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依存

作者: シルフィア

「幸せって……なんだろう?」


これは、いたって普通の物語。楽しめるかどうかはあなたしだい、何て。


「きり~つ、礼」

 

〈おねがいしま~す〉

 

また、いつもの日常が始まった。

 

「え~この公式は……」

 

分かってるよ、そこは昨日やったじゃないか。どうして、何度も同じところを繰り返すんだ?

 

「そりゃ、復習のためでしょ?」

 

休み時間に近くの奴に聞いてみた。

 

「復習?」

 

「あれ?やらない?今日勉強したことを家で勉強する、みたいな?」

 

「何のために?」 

 

まったく理解できない。だって一回勉強した所なんて、もう一回勉強しなくても分かるし。

 

「全員お前みたいに頭よくないんだよ!」

 

どうやら怒らせてしまったらしい。別にいいけど。

サボろうかな……

大体の内容は教科書を見れば分かる。それに……僕は一回見たものは絶対に忘れない。

瞬間記憶能力者なのだ。

だから一回すれば分かるし、公式なんか無くても問題丸暗記だ。

産まれた時からそうだったから、必死に勉強する人の気持ちが分からない。

そんな態度が気に食わないらしく、僕の友達は少ない。

友達なんていたって必要じゃないと思うけど、喋っていて楽しいと言うのは分かる。

 

「何だ?サボる気か?薫」

 

「良!うん、そのつもりだよ。だって聞かなくても分かるし……聞く必要ない」

 

そういった瞬間、みんなの視線が僕に集まる。

おかしいな、何かマズイ事言った?

 

「はは、さすがだね~オレはそんな事言えないぜ」

 

「そう?」

 

「当たり前だろ。でも……オレもサボろうかな。何かだるいし。一緒に行っていい?」

 

「ああ、良なら」

 

「他の奴は駄目なのか?そりゃ、光栄だね」

 

僕の友達は彼一人。他にはいない。

 

「う~ん!貸切!授業中だから当たり前だけど」

 

良は屋上に寝転がった。

 

「汚いよ?そんな風にして寝たら」

 

「何言ってるんだ。サボりの醍醐味って言ったら、昼寝だろう?寝なくて何をする!」

 

まだ、昼と言うには時間が早すぎる。そう言ってみると

 

「細かいことは気にしない!」

 

と言われてしまった。

 

ともあれ、僕も真似して良の横に寝てみる。下がぽかぽかしていて気持ちよかった。

 

「お前さ、いつもサボってる時何やってるの?」

 

良が聞く。

 

「僕?そうだな……特に何もせずに空を見てる、かな」

 

「時間もったいなくないか?」

 

「寝てても同じだよ」

 

「違うぞ。睡眠は人間の三大欲求の内の一つ。多く取っておく事に損はない。健康にもいいしな」

 

僕は思わず噴出した。

 

「なんか……良、お母さんみたい」

 

「よく言われるよ。誰にでも」

 

そっか、誰でも僕とあんまり変わらないことを思うんだな。

 

「当たり前だろ?みんなお前と同じ、人間なんだから」


「僕はそう思ってるけど……他の人達は違うみたいだし」


「そんなことないと思うけどな」


「だって、みんななんとなく僕を避けてない?」

 

「そりゃ……そうかもしれないけどさ」

 

「きっと、僕なんかと誰も話したくないんだよ」

 

「おい、オレのメンツ丸つぶれじゃないか!」

 

「良は……」

 

しばらく考えてから

 

「相当な物好き、かな」

 

「何だよ……それ。褒めてんの?貶してんの?」

 

「さぁ?どっちだろう?でも、僕は感謝してるよ。良と話してて、初めて友達もいいかなって思えるようになったから」

 

良が黙ってうつむく。

 

何か気に障るような事言っただろうか?

 

「良?」

 

「お前……そういうこと真顔で言うな。顔だけはいいんだから。誰か女子にでも見られたら……」

 

僕は普段、前髪で顔が半分は隠れているから、まず顔を見られると言うことがない。

 

「良だって女子じゃないか……」

 

時々忘れそうになるけど、良だって立派な『女子』なのだ。

 

「オレは女なんて意識ないからいいの。大体お前だってオレを女子とは考えてないだろう?」

 

「……うん」

 

何たって良はいつもこんな様子だ。一人称はオレだし、制服だって男用だ。良に言わせると、

 

「こっちの方が受けがいいから」

 

だそうだ。誰にかは知らない。

 

「だからいいの。生憎、何もお前にトキメクほど男に困ってないんで」

 

良は男の格好してる時はカッコいいくせに、女の格好をすると可愛く?と言うか綺麗になる。でも……

 

僕はいつもの良のほうがいい。そう言ってみると

 

「だから、そういうことを真顔で言うんじゃない!」

 

だった。反応が楽しい。

 

僕は良といるとき前髪をゴムで上げているから、顔が直接見える……らしい。(僕はあんまり気にしない)

 

「お前どうしてそんなに前髪を伸ばすんだ?切ったらもてると思うけどな」

 

「そんなの必要ない。僕は良と一緒の今が一番いいよ」

 

……今度は殴られた。

 

サボりは午前中だけで、午後からは授業に戻った。相変わらずつまらない授業だった。

 

そして、放課後。

 

「ねえ、源君。私達と一緒に帰ろう!お願い」

 源君と呼ばれたのは良のことだ。

 

「えっ、別にいい……」

 

「帰ろう、良!」

 

「薫?でも……」

 

「帰りは僕のうちで勉強会。そう言い出したの良でしょ?忘れちゃったの?」

 

「あっ、ああ、そうだったな。分かったよ、だからそう引っ張るなって!ゴメン、オレは薫と行かなきゃいけないから、また今度!」

 

僕は半ば強引に良を引っ張っていった。

 

「ここまでくれば……」

 

靴箱で靴を履き替えて、ここは校門から出てすぐの所。

 

「あの~薫君?オレはお前と勉強会の約束した覚えはないんだけどな~」

 

「断れないでしょ?ああいうの」

 

「……ありがとう」

 

良は誰にでも優しいからこそ『お願い』を断ることが出来ない。

それを知っているクラスの女子は良と帰りたい時、決まってお願いをする。

まったく、人の弱みに付け込むなんて……

 

「お前、何も見てないみたいだけど、よく人のこと見てるよな。オレ、いつもこんなんだから好きなんだと思い込まれる事の方が多いんだけど……」

 

「だって、良の笑顔、いつもより引きつってたから」

 

「目ざといことで」

 

分かるよ。だって、良は僕のたった一人の『友達』だから。

そんなことを言うとまた怒られるだろうから、もちろん言わなかった。




次の日の朝、僕は良と一緒に学校に行った。偶然道端であったのだ。

 

「偶然……だよ」

 

そう、僕が待ち伏せていたなんて事はない。

 

「珍しいな。お前がこんなに朝早く学校に行くなんて」

 

「そうかな?」

 

実際にまだ眠い。

 

「おいおい、ふらふらしてるけど大丈夫か?」

 

「うん、平気だよ。今日は保健室でサボろうかな。ベットのほうが寝心地いいし」

 

「お前……昨日で昼寝の味を覚えたな」

 

「まぁね」

 

「たまには授業にも出るんだぞ?単位取れなくて留年なんてことになったら大変じゃないか。お前の親に受けてないなんて事が知れたら問題だろ?」

 

「……うん」


家の親は本当にめんどくさい人達だ。

自分の体裁ばかり気にするから僕に自由はないし、親が権力者だと人間関係が難しい。

 

「だったら、たまにでいいから授業こいよ」

 

「僕だって一日中サボるつもりはないよ」

 

「そっか、ならいい」

 

良のこんな所が好きだ。授業を受けろとは言うけど決して押し付けがましくない。適度に距離を保ってくれる。

 

「早く行かないと遅刻する。いつもより早いから大丈夫だと思うけど」

 

良は小走りに走り出した。


「ねぇ、良。この問題なんだけど……」

 

「何だ?お前も分からない所なんてあるんだな」

 

「……あるよ。たまには」

 

サボりも早々に引き上げて、僕はまじめに授業に出ていた。

 

「お前……全部あってるじゃないか」

 

僕の答案を丸付けしていた良が答案用紙を突きつける。

 

「これは……」

 

「あのな~オレだって暇じゃないんだぞ?分かってるなら自分で解いてくれ」

 

「……ゴメン」

 

「そんな顔するなよ。帰りに何か買ってやるから、な?」

 

「……うん」

 

卑怯だ。昨日弱みに付け込むのは駄目だと思ったばっかりなのに。

良は人の悲しげな顔を見るのが苦手なのだ。


放課後、良は今日もクラスの女子からの誘いを断って僕と一緒に帰っていた。


「よかったの?良が自分から女子の誘いを断るなんて珍しいね」


「え?だって今日は本当に薫と約束があったし」


「……」


うれしい、僕の事を優先させてくれる、それが嬉しかった。


「あっ、でも今日習い事はよかったのか?」


「うん。今日は何もない日、夜にはあるけどね」


「いいとこのお坊ちゃんも大変だな~」


「まぁね」


僕と良は正反対だった。

僕は金持ちの長男。

良は孤児院の保母さんだ。

……良には親がいない。孤児院に預けられ、それに恩義を感じて孤児院を手伝っているらしい。

一方僕は、ちょっと口煩いけど優しい両親に恵まれ、何不自由なく暮らしてきた。

もしかしたら僕は自分と正反対の良を見て優越感に浸りたいだけなのかも知れない。


「どうした?変な顔して、お前らしくない。いつもの自信満々の顔がお前には似合ってるよ」


コロコロと良が笑う。

僕今すごく嫌なこと考えてたんだよ?それなのに……


「良は優しいね」


「はぁ?」


「だって、僕みたいな性格悪い人とも友達になってくれて」


「……何を勘違いしてるかは知らないけど、オレは何もお前と情けで一緒にいるわけじゃないんだぜ?」


「え?」


「お前ってさ、物事を不思議な見方するんだよな。オレは一回見ただけで覚えるなんて出来ないから、何回もやらないといけないし」

「でも……そのせいで……」


僕には友達が少ないのだ。


「瞬間記憶はお前にとって特技じゃないか」


「特技?」


「そうだろ?他の人が出来ない事だってお前には出来る。世界記録だって作れるかもしれないじゃないか。それは特技だろ?」


「世界記録なんて欲しくない。僕はただ普通の男子高生として普通に暮らしたいだけなんだ」


「何だ。じゃあ、そうすればいい」


「それが出来ないから困ってるんじゃないか!」


「出来るさ。ちょっと心を開いてみればいい。お前、自分が他と違う力を持っているせいで構えてるんじゃないのか?大丈夫、お前はどこからどう見ても普通の男だよ」


「僕が……普通?」


「傍から見ただけじゃ瞬間記憶能力者だなんて分からない。お前が言わなきゃお前はその人にとって記憶力のいいただの男の子になるんだよ」


「そんな……」


ただそれだけ?僕が言わなければ分からない?


「学校の奴らもほとんど知らないんじゃないかなぁ。オレ達の会話を聞いた奴らぐらいかな」


「ほんとに?みんな知らない?」


「そのはずだ。絶対記憶能力者なんてそこらじゅうに転がってる物じゃないから、目の前にいる奴がそうだなんてだれも思わないさ」


「……なんだ、それでいいんだ」


「そうだよ、気が楽になった?」


「うん。ありがとう」


「じゃあ奢りの話はなしな。さっきのでチャラ!」


しっかりしてるな。

 

「いいよ、それで」

 

よし、と言って良は笑った。それにつられて僕も笑う。


次の日、一人で学校に行った僕は早速良の教えを実感することになった。

 

「あれ?薫君今日は一人なの?」

 

クラスの女子が僕に声をかけて来たのだ。

 

「あっ、うん。良とは別」

 

「そうなんだ~いつも一緒だよね。羨ましいな」

 

「あのさ」

 

「何?」

 

「僕、おかしくない?」

 

「別に普通だよ。ほら、早く行かないと遅れちゃう!急ご」

 

「……うん」

 

良以外の人とこんなに喋ったのはいつぶりだろう?

 

昼休み、僕は良に今朝の事を早く話したくてご飯に誘おうとした。

 

「りょ……」

 

「源!一緒に飯食おうぜ!」

 

「いいけど?」

 

出端を挫かれてしまった。

そっか……良には普通の友達がいるんだ。何も僕だけじゃなくて……

なんとなく話しかける気になれなくて、僕は一人屋上でご飯を食べた。


その後も教室に行く気になれず、僕は午後の授業をサボった。

それでも家に帰る気になれず、ずっと奥上にいた。

連絡もしていないから母さん達も心配しているはずだ。

でも何故か何もする気にはならなかった。

 

「薫!」

 

どこかで良の声がした気がした。空耳かと流しておく。

 

「薫ってば!」

 

近くで叫ばれて気が付いた。本物の良だ。

 

「良?」


「お前こんな所で何やってるんだ!親御さん心配してたぞ。オレの所に泊めてますって言っておいたけど……習い事がない日でよかったな」

 

そこまで一息で言うと良はため息を付いた。

 

「まったく……心配させるなよ。昨日オレがあんなこと言ったから、まさか変な奴に心を開いて連れて行かれたのかと」

 

「……動けなかったんだ」

 

「はぁ?」

 

「なんとなく、ここから動く気力がなくて……」

 

「気力がないって……とにかくうち来いよ。寒いだろ?」

 

「……動きたくないんだ」

 

「オレに運んで行けって言うのか?」

 

「しばらくこのままにしておいて、明日には動くから」

 

今は良の顔が一番見たくなかった。

 

「放っておけるか!とにかく家まで……」

 

「これだから嫌いなんだ。僕の瞬間記憶能力」

 

「え?」

 

「頭から離れないんだよ。今日の昼見た良の楽しそうな顔が……忘れられないんだ」

 

「……オレは楽しんじゃいけないのか?」

 

「そうじゃない。前にいるのが僕じゃないからこんなに腹が立ってるんだ!」

 

つい口を滑らせてしまったことに気が付いてはっとする。

 

「それって……やきもち?」

 

自分で自分が赤面するのが分かった。

 

「なんだ……そうならそうと言ってくれればいいのに」

 

「こんな恥ずかしいこと……言えないよ」

 

今言った訳だけど、これは弾みと言うやつだ。

 

「えっとなんだ、嬉しいよ。お前がそう思ってくれるのは。よし、明日からお前も一緒に話そう。みんな悪いやつらじゃないよ」

 

「でも……」

 

「今日の朝は普通に話せてたじゃないか」

 

「そうなんだ……けど?」

 

あれ?何で良が知ってるんだ?

 

「もしかして……良……」

 

「ゴメン、見ちゃった」

 

さらに赤面する。

 

「珍しいもの見たから、からかってやろうと思ったのに今日お前昼来なかっただろ?気になってはいたんだけど……」

 

「……話せるかな?普通に」

 

「話せるさ」

 

「そうだね」


口ではそう言っておいた。

そう言わないと過保護な良のことだから、僕を無理にでも他の人と仲良くしようとするだろうから。


僕には良がいればいい。

良がいてくれれば何もいらない。何も欲しくない。

僕は今、『幸せ』だ。


『また一人、オレに依存した者が増えた……』

人知れず良が悲しく笑ったことを知る者はいない。

                      ~END~


 依存いていくものたち、それは限りなく増えていく。良に依存していく人たちの話はまた別の機会に、どの物語にも大概出現する源良、彼女(?)はいったい何者なのか?


 今回の作品を見てくださり、まことにありがとうございます。

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