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河童子  作者: 黒猫ミー助
3/12

◆3 河童子伝承歌




 「河童子(かわわらし)?もしかして河童(かっぱ)の事ですか?」

 藪沢(やぶさわ)の言葉に対して、美作(みまさか)は露骨に眉をひそめた。

 その目には、河童なんてありふれた伝承を今更調べてどうするの?という心の声が滲み出ていた。


 「河童(かっぱ)ではないよ。河童子(かわわらし)だ。

 皿も無ければクチバシも無い。肌の色も人と変わらない。…水掻きはどうだか分からんが。

 人と同じ服を着て、人と同じ言葉を喋る

 背格好は子供。大体、5歳〜12歳くらいらしい

 人と同じ様に笑い、人と同じ様に泣く…そうだ」

 美作は首を傾げた。

 「…それって、普通の子供って言いません?」

 それこそ伝承ですら無いじゃないか。こんな田舎まで何を調べに来たんだ…と、言外に非難した。

 ここ迄の説明だけなら当然の疑問だろう。


 「外側は…そうらしい。…うん、ただの子供だ」

 藪沢は、彼らが人とは違う理由を説明した。

 「彼らは死なない。そして成長しない…らしい。

 治三郎くんから聴いた話ではな」


 「え…?それって不老不死!?」

 美作は口を押さえて目を丸くした。

 「あくまで、治三郎くんが親や親戚から聞いた話では…だ。

 そこら辺の齟齬(そご)の調査と、別視点からの河童子伝承についての聞き込み。それと、河童子の起源についての手掛かりを探る。

 それが、私がこの村に来た理由だ」


 藪沢は、高下屋敷治三郎から聞いた『鏡谷擂(かがやずり)河童子(かわわらし)伝承歌(かたりつたえ)』を彼女に歌って聴かせた。



 むがし、蛇神いがっだど。

 おおぐのたみがのうなった。おおぐの田畑があれはでだ。


 んだがら、おぞれでさざげだど。蛇神ごのむ、とぶ鳥ど。

 蛇神 鳥さまんぞぐし、ふただびふがぐ眠ったど。

 (かみ)はぐ出したえの者ば、末代までをただえだど。


 目出度え目出度え、へびがみの。

 祝えや祝え、ぐのえをば。


 だけんどぐ出したえの者ば、あと鳥なぐしてかなじんだ。

 えのなぎごえをわづらへば、蛇神、鳥さかえしだど。

 もどり鳥ば巣にもどり、えのものよろごぶ祝い酒。


 目出度え目出度え、りゅうじんの。

 祝えや祝え、かわのごの。


 んだども上ばもどり鳥、おぞれでふるえでおごっだど。

 ぐを出させだ上のえば、上のえらにめいじだど。

 ひそがにころじてしまえどさ。かわさしずめでしづめよど。


 あはれだあはれだ、へびがみの。

 悲しい悲しい、ぐのえをば。


 だげんど鳥さしずめでも、鳥さぎょうにはもどりぐる。

 しずめられだそのままに。しづめられだそのままに。

 上のえらばおそれだど、ぐをさ神とあがめだど。


 目出度え目出度え、りゅうじんの。

 祝えや祝え、かわのごを。



 「以上が、河童子(かわわらし)伝承歌(かたりつたえ)だそうだ」

 藪沢は、節を付けて一気に歌った。

 美作は目をまん丸くして拍手をしている。

 「はぁ…先生、意外と歌が上手いんですねぇ…」

 彼女は的外れな感想を述べた。

 「それが民俗学を学んだ者としての感想かね?

 他に言及する事は無いのかね?」

 藪沢は呆れて、普段、生徒達に問う様に美作に尋ねた。


 「……すいません。

 ちょっとばかり方言がキツくて…

 いくつか…いえ、結構聴き取れないところが…」

 美作は横を向いて頬を掻く。

 「何度か出てきた『ぐ』とか『え』とか…何ですか?」


 面倒くさくなり、放り出そうかとも考えた藪沢だったが、今後の事を考えて解説だけはしてやろうと口を開いた。


 「『ぐ』とは恐らく『供』、供物の事だろう。つまり、生贄だな。

 『え』は、こちらの方言で『家』の事だ」

 「と、なると…『ぐ』の『え』は……

 うぇ…やっぱり嫌な歌だったわ…」

 轢かれたヒキガエルの様な声を出す美作。


 「蛇とは日本各地にある弁財天の話と同じ様に川の事…蛇神は川の神と考えてよろしいのですか?」

 「そうだ。

 この村では龍神川の事を、別名、蛇神様と呼ぶらしい」

 「つまり、蛇神がいがっだ…とは、龍神川の氾濫でしょうか?」

 藪沢は、生徒の答えを吟味する教師の様な態度で頷いた。


 「鳥は…恐らく『供』にされた『跡取り』…子供の事だろうな。

 もどり鳥とは…多分だが、生きて戻った子供の事だと推測する」

 藪沢は少し自信無さげに付け足した。

 「供…生贄にされた子供が生きて戻る事があるんですか?」

 美作は、非難の眼差しを何故か藪沢に向けた。


 藪沢は彼女の視線を無視しながら、自分の考えを述べる。

 「恐らくだがな。

 手足の縛りが緩ければ、水中で解ける事もあるだろう」

 「それで、生きて戻った子供を…」

 「上の者…つまり村の権力者達が再び川に沈めた」

 …のだろうな。と、藪沢は補足した。


 「何故!?何故、生きて帰ったら殺されるんですか!」

 「それは、生贄だからだ。

 生贄は死んで初めて『儀式の贄』となる。

 生きて戻れば、『儀式』が失敗したという事になるからな」

 感情的になり、伝承歌に入れ込む美作と、極めて落ち着いて淡々と語る藪沢。


 「歌の名が『河童子伝承歌』である事から、この『もどり鳥』が、『帰ってきた子供=河童子=死なずの子供』…なのではないか?…と、治三郎くんは考えていた様だ」

 「そんな…可哀想な…」

 半べそになり、鼻をすする美作。

 「あくまで伝承だ。

 事実なんて半分も無い…と考えた方が良い。

 あまり感傷的になるな。外側から冷静に見なさい」

 藪沢は溜息をついた。


 「先生は、河童子は本当に居たと思いますか?」

 美作は涙を拭いながら藪沢に尋ねた。


 「私は、それを調べに来たのだよ」

 藪沢はそう言うと、機材の入ったリュックを肩に掛けた。

 靴を履いて出掛ける準備をしていると、美作も慌てて立ち上がる。

 彼女は、泥で汚れたパンプスに強引に足を突っ込み、藪沢には後れまいとして、先に扉に手を掛けた。


 「村中を歩く事になるぞ?」

 藪沢は美作に確認する。

 「これでも私は元ゼミ生。まだ衰えてはいませんよ」

 そう言って敷居を大きく跨ぎ、彼女は一歩目を踏み出した。




 

https://www.8toch.net/translate/

参考 恋する方言変換

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