表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/41

何とも、世知辛い世の中です.1

 アリスレスト王国の城下。中央広場の酒場は今日も賑わっていた。各方面から集う冒険者たちは、今日は何処へ行きこれだけの成果を上げただの、パーティーランクが上がっただの、クエストお疲れ様会だのと、様々な理由で盛り上がっている。


 だが、その盛り上がりの片隅でただならない雰囲気を醸し出しているパーティーがいるのもまた事実。


 手にしているアルコールの入った木製ジョッキを乱暴にテーブルに置き、怒りで目の座っている端正な顔立ちの青年が向かいに座っている男性を指さし、噛みついた。


「セブル! 幼馴染の好で今まで何度も大目に見てやってきたがもう鼻持ちならん!! 大した能力もない上に俺たちの足を引っ張りやがって!!」

「そ、そんな! 僕は精一杯皆の助けになるように動いて……」

「それが足を引っ張ってんだよ! 余計なとこでしなくてもいい魔法かけようとしたり、かけて欲しいところでかけなかったり、おかげでクエストは失敗。とんだ足手まといなんだよ! ただでさえ使えないって事に気付けよバァカ!!」

「それは! あの時は必要なかったんだ! それよりも優先しなきゃいけないことが……」

「うるせぇ! リーダーである俺の言う事が聞けないのかよ!? あぁあぁめんどくせぇ! もうお前クビだクビ!! どっちにしても俺らパーティーとはレベルが違いすぎて使い物にならねぇし、もういらねぇわ!」


 セブルの話を聞き入れようともせず、一方的に噛みつく。ふと、クビ宣言を受けた青年が他のパーティーメンバーを見ると、それまで共に戦ってきた仲間さえも小バカにしたように笑っている。


「……分かったよ」


 セブルは苦し紛れにそう呟くと席を立ち上がり、背中越しに仲間のヤジを受けながら酒場を後にした。


 アイツがあんな風に思っていたなんて……。明日からどうやってお金を稼ごう。


 酒場を出ればまだ陽は高い。このままギルドにでも出向いて新しいパーティを探すでも良いけれど、今日の今日で次のパーティが都合よく見つかるかと言われるとそれもなかなか難しい。よほど運が良くなければそれも望めないだろう。では、個人的にクエストを進めるかと言われると、それも有りではあるが無理は出来ない。


 セブルは懐から自分の財布を取り出し、中を覗き込む。……残念ながら、所持金は今日の宿代ぐらいしか入っていない。今からでも簡単にできるクエストをやはり探すべきだろうか? そんな事を考えながら街を歩いていると、いつしか中央街を外れてあまり来た事が無い場所にまで出て来た。

 この荒んだ感じといい、いくら栄えている国とは言えどうしても出来るスラム街まで来てしまったようだ。しかもここは市場広場なのだろう。店の多くはもう閉めてしまっているが、橋の近くには人だかりが出来ていてそこから美味しい匂いが漂ってくる。


「……そう言えば、さっきの酒場では酒しか飲んでなかったなぁ……」


 無意識にもぐぅっと鳴る腹を押さえて、つい人だかりを見つめてしまう。そこにいる人たちは皆それぞれに細長いパン一つと温かい湯気の出るスープの入った器を手にして出て来る。

 よく見ればただ人がたかっているのではなく、皆がそれぞれに持ってきた器を手に順番を待っているのが分かる。


「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね」


 その溢れかえる人の中心には一人の女性と料理人と思われる男性と小さな男の子の三人で、並んでいる人たちに食事を提供している姿が見えた。


(慈善事業ってやつかな……)


 ぼんやりとそんな事を考えながら彼らの動向をついまじまじと見つめてしまうのだが、深い意味はなかった。ただ本当にぼんやり見ているだけだった。



                *******



「葉平。ここに置いてあるパンを来た人に一人一つ配ってね」

「分かった」


 私は葉平を連れて城下のスラム街入り口で、1人のコックさんと一緒に食料配給に来ていた。

 事前にお知らせをしていたのかもしれないけど、大きな鍋とコッペパンを持って来るや否や次々と色んな人が集まって来る。


「あら」


 沢山集まって来る人の中に、エイミーの姿も見て取れた。

 やっぱりエイミーはスラム街に住んでいる子なのね。不安そうな顔をしながらも器を手に列に並んでいた。


「葉平。エイミーが並んでいるわ。あれから話は出来たの?」

「……まだ」

「なら丁度いいじゃない。今日ちゃんとお話ししなさいね」

「う、うん……」


 何人も配って行く中でエイミーの順番が回って来ると、私は彼女から器を受け取ってスープをお玉いっぱいに掬って入れてあげた。


「はい、エイミー。熱いから気を付けてね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 スープの入った器を目を輝かせながら受け取るエイミー。

 よっぽどお腹が空いていたんでしょうね。商売をしているから少しは食べられているんだろうけど、満足いくほど食べられていないんだろうなと彼女の顔を見れば安易に想像がついた。

 温かい御飯なんて、そうそうあり付けないのだろうな……。


「エイミー。お母さんは今日はどうしたの?」

「えっと……具合が悪くて来れないんです……」


 気まずそうにそう言うと、私はこそっと彼女に耳打ちした。 


「じゃあ、後でもう一回器を持ってきて。お母さんの分も入れてあげるわ」

「い、いいんですか?」


 本当は一人一回って約束なんだけどね。お母さんが取りに来れないんじゃしょうがないじゃない。


「もちろんよ。じゃあ、先にパンは二人分渡しておくわね」


 そう言って葉平に促すと、二人は気まずそうにしながら向かい合った。葉平はおずおずとエイミーにコッペパンを二つ手渡しながらボソッと呟くように口を開く。


「……こないだは、ごめん」

「ううん。私もごめんね」

「また遊びに来ても良い?」

「うん。良いよ」


 エイミーも悪いと思ってたからこその言葉だと思う。って言うか何て素直な子供達なのかしら……。二人とも可愛すぎて私キュン死しそうよ……。


 ほっこりしながら二人を見ているその視線の先に、じっとこちらを見ている男性の姿に気が付いた。

 見た感じ冒険者なのかしら。使い古したマントと、ヨレヨレとした服を着ていて手には杖を握ってる。あれかな、あの、魔法使いみたいな? でも腰には剣も下がってる。これからどこか泊まるのかしら。

 そんな事を考えながらご飯を配っていたんだけど、その男の人はじっとその場から動くことなく、ついでに目を逸らすわけでもなくこちらを見続けている。


 なんて言うか、凄く気になっちゃうんですけど……。


 あんなにマジマジと配給風景を見つめたりする? チラ見して通り過ぎるならまだしも、同じ場所に突っ立って動かないのよね。お腹空いてるのかしら……。


 私は周りの人だかりの人数とスープの残量を見て、その男性に声をかけてみることにした。


「あの! そこの人」

「……!?」


 声をかけたら、かなりビックリしていた。まさか声をかけられると思っては無かったんでしょうね。

 彼は自分自身を指さしながら、確認するように私を見つめて来るからうんうんって頷いたら周りを見回して申し訳なさそうにこちらに近づいて来る。


「こんにちは。あの、ずっとこちらを見てましたよね? 見たところ冒険者の方のようですけど……」

「あ……はい」


 本当に申し訳なさそうにしているんだけど、彼のお腹は素直なものでキュウッと音を立てたから私は思わず笑ってしまった。


「もし良ければ召し上がりますか?」

「え、でも……」

「あ、もしかしてこれから酒場で食事をされたりします?」

「い、いえ。もう宿の方に戻ろうかと思ってました」


 お腹が空いてるのに宿に帰ると聞いて、彼はあまりお金に余裕がないのかもしれないと思った。余計なお世話かもしれないけど、冒険者ってお金稼ぐの大変そうだものね。


「慈善事業みたいなものです。もし良ければですけど、召し上がって下さい」


 私は木の器にスープを入れてパンを一つ差し出した。すると彼は申し訳なさそうにしつつも目を輝かせながらそれを受け取ってくれた。


「器は食べ終わったら返して下さいね」

「ありがとうございます」


 彼はすぐ近くに転がっていた樽の上に腰を下ろして一口スープを口に運び、コッペパンに齧りつくと目を輝かせて物凄い勢いでがっついて食べ始めた。


 よっぽどお腹が空いていたのねぇ……。

 なんて、私は微笑んで彼の様子を見守っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ