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聖女様騒動が凄いのです

「ちょっと聞いた!? サンディア様が、とうとう聖女様に手を下したらしいわよっ!」


 翌日。石窯の前で作っておいた生地の中にチーズと枝豆に似た豆を包んでいると、フローラさんが鼻息荒く厨房に駆け込んできた。

 その話を聞いた厨房の皆が、普段はフローラさんに気圧されてあまり話さないのにザワザワとざわめき始める。


「マジか。いや、そろそろだとは思ってたんだよ」

「アレじゃあなぁ……」


 え? 何? そんな、よっぽどな人なの? そのサンディアさんて……。


 思わず手を止めて皆の方を振り返ると、さめざめとしている人が多い事に気付く。


「そりゃあ、婚約者が取られたらそうなるだろうよ」

「オレはサンディア嬢に同情するな……」


 あ、そっち?


「アジール殿下も、ねぇ? すっかり聖女様に入れ込んで、サンディア嬢には見向きもしなくなってらしたみたいだもの」


 フローラさん含め、厨房内は同情の色に包まれていた。


 何か、ややこしい事になってるのね……。


 この王宮内でどんなことが起きてるのか分からないけど、彼が毎日色んな情報を手に戻って来てはスピーカーの如く話しまくるものだから、私としては退屈しなくて済むと言えば済む。


 聞いた話では聖女様が沢山の男の人達を自分の周りに侍らせているらしくて、その聖女様の取り巻きと化した人の中には自分の彼氏だった人もいるとか。ついでに言えば、相手が聖女だからって理由で泣き寝入りをする御令嬢もいるらしい。


 又聞きした立場だから、本当のところどうなのかは分からないけど、そりゃ恨まれて当然だよなぁ…。


 ついさっき葉平の言葉を受けて、もう一度自分に自信を付け直してみようって思った矢先のこの話だもの。そう言う面倒事に巻き込まれるの嫌だなぁって思ったら、やっぱりちょっと尻込みしちゃう。


 私は再び手元の作業に集中しながら耳だけを傾けていたんだけど、次第に私はため息とともに手が止まってしまった。とりあえず今日のお昼分の仕込みまで終わったからちょっと休憩しようかなぁ。


「料理長、私ちょっと休憩してきてもいいですか?」

「あら、もう仕込みは終わったの?」

「はい。ちょっとその辺散歩してすぐ戻ります」

「分かったわ! ちなみに今日は何のパンなの?」


 毎日違うメニューで作ってるから、フローラさんからしたらすっかり楽しみの一つになっているみたい。


「今日はチーズと豆のパンです」

「やぁだ〜! めちゃくちゃ美味しそう〜! フタバのパンはどれを食べても最高に美味しいから、今回のも間違いないわね!!」


 ほっぺに手を当てて褒めちぎるフローラさんに、思わず笑ってしまう。そう思ってくれるなら有難いわ。


 私は頭の三角巾を取って厨房を後にし、中庭の方へと足を向けた。葉平じゃないけど、私も何だか最近は中庭に向かうのが日課になってしまってるわ……。


 中庭に行くと、いつものようにテーブルに向かい合っている二人の姿があったけど、今回は様子が少し違っていた。天気が良くて気候も良いせいか、葉平が本を広げた机の上に突っ伏して居眠りをしちゃってる。


「イズムス、こんにちは」

「あぁ、こんにちはフタバ」

「葉平、寝ちゃってるんですね」

「はい」


 ん? 何か元気ないな?


 何となく、いつもより顔色も良くないイズムスに気付いて、私は葉平の隣に余っている椅子に腰を下ろした。


「どうしたんです? 何だか元気ありませんね?」

「……分かりますか?」

「まぁ、何となくですが……。顔色もあんまり良くない感じですよ? 寝れてます?」

「それが、最近はあんまり……」


 何か問題があるのかしら……? なんて思っていると、イズムスの方からその原因の話をし始めた。

 どうやら、イズムスの不眠に関してはあの噂の聖女様が噛んでいるらしい。


「今さっき料理長も話してたんですけど、王宮内は今面倒事になっているようですね?」

「そうなんです。僕の兄であり、第一王子でもあるアジールの婚約者がサンディア公爵令嬢なんですが、聖女が現れてからずっと入れ込んでいる事にサンディア令嬢も悩んでいるようでして……」

「そのサンディア公爵令嬢が、聖女様に手を下したって話のようですけど……」

「……手を下したと言えるかどうか分かりませんが、大勢の人がいる前で階段から突き落としたとか。その事にアジールが激昂して、婚約を解消すると言いはじめまして……」


 まぁ、確かにそれが本当だとしたら。アジール殿下が怒るのも無理はないわよね。だけどよく考えたら婚約者がいるのに婚約者そっちのけで聖女に入れ込んでいるって言うアジール殿下も大概じゃない?

 厨房の皆が同情の色を見せるのも分かるわ。私だって同じ女としたらそんなの嫌だもの。

 サンディア公爵令嬢のしたことが事実としたら、大きく擁護するわけじゃないけどそれだけ悩んでたって事でしょ? 


「今度王宮でサンディア公爵令嬢とのお披露目会をする場があるんですが、兄はその時に婚約破棄を言い渡すつもりでいるようです」

「えぇ?」


 たぶんだけど、婚約発表ってことは大勢の人が集まる中での婚約破棄ってことでしょう? サンディア嬢からしたら完全な公開処刑じゃないそれ。そこまでする?


「その、サンディア公爵令嬢は、本当に聖女様を階段から突き落としたんですか?」

「僕もその場にいたわけじゃないので分かりません。目撃者もいるにはいるのですが、本当にサンディア様が突き飛ばしたかどうかまでは不確かなようで……」

「……」


 それはちょっとどうかと思っちゃうわよね……。

 事実確認はしっかりした方が良いような気がするんだけど……。


「……面倒ですね」

「……はい」


 私が呟いた言葉にイズムスがため息交じりに頷き返すのを見て思わず笑ってしまった。

 そう言えば前にも言ってたっけ。面倒事は好きじゃないとかって。


「それで、もしかするとあなたにも被害が?」

「実は、まるっきりないわけじゃないんです。聖女様は僕にも色々取り入って来てまして……」


 わぁ……。あのアユって子、何かやらかしそうな気がしたけどやっぱりそうだったんだぁ。

 そもそも、男性ばかりを自分の周りに侍らせて置きたいって思う気持ちがよく分からないのよね。同じ女なのに分からないって、やっぱり私オバちゃんなのかしら……。そう思うと笑みがはりついてしまう。

 

「結局は二人の問題になってくるんでしょうけど、このままだとお互いの関係は崩壊確実みたいですね」

「サンディア公爵令嬢は幼少の頃からアジールをとても慕ってくれていましたから、僕からすると申し訳ない気持ちでいっぱいになります。元を正せば兄が彼女を蔑ろにしたことが原因ですし……」


 まぁ、そうよねぇ……。

 何とか出来ればいいんだろうけど、ただの平民の私が二人の問題に口を挟むのもそれこそ問題があるからどうすることもしてあげられないのが残念ではあるかなぁ。


「二人の関係が無くなったとなると、その後に来る仕事のしわ寄せが凄そうです」


 そう呟いてから私は「あ」と短く声を上げてイズムスを見る。イズムスは不思議そうに私の顔を見ていたけど、この提案はダメなのかしら。


「だったら、あなたがサンディア公爵令嬢と婚約したらいいんじゃないですか?」

「え!? 僕がですか?」

「そうですよ。アジール殿下がダメなんだったら、あなたが彼女と婚約してもいいじゃないですか?」

「……僕はそう言うのは、ちょっと」


 無茶な提案かなとは思うけど、思った以上にイズムスの反応がいまいちだった。

 これだけ彼女の事を気にかけているんだったら、彼女の事が少なからず好きなのかなって思ったんだけど……違う?


「彼女が嫌、なんですか?」

「嫌と言うか……僕はサンディア公爵令嬢の事は特に何とも思ってないです」


 あら、ハッキリ言うじゃない。

 と言う事は、気持ちが無いのにここまで悩んでるのは単純に人が良いからなのねぇ。


 ため息交じりに目を伏せるイズムスを見ていると、何だか可哀想になってくるなぁ。


 こりゃあ、この先まだまだ一波乱ありそうだわ……。

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