世界が冷たく感じても、君を愛してる
ご一読いただきありがとうございます。
これが私の初めての短編作品です。
至らぬ点や誤字脱字などあるかと思いますが、ご容赦いただけますと幸いです。
この物語が、少しでも皆様の心に届くことを願っています。
春、4月17日
俺は一人の少女に出会った。同じクラスの有名人で、幼馴染の長谷川海だ。
彼女は校門の前で猫と遊んでいた。通り過ぎようとしたその時、突然、彼女が俺の前に立ちふさがった。
「ねえ、裕二!」
海はそう言って、俺の目の前に猫を突き出してきた。
俺は速攻でくしゃみを連発する。猫アレルギーなんだ。
「そ、それをどけろ! こっちに来るな!」
俺は逃げたが、海は猫を抱えたまま追いかけてくる。
「この猫と向き合いなさい! あはははっ!」
逃げ回る途中、彼女が足を滑らせて俺の上に倒れ込んできた。猫はその隙に逃げていく。
「海、早くどけ。重いぞ!」
海は不満げに口を尖らせた。
「ちょっと、太ってないわよ! それに、これってラブコメの漫画みたいで嬉しいでしょ?」
俺は彼女をどかして教室へ向かった。彼女は茶化しながらついてくる。
そんな、ありふれた毎日が続いていた。
夏、8月22日
修学旅行。俺たちは同じグループになった。
最初は二人とも拒んでいたが、結局は諦めて同じ班で活動することになった。班の中では、相変わらず犬と猿のように喧嘩ばかりしていた。
二日目。全グループに、薪拾いや魚釣り、そして食料となる植物の採取という課題が出された。
薪を探している最中、俺と海はまた口論になり、そのままはぐれてしまった。
夜になり、激しい雨が降り始めた。だが、海の姿はどこにもない。
俺は必死に森の中を走り回った。一時間ほど経った頃、ようやく木の下で倒れている彼女を見つけた。
「海! 起きろ!!」
パニックになりながら声を上げたが、彼女は反応しない。
俺は自分のレインコートを彼女に着せ、おんぶして宿舎まで運び、先生に助けを求めた。
しばらくして医師が到着し、海の容体を確認した。
「雨の中、長時間外にいたことによる低体温症です。今は安静にさせてあげなさい」
医師の冷静な言葉に、俺は少しだけ胸をなでおろした。
四時間後、海がようやく目を覚ました。俺は思わず駆け寄り、彼女を強く抱きしめた。
「ちょ、バカ……何抱きついてんのよ!?」
海は顔を真っ赤にして叫んだ。
彼女は、俺に置いていかれた後、道に迷ってしまったのだという。俺は彼女の前に土下座して、あの時一人にしてしまったことを謝った。
海は俺の額を軽く小突き、優しく微笑んだ。
「バカ。……ありがとう」
最終日、夕暮れの浜辺に誘われた。
彼女は、幸せな家庭を築いて理想のお嫁さんになりたい、という自分の夢を語り始めた。
海がこれほどまでに「幸せな家庭」に固執する理由を、俺は知っていた。
幼い頃に両親が離婚し、父親に引き取られたが、そこで酷い扱いを受け続けた彼女は家を飛び出したのだ。それ以来、ずっと祖母の家で暮らしている。
俺は彼女を優しく見つめ、口を開いた。
「お前、将来は鬼嫁になりそうだな」
空気を和らげようと、冗談交じりに言う。
「ちょっと! 鬼嫁になんてならないわよ!! 笑わないでよ、バカ!!」
彼女はポカポカと、俺の肩を軽く叩いた。
沈んでいく太陽を見つめながら、俺はついに自分の想いを彼女に伝えた。
海は驚いて赤面し、俺に近づいて弱々しく拳を振るった。
「私……ずっと待ってたんだからね、バカ!! 裕二のバカ、バカ、バカ!!」
しばらくして、彼女は涙を浮かべながら、最高の笑顔で言った。
「私も大好きだよ、大バカ者!」
燃えるような夕陽の中で、俺たちは静かに抱き合った。
二年目の秋、9月23日
付き合って一年。俺たちの関係は相変わらずだった。
休日の遊園地デート。最後のアトラクション、観覧車の中で魔法のような時間を過ごしていた。
「裕二、もし私が先にいなくなったら、どうする?」
真剣な、少し小さな声で、彼女は俺の肩に頭を預けた。
「……どういう意味だよ?」
「ううん、ただ聞いてみただけ。どうする?」
俺は俯いた。
「わからない。お前は俺にとって唯一無二の宝物だ。ずっと一緒に生きて、お前の夢通り、家族になりたいと思ってる」
「はは、冗談だよ! ずっと隣で文句言って、からかってあげるから」
海は強く抱きしめてきた。
……それが、彼女の笑顔を見た最後だった。
一週間後、彼女は事故で脳を負傷し、昏睡状態に陥った。
三年目の冬、12月25日
海が病院のベッドで眠り続けて一年。
俺は昼も夜も、彼女のそばにいた。
「来週、卒業だよ、海」
彼女の手を握りしめる。
「みんな待ってるんだ。一緒に卒業して、屋上に落書きするって約束しただろ? だから……お願いだ、起きて、また笑ってくれ」
声が震え、俺は静かに泣いた。
一週間後、元日。花を持って彼女の元へ向かった。
しかし、彼女の部屋は面会謝絶になっていた。
パニックで部屋に押し入ると、持っていた花が手から落ちた。
モニターの鼓動は止まっていた。外では花火の音が響いているのに、ここには残酷な静寂しかなかった。
「海、起きろよ! 約束しただろ、お前の夢を叶えるって!!」
俺は泣き崩れた。
「俺の人生は、お前がいないと意味がないんだ、海! だからお願いだ、起きてくれ!!」
俺は医者の襟首を掴み、そして足元に縋り付いて泣き叫んだ。
「先生、海を助けてください!! お願いします!!」
医者は何も言わず、ただ黙っていた。
葬儀の日。花を持って参列した。親族や友人の泣き声が響く。
俺は何も感じなかった。怒りも悲しみもなく、ただ、空っぽの虚無だけがあった。
5年後
ようやく現実を受け入れられるようになったが、彼女との思い出は今も鮮明だ。
彼女の誕生日には、必ず墓を訪れて近況を報告する。
「海、そっちで幸せにやってるか? ……俺が幸せになっていいのか分からないけど、一歩ずつ進んでみるよ」
少し沈黙して、俺は続けた。
「お前がいつも隣で見守ってくれてるのは分かってる。いつでも、どこにいても、愛してるよ」
最後に一度だけ微笑んで、俺はその場を後にした。
冬の街は冷たいけれど、二人で作った温かい記憶が、俺の心を包んでいた。
さよなら、海。
ずっと、愛してる。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆様からのご感想やアドバイスをいただければ幸いです。
次回の作品も楽しみにしていてください。




