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誰かに報告したいけど、どうしたらいいのか分からない!

 王宮に戻り部屋に入って鍵をかけてから、私はさっき見た事がどうしても気になって誰かに報告できないかと考えていた。でも、どう考えたって誰にも話せるものじゃない。だってこの王宮の人達は聖女様信仰に厚くて、それを貶めるような事を少しでも話せば何を言われるか、もしくは自分の命も危ぶまれる。


 ううん。私だけならまだいい。それが葉平にも及ぶのかもしれないと思ったら、そっちの方が怖かった。


「この事話せるとしたら、イズムスしかしないわよね……」

「この時間なら中庭にいると思うよ」

「そうね……」


 私は他に言える人がいないと思い、イズムスに相談しようと思って部屋を出ようとした。けどそれより一瞬早くドアがノックされて思わずビクッとしてしまう。


 え……まさか、さっきの事で何か知られたなんてこと、ないわよね……。


 私は恐る恐るドアノブに手をかける。

 自分の鼓動が分かるくらい大きく心臓がバクバクと鳴ってるのが耳障りなくらい聞こえて、頭がおかしくなりそう!


 ああああどうしよう、今私物凄く怖くて仕方がない!!!


 ドアの前でぎゅうっと目を閉じて開けることを躊躇っていると、もう一度ドアがノックされ、同時にドアの向こうからメイドさんが声をかけて来た。


「フタバ様、いらっしゃいますか?」

「は、はい」


 私はそっと鍵を開けて恐る恐るドアを上げると、メイドさんは不思議そうな顔を浮かべながら手に持っていた封書を私に差し出して来た。

 一回変な現場見かけたらこの何気ないやりとりさえ疑ってしまいそうになる。


「これは……?」

「はい、サンディア公爵令嬢様からのお手紙です」

「サンディア様?」


 その名前を聞いた瞬間、どっと安心感が押し寄せていた。

 私はメイドさんにお礼を言ってからその場で手紙を広げる。けど……私まだ、全部を読めるわけじゃないのよね。


「え~っと……」


 手紙とにらめっこしていると、葉平が顔を覗かせて手紙の内容を盗み見る。


「明日お母さんをお家に招待したいって書いてあるよ」

「え? 葉平もう読めるの?」

「そりゃ読めるよ。毎日勉強してたんだから。お母さんだって知ってるでしょ?」


 そりゃ知ってるけど、まだあなたこっちの文字を勉強し始めてそんなに時間経ってないじゃない? 確かに毎日イズムスに教えてもらっていたけど……。


 子供の吸収力って侮れないわ……特に興味がある事に対しての吸収力は脱帽ものよ。


 でも、サンディア嬢か……。もしかして、彼女にだったらこの話してみてもいいかもしれない。もし彼女にアユの事で何か愚痴でもあるなら、だけど。

 こうなったら、そっちに賭けてみよう。もし話せないようだったら今度こそイズムスにこの話を持って行っても良いと思うし。


「分かりました。サンディア様に明日必ずお伺いしますとお伝えしてくれますか?」

「承知いたしました。では、失礼いたします」


 よし、そうと決まればお菓子を用意しよう。

 今回フルーツを手に入れたから、デニッシュでも作ろうかしら。あとはミルクレープだったらそんなに難しくないわよね。


「厨房に行って来るわ。サンディア様の所に行くための手土産作らないと」

「じゃあ俺、またイズムスの所に行って来る!」

「あ、待って葉平! さっきの事はまだイズムスに話しちゃ駄目よ?」

「何で? お母さん困ってたじゃん」

「何でも。絶対に話さないで。話す時は私から話すから」


 そう言うと葉平はきょとんとした顔からニヤ~っとした顔を浮かべる。

 あ、何その顔。……いや、って言うか私もさっきそんな感じの顔してたわよね。


 くっ……親子だわ……!


「分かった~! じゃあ言わないでおく」


 葉平はそう言うとペンと本を持ってそそくさと部屋を出て行ってしまった。

 ううう、そう言う訳じゃないんだけどなぁ。違うんだけどなぁ……。






「あら、フタバ。今日はどうしたの? まだクルミが割り切れてなかったの?」

「あ、いえ。明日サンディア様のお屋敷にご招待をされたので、手土産をと思って……」

「手土産ですって……?」


 そう聞くや否や、ギラリと輝くフローラさんの目。それに後ろにいるコックさんまでソワソワしちゃってるし……。


「今日のお昼に作ってくれたクルミベーグルのサンドイッチも最高に美味しかったわよ! で、手土産って何を作るつもりなの?」

「えぇっと……オレンジデニッシュとミルクレープを……」

「何それ、もちろん美味しいのよね!?」

「あははは……分かってますって。ちゃんとみんなの分も用意しますから」


 そう言うと皆両手放しに喜ぶわ、フローラさんに至っては「ぃよっしゃあああぁぁああぁっ!」なんて野太い声でガッツポーズ決めてつい本性出ちゃってるもんだから笑ってしまった。


 あぁ、この環境好きだなぁ。辛かったり大変だったりしてもここの人達がいたら、そう言う事も一瞬でも忘れさせてくれるし、安心できる。

 私ったら、根っからの仕事人だったのかもしれないと思うと、イズムスには少し申し訳なく感じてしまうのよね……。


 さて、とにかく今はお菓子作らなくちゃ。


 私はお菓子の準備をしながら、さっき見た事をもう一度思い返していた。

 あの子は何をしていたのかしら。あの通路の奥には一体なにがあるというんだろう……。何か危険があったらと思って追跡することはやめたけど、あれだけコソコソしているってことは何かやましい事があるって事よね。誰にも言えないくらいのやましい事って、何があるかしら。


 借金……なわけないわね。彼女の今の状況はどう考えてもお金に困るような立場じゃないもの。それとも、王宮で侍らせている男性は実はお飾り程度にしか考えてなくて、本命の誰かがいるとか?


 ……ないとは言えないけど、でもあんな不気味な場所で落ち合うかしら。あ~、でもお忍びだとしたらあり得なくないわね……。それとも、誰かと裏取引している事があるとか……?


「……それも、ないとは言えないかも」


 自分で考えてゾッとしてしまった。

 もしそうだと仮定したらどんな取引をしているかが問題になってくる。でも、よくよく考えたらそこまで賢く立ち回れるかしら、あの子が……って、失礼よね私。

 でも全部が計画されて計算されているものだとしたら賢く立ち回っていると言っていいわよね……。


「う~ん……」


 私は唸りながらボウルの中にあるホイップクリームをガシャガシャと掻き混ぜ、窓の外を見つめて色々考えていた。けどどれもまとまらないし分からない事だから、一人で考えるのに少し疲れて来た。

 いや、そもそも一人で考えて出せる問題じゃないわよね、これ。


「ふぅ……っ!?」

 

 ため息交じりに後ろを振り返ると、考え込んでいる私の後姿を物陰から見ていたフローラさんの存在に気付いて、思いっきりビックリしてボウルを取り落としそうになってしまった。


「な、な、何ですか!? 怖いんですけど!?」

「何を悩んでるのかと気になってるのよ……」

「……っ」


 私を心配してそう声をかけてくれてるんだろうけど、この悩みを打ち明けるわけにはいかない。だって聖女様の事をフローラさんは信じているんだもの。


「まさか……男の事じゃないわよね?」

「ふぇ?! いや、違います違います!!」

「じゃあ何を悩んでるのよ? 私だって相談くらい乗れるわよ?」

「あ~……」


 どうしようか考えて、ふと閃いた。

 そうよ! 単純に聞いてみればいいだけじゃない。知ってたら儲けものって思えばいいのよ。


 そう思ったらフローラさんに話してみる気になってきた。


「あの、実はさっき息子と城下に買い物に行ってたんですけど、ちょっと怖い雰囲気の路地があるのを見たかけたんですよね。あの路地って何があるか知ってたりします?」

「怖い雰囲気の路地……」


 私のその問いかけにフローラさんは小首を傾げながら考えていたけどすぐに分かったみたいで、ポンと手を打った。


「あぁ、あそこは俗にいうスラム街よ。一見誰もが平和に暮らせてるように見えても、この国にもやっぱり存在しちゃうのよね」

「そ、そうなんですか……」

「私も襲われたら怖いから怖くて近寄らないんだけどぉ、話では怪しい薬とか売ってたりするみたいよ」

「薬……」

「そ。表では売れない薬。闇市って言ったらいいのかしらね。あんなところ行ったらどうなるか分からないわよ? フタバもそこそこ可愛いんだから気を付けなさいよ~?」


 何やらトゲのある言い方をしているけど、それは聞かなかったことにしよう。でも……闇市か……。

 聖女様ともあろう人がその闇市に人目を盗んで足を運ぶなんて……しかも薬なんて……一体何を考えているのかしら。

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