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いつもの日常。だけど忙しくなりそうです

「やぁだ!! フタバったら! どうしたのよ!?」


 休みが終わっていつもの日常が帰ってきた。今日からまた仕事を頑張ろう。そう思っていつも通り厨房に行くや否や、私の顔を見たフローラさんが私の所に駆け寄ってきた。

 ドスドスと床を踏み鳴らしながら凄い勢いで駆けてくるフローラさんの迫力は、いつ見ても逃げ出したくなってしまう。


 は、走って来なくたって良いのに! って言うかどうしたって、どういう事よ??


 私がポカンとしていると、フローラさんは「もおぉ! 気付いてないの!?」と何処からともなく鏡を出してきた。


 え? 私の顔がどうかした?


「見なさいよ! この目のとこ! クマがヒドイじゃない!! それにこんな疲れ切ったような顔して! 1週間も休みがあったのに、こんなになるまで何してたのよ!?」 


 え……いや、それはまぁ、色々ありましたよ。声を大にしては言えないけど……。

 そんな事言おうものなら、フローラさん卒倒しちゃうだろうしまた大事になって違う問題が勃発しちゃう。もうそんな立て続けに問題ばっかり起きられたらたまったものじゃないわ。


「……ハッ!? 待って。やつれてる割には肌艶はいいわね……。ま、まさか!!」


 どうやって言い逃れしようか考えている間にフローラさんの勝手な思考が暴走を始めたようで、全然違う事を考えていた私の両肩をズシンとくる重み付きで思い切り掴んで来た。さらに、血走って鼻息荒いまま大きな顔をぐいっと私に近づけて来るもんだから、私はもちろん全力で身を引いてしまう。


 こ、怖い怖い!! ほんと怖いからやめて欲しい!


「ちょっと!! まさかまさか、男が出来たんじゃないでしょうねっ!!!」

「な、何でそうなるんですか!!」

「だっておかしいじゃない!? 肌艶はいいのにヤツれてるとか、もうあんた、そう言う事でしょう!!  どこの誰よ!? あんたと()()()()()したのは!?」


 は、はあぁあぁ? ちょっと、何の話よ?! 飛躍し過ぎじゃないのそれ!? しかもこんな朝っぱらから……。

 何とかしてほしくてチラッと後ろのコックさんを見やれば、全員が口元に両手を当てナヨナヨした感じになってる……。っていうか、日に日にコックさんたちがフローラさんみたいになっていくの気のせいかしら……。


 じゃなくて。


「何言ってるんですか朝から!!」

「アタシを差し置いてそんな事を毎日やっちゃってたんでしょ!? 何食わぬ顔で毎朝美味しい御飯作ってくれてたけど、その裏ではやっちゃってたんだわ!!」


 「ガッデム! アタシを差し置いて何の悪戯なのぉ!! ずるいわぁああぁっ!!」と頭を抱えて滝のように泣き崩れるフローラさんに、もはや私なんて声をかければいいのか分からない。


 あぁ、何か今日はめんどくさくなってきた……。でも誤解されたままなのは癪だからフローラさんが落ち着いたらちゃんと弁解するとして、今はそっとしておこう。


 私は自分の定位置について、フローラさんたちが困らないように毎日少しずつ作りおいたパン生地の確認をする。今日の朝ご飯くらいは何とかなりそうなのを確認して、昼に向けてのパン生地を先に作っておこうと思い、パンの材料をテーブルの上に広げて丁寧に混ぜ始めた。


 混ぜながら、この休みの間の事を頭の中で反芻する。ほんとに色々あったからなぁ……。


 そうそう、あの騒動の後どうなったかって言うとひとまずあの場は国王陛下の一声で収められて、アジール殿下のサンディア嬢との婚約破棄宣言は棄却され、ひとまず殿下はそのまま療養する事を命じられたのよね。それで、サンディア嬢は殿下を傍で介抱する事になったみたい。当然、二人の婚約はそのまま継続される事になったから、体調が戻り次第結婚式を挙げる事になった。


 まだ薬の影響が響いているアジール殿下は相当騒いで、何が何でも婚約解消をと叫んでいたけどね。そのまま兵士たちに引き摺られるようにして自室へ連れて行かれてしまったから、私はその後の事までは知らない。でも薬の影響とは言え、そこまでして解消したがっている彼の姿を見たサンディア嬢は、少し傷ついているようにも見えたけど……でも、彼女も彼女で諦めていないのはすぐに切り替わった表情を見れば分かった。だから私も心の中で「頑張って」って応援したっけ。


 ちなみにイズムスはアジール殿下の体調が戻るまでの間、サンディア嬢と一緒に引き続き公務を代行する形になり、その状況は逐一国王陛下に報告する義務を命ぜられて今以上に忙しくなるみたい。

 その話を切り出された時のイズムスが私の方を振り向いた時は少し焦ってしまった。だって、ねぇ? それでお付き合いをしているなんてバレたら困るし。でも、あの時見た顔は以前と同じ小犬みたいな顔をしていて思わず笑ってしまったっけ。会う時間は今までよりもずっと減ってしまうけど、仕方がないわよね。問題は山積みだし今はやれることをやらないと。


 この割り切りの良さは、年の功ってやつなのかしらね……。


 そう思うと思わず苦笑いしてしまう。

 そうそう。肝心のアユはと言うと、まだ処遇をどうするか決まっていないからどこかの部屋に隔離されているみたい。色々これから取り調べされるんだろうな。色々調べた結果の最終的な彼女の処遇がどうなるのかまでは私は関与できないけど……。まぁ、あまり悪い方に転がらなければいいなとだけは思ってる。


 生地を成型して一次発酵させるために箱に入れ、固く絞った布巾を上にかけて温かい窯の近くに並べながら、残っていたパン生地を取り出して朝ご飯用のパンを作り始める。


 そう言えば、そろそろ新しい物を取り入れたいわよねぇ……。久し振りに和食も食べたい。ってなると、この間のあの森には沢山使えそうなものがあったからあの場所に行く手立てが欲しいなぁ。

 なんて考えていたら、ふいに私に影がかかり、驚いた私が振り返ると亡霊のように立ちはだかるフローラさんの姿があって、私は思わず引きつった笑いを浮かべてしまった。


「フタバ……」

「はい?」

「来たら言おうと思っていたんだけど、今日は王宮の食事以外に50人分の食事を用意する事になってるの」


 え? ちょ、待って。随分急じゃない?


 突然の事に私が唖然としていると、フローラさんは「まぁ出勤していきなりじゃそんな顔するわよね」と一言いい置いてから事情を説明してくれた。それは、例にもれずスラム街の事。


 貧しくて食事もまともに摂れない人がいると言う事に対しての話に、応急的ではあるけれど週に2回王宮から無償で食事を配給する事が急遽決まったらしい。その進言の中心にあったのがイズムスらしいんだけど、数日前に私とスラム街に足を踏み入れて、人々の様子を実際目の当たりにして緊急性が高いと判断したんでしょうね。それに対して王様も納得しての事らしい。


「ひとまず簡単なものでいいみたいなの。スープとパンだけでも構わないから取り急ぎ作るように指示が来てるわ。フタバ一人でそれだけのパンを作るのは大変だろうから、コックを何人か手配するけど人手不足だから、結構ギリギリで大忙しになるわよ」


 ひとまず今日はくず野菜のミルクスープとパンだけになっちゃうけどね。とフローラさんは言って厨房奥にある大きな寸胴を取りに向かった。


 大忙しなのは間違いなさそうね……。と、言うかあの状況でイズムスはちゃんと周りを見ていたのね。さすがだわ。

 それよりも50人か……。のんびりしている場合じゃないわね。よし、スープと言えばコッペパンよね。コッペパンを沢山作らなくちゃ! 頑張ろう!

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