後の最後でヒロイン登場…。
正直、初投稿にドキドキです。夜、寝れるのかなぁ…。