「アメリカとの関税15%」と「石破首相退陣論」について
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は「アメリカとの相互関税が15%」で妥結したということと「石破総理退陣」について語っていこうと思います。
※7月23日時点での内容になります。
◇相互関税は「何を代償に」10%下がったのか?
質問者:
まずはアメリカとの相互関税についてです。
期限まで妥結できないのではないか? と筆者さんはおっしゃっていましたが、1週間以上も早く、しかも10%下がるとは思いませんでしたね……。
筆者:
これをプラスに評価していいかどうかは詳細を見るまでは正直分からないところです。
トランプ大統領は日本に対する「非関税障壁」や「貿易赤字」について問題にしていたから25%上乗せしようとしていたわけです。
それが、いきなり10%下がるというのは何かしら「代償」があったとしか思えません。
特に車に関しては25%の関税を下げさせたのは日本が初の上に台数制限もないというのは異例中の異例だと思います。
現状では「日本が5500億ドル(約80兆円)を米国に投資し、利益の90%を米国が受け取る」とトランプ氏がX(旧ツイッター)で投稿がありました。
25年2月の日米首脳会談では「1兆ドル(約150兆円)の投資」とあったのと比べると下がっているとは思えないので、当時の会談と「別枠」であるか「内訳が悲惨になった」の2つの状況が考えられます。
どちらにせよ、あまり良いこととは思えません。
僕が政府で交渉担当ならトランプ大統領が「非関税障壁」と挙げている消費税を廃止して10%下げさせます。
消費税は価格を下げる効果は皆さんが思うほどは無いと思うんですけど(欧米の統計では3割しか下がらない)、給料が控除にならないという企業にとって給料上昇のインセンティブが薄い「賃下げ税制」と言え、廃止することこそ「賃上げ」に繋がります。
質問者:
なるほど、諸手を挙げて評価できないということですか……。
筆者:
そもそも日本の「経常収支対外黒字」というのは「不健全」です。
以下は第一生命経済研究所経済調査部首席エコミスト永濱利廣氏がIMFのデータを参考に日独の経常収支の内訳を分析したグラフです。
この日独の黒字の内容の割合を見ていただければ、右のドイツのプラスのオレンジが貿易収支、左の日本の青色が所得収支のために同じ経常収支黒字でも全く違うわけです。
「所得収支」というのは日本の会社または政府が海外に投資して黒字――つまりは、日本国内からの稼ぎが海外へ投資して流出しているということです。
対してドイツの貿易収支が黒字で経常収支がプラスなのはドイツ国内の従業員や生産力が外貨を稼いでいるために非常に健全と言えます。
質問者:
元々日本は自国の企業の利益で海外に投資していたということなんですね……。
筆者:
つまり、日本人から得た利益を更にアメリカに流すことを意味しているということです。
更に米に関しても日本が毎年およそ77万トンの米を関税をかけず義務的に輸入する「ミニマムアクセス」の枠内で、アメリカから輸入する割合を増やすことが盛り込まれたそうです。
ミニマムアクセスの範囲内だからOKという見方もありますけど、「需給状況を見て」ということもあるようです。
日本は農家の戸別保障が無ければ日本の供給力が下がっていくのは目に見えているために、将来的には「アメリカ米だらけ」になるでしょう。
質問者:
でもとりあえずは10%下がったということで良しとはならないんでしょうか?
筆者:
確かにそんな風に25%と比べると10%下がったことから評価する見方もありますけど、
元々がほとんどない状態から15%になったんですからね。
石破内閣は「完全撤廃」を目指して動いていたと思うので日本から国富が流出することが確定したのも含めると「完全敗北」と言って良いでしょう。
「25%の関税」の場合は経済成長率が「-0.8%」になるとも言われていましたが、それが「-0.5%」になるぐらいなんじゃないかと思います。
元の状態になったわけじゃないので影響は避けられませんよ。
※車の追加関税に関しては15%に下がったものの、鉄鋼アルミに関しては50%が堅持されたようです。
また、「関税交渉とは別枠」とされているものの、防衛関連米国兵器受注170億ドル相当を毎年購入やボーイングの飛行機100機購入することも行うようです。
◇石破首相は退陣するのか?
質問者:
確かに元が低いから実はかなり上がっていると見た方が良いのかもしれませんね……。
次に、石破首相の退陣表明が報じられた後、自ら否定するという「珍事」とも言える事態が起きたんですけど……。
筆者:
「8月までに退陣を表明する意向を固め、周辺に伝えた」とした毎日新聞の報道が誤報もしくは「首相周辺」が妄想を伝えたかもしれません。
元総理3人の会談で逆に続投が決まっていたのでしたら、情報元か毎日新聞の責任が問われることになるでしょうね。
質問者:
実際はどうなんでしょうかね?
筆者:
石破首相の心のうちまでは分かりませんけど、
僕は石破首相のこれまでの言動からして不信任成立以外で退陣は無いと思っていた人間なのですが、むしろ辞任の確率が50%まで上がったという感じです。
これには大きく2つ見方があると思います。
1つは上記の関税交渉をまとめたと(株価は上昇しましたし)国民が評価する動きも少なからずあるため続投するということ。
2つ目は「関税交渉を国難」と位置付けて続投しようとしていたために、「役割を終えた」という見方です。
僕がポイントとしたいのは上記の関税交渉成立が「参院選前」ではなく、「7月23日」のタイミングである点だと思います。
この内容なら19日以前にまとまっていてもおかしくないと思うので、「アメリカ側が敢えて選挙後にした」という見方もあります(ベッセント長官が19日に関西万博訪問のために日本にいたため成立は不可能では無かった)。
そうなると「アメリカは石破政権に選挙で負けて欲しい」というメッセージもあると思うのです。
質問者:
確かに、選挙前に交渉が成立したのであれば、あと3議席だったのでもしかしたら自公で過半数を維持していたかもしれませんからね……。
筆者:
どちらかというと石破内閣は親中派だと思うんですけど、
なんだかんだで、アメリカの評価が無ければ政権運営は厳しいと思います。
ここで正式に退陣表明しなかったのはある種の「トランプ大統領の石破氏への最後の配慮」の可能性もあります。
妥結したのは石破政権なのは間違いないので、関税交渉を正式に結ぶまでは辞めないという密約があるということです。
質問者:
なるほど……。そうなると近い将来に辞められるのが既定路線なんでしょうか?
筆者:
ただ、アメリカとしては「日本が弱い方がよりアメリカに従属してくれて有利」という見方もあります。
衆参過半数割れで求心力が低下している政権でもアメリカが絶妙にお墨付きを与えることでよりアメリカに有利な交渉を引き出し続けられることも狙っているかもしれません。
ただ、どんな政権でもアメリカが有利に交渉していることは事実で、だれが首相になろうとも安倍政権よりは弱いことは間違いない状況なので「やりやすい」と思うでしょうね。
そうなると、特に日本政治に事実上の介入をすることなく「静観」もあると思います。
質問者:
確かに今後は法律が成立する確率が下がるので、より政治が混乱するかもしれませんね……。
筆者:
野党側としては減税法案を出して成立する可能性が上がったので「減税公約の本気度」を測れるので「政治家を評価する環境」はいつになく整っていると言えると思いますけどね。
これについては秋の国会の際に詳しく話そうと思いますけどね。
◇「8月退陣報道」の意図
質問者:
ところで、「退陣」の報道でも「8月末」とあったんですけど、あれはどういうことなんでしょうか?
辞任するのならどうして今ではないんでしょうか?
筆者:
8月1日に参議院の新たな議長や副議長などを選ぶための臨時国会が開かれるのですが、
今辞任をしてしまうと首相指名選挙も同時に行われるために、この1週間以内で自民党の新しい総裁を選ばなくてはいけません。
流石にそれでは時間が無さすぎるということです。(野党でも立憲民主党が議席を増やせなかったことから求心力が低下しているために不信任を出しにくい状況にある)
次に、この8月15日には「戦後80年」であるために「平和構築のための石破談話」が出されると言われています。
その内容の詳細については分からないので評価しにくいんですけど、「戦後談話」というのはそれぞれ歴史に残るほどの談話になっているので「最後の花道」としてやらせてあげようという風潮もあるのでしょう。
(親中政権であるために中国に対して利益、日本に対して損失があるような談話が一部では警戒されているようです)
自民党の両院議員懇談会が7月28日に開催されるそうなので、そこでどれだけ首相に対する反対論や“降ろし”があるかがまず注目だと思います。
質問者:
何だか、選挙で選ばれた人たちなのに「国民」が置いてけぼりな気がしますね……。
筆者:
政治家というのは「選挙の直前だけ」国民のための政策を述べ始める人たちだと思っておいた方が良いですよ。
なるべくそうならないようにするために日頃から意見を発信した方が良いということです。
質問者:
実際に早期に石破さんが退陣することは日本にとってプラスになるんでしょうか?
筆者:
長期的に見た場合には「企業献金と組織票の権化」である自民党は壊滅した方が良いです。
日本国民というより、企業や組織のための政治を続けることになりますからね。
グローバル化が進んでいる中、企業と日本国民はイコールになりませんからね。
そして、衆議院選挙と参議院選挙と大敗した初の総理大臣である石破首相が居座れば居座るほど「自民党の自浄能力」というのに疑問符が付き、自民党への支持というのが減っていくと思います。
つまり「自民党壊滅」に向けては最短ルートにも思えるのです。
僕の結論で言うと、短期的に見たら公約を速攻で反故にする石破首相はすぐさま辞任した方が良いと思いますが、長期的に見た場合は居座ってくれた方が日本にとってプラスかなと思います。
質問者:
一見すると石破さんはすぐに辞任した方が良い気もしますけど、
色々と見た目通りでは無いということなんですね……。
筆者:
日本の周辺の国際環境も総合すると本当に一概に評価することは難しいですね。
僕も100%合っているとは思いませんけど、自分の政治・経済について考えを発信していきますのでどうぞご覧ください。