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ランチタイム

ランチタイム  ―スープ―

作者: みほ

 お気に入りのレストラン。


 いつもディナータイムにしかきたことなかった。



 昼と夜と時間帯で随分、雰囲気がちがうことにおどろいたが、まぁ、そんなことはどうでもよかった。


 休日、できるだけ外で食べるようにしている。自分では絶対につくらないようなものや、見た目のあざやかさ、何より、外での食事は一人でも楽しく食べることができる。


 店に入ると、窓側の席へ案内された。奥のソファ席がいいなぁ…と思いながらコートをぬいでいたら、別の店員さんがきて、ソファ席も空いてますよ。と案内してくれて、ちょっとうれしかった。


 ソファの上に深くすわって店内全体をみわたす。いつもの癖がでる。飲食店で働いていた経験のある人はわかると思うが、店員さんの動きをついついチェックしてしまう。


 お客さんが入ってきて、誰にも気づかれてない時、なぜかあせってしまう。


 飲食店で働いていた当時なんか、自分が食べにきてるのに、お客がはいってくると「いらっしゃいませー!」といってしまった事もある。軽い病気だと思った。



 私はこの空間が好きだ。



 いろんな人が集まってくる。



 隣の席に主婦らしき三人がすわっていて、スポーツジムの話で盛り上がっていた。


 知り合いなのか、すごく熱心にスポーツジムに通っている人がいるらしい。

「あんなに通って家の事ちゃんとできてるのかしら?」「ねぇー」


 ちゃんとっていうのはどういうことなんだろう?

 私のなかでは、ごはんを食べて、眠ることができる。考えることができる。それでいい。


 反対隣のテーブルでは、仕事の話をしている。次の企画をどうしようというものだった。

 こっちは顔が疲れきっている。


 いろんな価値観があるもんだな…と思う。


 人の数だけ価値観があって、きっと全く同じ価値観は存在しないのだろう。智也とだってそうだ。


 智也と知り合ったのは短大を卒業してすぐの頃。友達の友達だった。それからよく遊ぶようになり、好きになったけど、その頃、彼には彼女がいた。何度か会った事がある。二重の目が印象的で、女のわたしから見てもかわいいと思える子だった。


 だけど、彼はケンカして別れてしまった。そして、へこんでいた。


 何年かして、私と智也は一緒に住み始めた。なぜ一緒に住み始めたのかわからない。私には恋愛感情はあったけど、智也にはわからない。住み始めて四年が経つがわからない、聞いたこともない。知り合った人に彼氏いるの?と聞かれても「好きな人はいます」がいつものセリフ。


 私は心のどこかで予想していた。案の定その日はやってきた。


「嫌いじゃない。でも一緒にいるとダメになる。」

 それが別れのセリフ。一言で今までの数年間を全否定された気分だった。いや、実際そうなのだろう。


 わかっていたのだ。恋人でもない、友達でもない、そんな中途半端な関係はずっとは続かないこと。それが四年間も一緒にいれた。だから、私は「ありがとう」といった。


 予想とちがったのは、ただちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、言葉が痛かったこと。


 友達に戻ろう。別れ際によく聞く言葉を彼は言った。きっと戻れない。だって、友達じゃなかったから。



「お待たせいたしましたー」

 温かいスープが運ばれてきた。まだ、寒さの残る季節には、スープがよく似合う。


 口にはこぶと優しい味が口の中いっぱいに広がっていき、やがて身体のすみずみにまでとどけられる。


 私は自分の事を好きになってみようと思う。今まで一度もすきになったことがない。このスープのように、じっくり自分を味わってみようと思う。


 この寒さがなくなれば、桜の花が咲く頃だろう。その頃には、自分の事好きになっているだろうか。



 光の差し込むこの時間がすきだ。いろんなひとがいる。美味しいものがある。




 わたしはレストランがすきだ。








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― 新着の感想 ―
[一言] 私もレストラン好きです♪ えっと、初めましてユイです。 いろいろな短編を探していたらあなたの作品を見つけたので・・。 ほのぼのとしていて、良いですね☆
2012/03/18 00:14 退会済み
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