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何とも、世知辛い世の中です.2

 ひとまず、この場にいる全員に配給が行き渡ると私はホッとした。最初いきなり50人前の食事を急遽作るようになんて言われて大丈夫かと思ったけど、何とか無事に配る事が出来て良かった。

 

 空になった寸胴とコッペパンを入れていたバットをコックさんが用意してくれていたワゴンに載せていると、冒険者の男性が器を返しに来てくれる。

 そう言えばこの人一人だったけど、1人で旅をしているのかしら? 良く聞くのは仲間がいると言うけど。


「あの、ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」

「いえいえ、お粗末様でした。あの、仲間の方はいらっしゃならいんですか?」

「……はい」


 あら。声のトーンが格段に下がったんだけど。私何かマズい事でも聞いちゃったかしら……。

 何か事情があるにしても、初対面でアレコレ聞くのは失礼よね。


「ごめんなさい。立ち入った話をしてしまったみたいですね」

「いえ、そう言う訳では……ただ……」

「?」


 ん? この感じは話を聞いて欲しい雰囲気じゃない? 気のせいかしら。

 不思議に思っていると荷物を積み終わったコックさんが私に声をかけて来る。


「フタバさん、僕先に戻ってますね」


 私とこの冒険者の人が知り合いだと思ったのか気を利かせてくれようとしている雰囲気だけど、私は別に知り合いでも何でもないのよね……。

 なのにコックさんたら、「こっちは任せておいてください」と言わんばかりに親指を立ててパチンとウインクしてくるから何か勘違いをしているって言うのがすぐに分かった。


 何でフローラさんといいこの人と言い、勝手に思考が暴走するわけ? 厨房にいる人達に限っての話? まさか他の人までそうだとか言わないわよね……。 


「葉平もコックさんと一緒に帰ってる? もうすぐ日も傾きそうだし……」

「ううん。俺もここに残る。お母さん一人だと危ないから」


 おおっと、それは一体どういう意味カナ?


 何て思ったんだけど、遅い時間の城下はあまり治安が良くないと言うのを聞いての心配だって言うのはすぐに分かった。言葉が少し足らないのは子供だからなのかもしれない。


「フタバさんとおっしゃるんですね。僕はセブルと言います」

「セブルさん、ですか。あの、それでセブルさん? 配給を配っている時からあまり元気がなさそうに見えたんですけど……もしかしてですけど仲間の方と何かあったとか?」

「何で分かるんですか?」

「何となくそうなのかなと思ったんですが、違います?」


 何でと言われても、この短いやり取りの中で何かあったんだろうなぁぐらいには気付きますよ。


 するとセブルさんはつい先ほど自分と一緒に旅をしていたパーティからクビ宣言を受けて、強制的に一人にされて途方に暮れていたところだと言う。

 内容を聞いたらまぁ……何て言うのかしら。私の知る一般社会の中では普通にあることではあるのよね。仕事に対して能力が足りてないとか、向いてないとか。全体的な効率が下がってしまうからあまりにも目に余るような人材は外されてしまうのが当たり前と言うか。

 ただ、私にはセブルさんが本当にその仲間の人達からみて、能力が足りているのか足りていないのかの判断は出来ない。だって冒険者でも何でもないただの一般人なんだもの。私が判断するのはお角近いでしょ? だからもし仲間の人がそう判断したんだとしたらそうなのかな? としか思えないわけで……。

 私が言える事としたら……。


「残念ながら、人には向き不向きと言うものもありますし……。突然外されてしまったらショックなのも分かりますけど、きっとそのパーティはセブルさんには合ってなかったんだと思います。その代わりにどこかにセブルさんに合った場所ってあると私は思いますよ?」

「そうでしょうか」

「絶対そうだとは言い切れないのは申し訳ないんですけど……でも私はそう思います。そう言う風に気持ちを切り替えられたらいいかなとは思いますが、さっきの今じゃ難しいですよね」


 なんて偉そうなこと言っちゃってるけど……よくよく考えたら余計なお世話よね。そんなこと言える立場でも何でもないのに。


「ごめんなさい。余計な世話ですよね」

「いえ、僕の方こそ初めて会ったあなたにこんな愚痴みたいに話を聞いてもらって、すみません」

「これからどうされるんですか?」

「そうですね。新しいパーティを見つけるか、別のクエストを探すか……。いずれにしても一度ギルドに行ってみようと思ってます」


 ギルドか。そう言えばこの世界にはそう言う仕組みがあるって言うのを前に聞いたことがあるわ。この世界で言うところの職業安定所みたいなところよね。簡単な短期バイトからすごく難しい長期のものまで揃っているって言う……。


 ん? 職業安定所……って、言う事は求職者がいるなら雇用主もいるって事よね……。


 もしかしてこの手は使えるかもしれない。

 私は新しい食材の調達に行きたいと思っていたけど足がなくて行けそうにないし、イズムスに言っても誰かを私に付けてくれるなんて事は考えにくいし、むしろ自分が一緒に行くって言い出しそうだもの。色々公務で忙しい人を引っ張り出すのはよくないし。と、言う事はもし私でもそのギルドを利用できるんだとしたら、私が雇用主として短期で誰かを雇えたらウィンウィンなんじゃないかしら。


 そう考えたら、無意識に今目の前にいるセブルさんをつい見つめてしまった。


「?」


 そこまで危険な旅ではないし、食材調達に行きたいだけだけど一緒に行ってくれる人が冒険者の人だったらなお安心なんじゃないかしら。ただ問題は報酬の面よね……私の稼ぎの中ではそんなに大きなお金は出せないもの。


「フタバさん?」

「え? あ、ごめんなさい。つい考え事しちゃって」


 私は慌てて笑いながらそう言うと、今度はセブルさんが私に聞き返してくれる。


「何かギルドとか僕に関係あることだったりするんですか?」


 うん。そう。関係ないと言う事はないわね。でも、その路線が使えるのかどうかも分からないし、気ままに募集したいって言って求人を載せてくれるかどうかもわからないし、そもそもギルドに行った事もないから分からない事だらけ。いっそセブルさんにその話をしてみてもいいかしら? ギルドの使い方とか教えてくれるかも。


 そう思ったら、聞いてみたくてしょうがなくなった。


「実は食料調達に行きたいんですけど足が無くて困ってたから、もしかしてギルドに仕事募集の依頼したら誰か来てくれたりするかしらって思って……」

「それ、僕が行きます!」


 まさかの、セブルさんは目を輝かせ、突然私の手を握り締めてきたもんだからビックリしてしまった。


 えええ? いや、そんな即決されても……。って言うかそんなに仕事に困ってたわけ? そんな意気込んで言われても、私が出せる報酬なんてたかが知れてるわよ……?


「う、嬉しいんですが、私が出せる報酬ってお小遣い程度しか出せませんよ……?」

「報酬ですか……。でしたら、お金でなくフタバさんの作る食事で如何でしょうか?」

「しょ、食事、ですか?」

「はい! フタバさんが食料調達中の間の護衛は僕が責任もってします。その間だけ、僕の食事を作って下さったらそれで充分です」


 それで構わないならこちらとしては願ってもない事だけど……。

 そんなに食べる物に困っているとは思えなかったんだけど、実は結構困ってたりするのかしら……?


「何か仕事をしていないと落ち着かなくて……。すぐに次のパーティが見つかるかも分かりませんし、簡単なクエストをこなしながらいい働き口を探そうと思っていたんです。でも、ギルドに行っても依頼は早い者勝ちですから、日によって以来の数も違うので食いっぱぐれることもザラにあるので、もしフタバさんが良ければ、僕を雇って下さい」


 なるほど。冒険者もそう甘くはないと言う事なのね……。

 働き口に困っていて食事にも困っているというんなら、彼に頼んでみようかしら……?

 


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