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嘘のような、本当の話?

「な、何なの、これ……」


 誰か、今私に起きているこの状況を説明してほしい。

 いや、待って。説明されても理解できる自信がないかも……。


 大きく開け放った木枠の観音開きになっている窓。その窓から見える景色はどれも見たことがない。

 中世ヨーロッパを思わせるような造りの家々に、見たこともない衣服を着こんだ人々が縦横無尽に眼下に広がる広い大通りを動いてる。例えて言うならゲームとか小説とか、そう言うのにありがちな村とか街の光景だった。


 おかしい。絶対おかしい。

 だって私、さっきまで息子と一緒に学校から帰ってきて……。


「……葉平(ようへい)!!」


 そうだ、葉平! 葉平がどこにもいないじゃない!


 ハッとなった私は私は今自分が置かれている状況を理解するよりも、葉平の姿がないことに気が付いて慌てふためき部屋の中を見回した。でも、簡素なベッドが二つと小さいテーブルが一つあるだけで私以外の人の気配は何処にもない。


 部屋の中にはいない。じゃあどこに?


 ここにいないなら外に出ようとドアに駆け寄ると、私が扉を開くよりも一瞬早く外から開かれた。そこにはきょとんとした見慣れた顔が現れる。


「あ、お母さん!」

「葉平! あぁ、良かった!」


 いつもと変わらない表情で、にっこりとほほ笑む葉平を見て心底ほっとしたのは言うまでもない。力が抜けそうになりながらもなんとかその場に立って大事な息子をぎゅっと抱きしめた。


 良かった。本当に良かった!


 力いっぱい愛息子を抱きしめていると、聞き覚えのない声が降ってくる。


「良かった。目が覚めたんだね」


 その声に顔を上げると、そこには恰幅の良い初老の女性がにこやかに微笑んで立っていた。

 彼女も先ほど見下ろした街の人達と似たような恰好をしていたけれど、敵意らしきものは感じられない。むしろ人の好さそうな顔をしている。


「あ、あの……」

「あんた達、この村の近くの川岸に倒れてたんだ。うちの主人が見つけて、村の人たちに頼んでここまで運んでもらったんだよ。どこか痛むところや具合が悪いところはないかい?」


 さらりと、私たちがここにいる理由をこの方は話してくれた。

 川岸に倒れていた? 川なんて行ってないし、私たちは帰宅途中で……。

 いやいや、それよりも、まずはこの女性にお礼を言わなければ。


「助けて頂いて、ありがとうございました。あの、ところでここは一体どこなんでしょうか?」

「うん? ここはアリスレスト王国にある、ロンドーネって村だよ。そう言えばさっき坊やから聞いたけど、あんた達“カマクラ”ってところから来たんだってね? でも、カマクラなんてどこにあるんだい? 坊やと一緒に世界地図を見てたんだけど、どこを探してもそんな地名無くてねぇ……」


 女性は困ったように首を傾げているけれど、私だって首を傾げていた。 

 アリスレ……何だって? ロンドーネ? ロンドンか何かの愛称なのだろうか?


「あ、あの……。私たち家に帰る途中でして……」

「あら、そうだったの? って事はカマクラって言うのはこの村の近くにあるのかしら」

「あ、い、いえ。鎌倉は日本にある町の名前で……」

「ニホン? ニホンって何だい?」


 あまりにも真顔でそう言われて、私、まさかと思うけど何となく予感がした。

 彼女の言うアリス何とかなんて王国は私の住んでいる日本にはまずないし、聞いたこともない。ただ単に私が知らないだけで、世界地図のもの凄い小さい国にそういう名前の国があったりするのかもしれないけれど、その可能性は絶対にない。


 そう。だって私たち、さっきまで日本の鎌倉にいたんだもの。

 私は保育園で子供たちの給食を作る仕事をしていて、仕事が終わったから雨が降る中、傘を差して学校の“うきうき”にいる息子を迎えに行って、家路についていた。

 手を繋いで学校であったことを聞きながら、見晴らしのいい急な階段を下りれば家までもうすぐそこって言うところにいたのよ。

 「滑りやすいから気を付けて降りるのよ」って、もう何度も同じことを言ったら葉平は「分かってるってば」と少しむくれて階段を降り始めた。


 慣れた道だったから油断していたのもある。ふいに葉平が足を踏み外して階段から落ちそうになったから、私も慌てて差していた傘を捨てて葉平の腕を掴んで、ケガをしないように抱きしめたけど、私たちはそのまま階段の下まで転がり落ちたんだ。朦朧としながら目を開くと、通りかかった若い男の子が慌てふためいて駆け寄ってきてくれたところまでで記憶が途切れた。

 で、目が覚めたら、病院のベッドじゃなく何だか良く分からないこの場所に葉平と一緒にいる。


 待って。もしかしてこれってつまり……あの、よく聞く今流行りの……。


「異世界転移って奴じゃ……」


 そこで呟いて自分で呟いた言葉に妙に納得してしまった私は、愕然としてしまったのだった。

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