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お咎めは当然ありましたが……?

 数日後。この日は、待ちに待ったお給料を頂ける日だった。


「じゃあ、これが今回のあなたに見合ったお金よ」


 そう言ってフローラさんから手渡されたのは、小さめの麻袋に無造作に入れられたずっしりと重いお給料。日本なら手渡しじゃなくて銀行振り込みだけど、ここじゃそれも無理よね。そもそも銀行もないし。と、言うか、小さめとは言えあまりの重さに両手で抱えないと持てないくらいだわ。


 王様からの指示で振り分けられたお給金を、その持ち場の担当長が手渡してくれる仕組みになっているんだけど……。


 私はふと、両隣に立っているコックさんの袋と私の袋の大きさの違いを、思わず見てしまった。

 本当はそう言うとこあんまり言うもんじゃないって分かってるんだけど、もの凄く気になってしまう。


「……あのぅ、料理長?」

「何?」

「あの、このお給金の量、間違えてませんか?」

「え?」

「明らかに差がありますよね? 私より長くここに勤めているコックさん達が、私より少ないなんておかしいと思います」


 だって、コックさんも確かに両手で抱えるくらいで、私と同じ大きさの麻袋なのに中の量が明らかに違う。


「それは王様からの心づけよ。よっぽどあなたの作った物がお気に入りなんでしょうね」


 こ、心づけ!? まだここに配属になってから1ヶ月しかいない私が、そんなもの頂いてしまっていいの!?

 隣にいるコックさん達に申し訳なくて、遠慮がちに口を開いた。


「あ、あのぅ……。ここに来てまたちょっとしかいない私が、他の方を差し置いてこんなに頂いては申し訳ないんですけど……」

「何言っているの!? 王様のお気持ちを無碍にするのは罪に値するわよ! そういう時は黙って受け取らなきゃ失礼よ!」


 えぇ?! そういうものなの? ここではそういう事になってるの?

 戸惑いながらちらりと横を見ると、コックさん達は皆、どこか悲しそうな雰囲気を出しながらも大きくうんうんと頷いている。


 あぁ……そんなに悲しそうな雰囲気を出されたら、いくら黙って受け取っていいと言われても余計気が引けちゃうじゃない……。


「王様もそうだけど、私やここの料理人だけじゃなく召使やセバスチャン達も、あなたのパン作りの腕を認めてるのよ。だから黙って受け取っておきなさい」


 ぽんっと肩に手を置かれて改めて言われてしまっては、これ以上拒むのは逆に悪いことになってしまう、のかな……。


「わ、分かりました。じゃあ、有難く頂戴いたします……」

「それから、フタバ。あなたはしばらく仕事しなくていいわよ」

「え!? な、それってどういう事ですか!? ま、まさかク、クビ!?」


 突然来た仕事しなくていい宣言に物凄く焦った。

 ちょっとまって、それそんな急に来るもんなの?? え? 仕事しなくていいってつまりそう言う事よね? もう来なくていいってそう言う事でしょ?


 私が一人で顔面蒼白になっている様子を見て、フローラさんはプッと吹き出して豪快に笑い始めた。


「やぁだ! 勘違いしちゃだめよ。あなたをクビにするなんて言ったら私が黙ってないわ! そうじゃなくて今日から一週間お休みしなさいってことよ」

「え、あ、はい?」

「一応、王族に立て付いたって名目はどうやっても拭えないけど、王様の計らいで一週間休暇を与えるって事で手打ちにして下さったみたいよ。その間の給与は残念ながら出せないんだけど……。ま、それに見合うだけの給金を今渡してるからドッコイでしょ?」


 「気に入られてて良かったわね」とバチンとウインクするフローラさんに、思わずポカンとしてしまったけれど……。だけど、お休みを頂ける事になったのは素直に喜べた。


 ここに来てからまともな休暇なんて取ってなかったし、久し振りだもの。


 ひとまず私はコックさんたちに頭を下げてから今日の分のパンと明日の朝までの分のパン、そして簡単に作れる甘みの強い新作のミルクパンを焼いておいて部屋に戻り、貰ったお給料の麻袋を開いてみた。


 ざーっと数えてみたら、210,000リレイってところかしら。日本円で言うと21万くらい?

 この辺りの物価は比較的安いから、このぐらいのお金があればちょっと贅沢できるかな。

 あと、何かあったときの為に半分は残しておかなきゃね。


 とりあずまだ時間はあるし、葉平と洋服を買いに行こうかしら。あ、でもあの子、今イズムスと勉強してるのよね。あんまり邪魔しちゃ悪いかも。


 私はそう思うと、善は急げとばかりに服を着替えてから一人で城下へ向かうことにした。





 見るもの見るものどれもこれもが可愛くて、ちょっと贅沢かもしれないけど葉平の物と合わせて4着の洋服を買った。一着は普段着で、もう一着は仕事着にも使えるやつ。あと髪飾りとかちょっとしたアクセサリーも購入した。


 こう言っては何だけど、子供がいると落ち着いて買い物ができないから、こういうものを買う時は一人の方がいい。


 明日のお休みは、ちょっとオシャレしてどこかへ出かけてみるのもいいけど、足がないのがなぁ。

 馬に乗れるわけでもないし、当然車なんてあるわけない。馬車に乗って出かけるにしても、この王国の外に何があるのかもわからないし。出たら帰って来れなくなりそうで怖いのもある。

 ガイドマップみたいなものがあれば、下調べして行くのに。


 あれこれと考えながら大きな紙袋を抱えて部屋に戻ってくると、私は今日買ったばかりの洋服を早速試着してみた。


 細かい刺繍が裾にあしらわれていて、白を基調としてパーツ毎に落ち着いたブルーの洋服。

 シンプルだけどめちゃくちゃ可愛い。小綺麗なお嬢さん風にはなるかしら。

 年齢に合わないなんて言われたら嫌だけど……。


「思ったより、悪くないかも」


 これでちゃんと化粧もできたら一番いいんだけどなぁ。

 化粧品と言えば、一応口紅は売っていたけど……。事の他高価だったから、意外と貴重品なのかもしれない。だから買わなかったけど……。あんまり贅沢はできないものね。


「ちょっと葉平に見せに行っちゃお」


 せっかく着た新しい服を着たら、誰かに見てもらいたくなる。

 私はその洋服を着たまま、さっき新作で作ったスティック状のミルクパンを持って葉平がいる中庭に足を運んでみた。


「葉平は物覚えが良くていいね」

「イズムスは頭がいいよね」

「そんなことないさ。普通の人並みだよ。勉強は苦手だしね」


 イズムスも王宮に用事がなくてもわざわざこのために通ってきているようだし、葉平にとっての友人であり先生だものね。葉平は相変わらず勝手に私の恋人候補にしちゃってるみたいだけど。

 

「こんにちわ」


 私がひょっこりと顔を出すと、二人は一斉にこっちを見て驚いたように目を見開いた。


「うわぁ、お母さんその洋服どうしたの?!」

「えへへ。お給料出たから、さっき買って着ちゃった。どう? 似合う? 葉平のも買ってきたわよ」

「ほんと!? ありがとう! お母さんめちゃくちゃ似合ってるよ! 可愛い!」

「ありがと」

「ね!? イズムスもそう思うよね?!」


 そんな、無理やり言わせるような事じゃないってば……。 

 半ば強引に言わせようとしているかのようなその言葉に、イズムスは呆然としていたようだけど小さく頷き返した。


「はい。とても良く似合っています。素敵です」

「あ、ありがとうございます……」


 素敵とか言われると照れ臭いんですけど……。そんなこと、旦那にも言われたこと無いわ。

 イズムスは王族の方だから、女性を褒めることも別に特別でも何でもないことなんだろうけどね……。


「驚きました。髪型も綺麗ですね。誰かにまとめてもらったんですか?」

「い、いえいえ。これは自分でやりました」

「そうなんですか。フタバは何でもできるんですね。尊敬します」


 ニッコリと微笑みながらそう言うと、私の方が何だかむず痒いような気持になってくる。何か落ち着かない。


「あ、そう言えば。葉平、今日からお母さんお休みになったんだけど、明日はせっかくだから新しい服を着て出かけようと思うんだ」

「ほんと!? どこ行くの!?」

「どこって……。まだ決めてない……」


 何となく落ち着かないから別の話題に振ったのだけど、どこへ行くのかと聞かれたら分からないとしか言いようがなかった。この辺に何があるのか全然分からないし、遊ぶ場所だって日本ほどはないでしょうしね。遊具のあるような場所もなさそうだし……。


「ピクニックはどうでしょうか?」

「え?」


 思いがけず、イズムスが提案をしてくれた。

 そうか。ピクニックって良いわよね。サンドイッチ用のパンを作るついでに、皆の分の昼食も仕込んでおけばフローラさん達も安心だろうし。

 でも、問題は行き先なのよ。一番肝心なやつ。


「ピクニックはとても良いですけど、私この辺りの事何も知らなくて……」

「それなら、僕が案内しますよ」


 「前に言ったでしょ?」と笑って言うイズムスに私はややパニックになる。


「確かに以前そんな話をしましたけど……やっぱり問題じゃないですか?」

「どうしてですか?」

「ど、どうしてって、やっぱりその、ねぇ?」


 色々あるわけじゃないですか。問題になりそうな種が。

 今回は寛大な計らいで一週間の休暇って言う形で済ませて貰ったのに、これ以上何かしでかしたらそれこそクビになるんじゃないかなって思うわけで……。


「……僕は、フタバたちとピクニックがしたいです」


 えええ……。そりゃ、葉平はその方が嬉しいだろうけど……。


「俺もイズムスとピクニック行きたい!」

「で、でも……」

「世間の事はあまり気にしないで大丈夫です。もともと僕は明日愛馬と遠乗りをする予定でいましたから」


 はぁ、なるほど……って、そうじゃなくて!


「あの、イズムスは馬があるから構いませんけど、私たちは馬がないので……」

「だったら僕の馬に乗ってください。二人が乗っても大丈夫ですよ」


 あなたの、馬に乗る……?


 え、ちょっと待って。乗るってどうやって乗るの? 馬に乗るって、イズムスは手綱を捌くのに当然乗らなきゃマズいでしょうけど、私と葉平はどこに乗るって言うんです?


「ヨウヘイはまだ子供ですから彼は僕の前に乗って、フタバは僕の後ろに乗ってくれれば……」

「うん! 俺馬に乗りたい! ね! お母さん、良いでしょ?」

「ええええ……」


 どうしよう。ここでダメだって突っぱねたら、きっとまた子犬みたいな顔でせがんでくるに違いない。

 でも、私がイズムスの後ろに乗るって言うのは……さすがに……。


 困り果てて二人を見ると、予想通り。二人は期待に満ちた目で私を見ていた。

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