兎は王都を越えて行った
あの娘たちや彼女の身も心も変わり果ててしまった現実。
そうなってしまった原因は僕にあるのか僕の所為なのかは
分からない。しばらく顔も見てないし、彼女らは自活して
新たな自分と共に生き続けようとしてる。僕だけ残して…。
縋りつきたい、甘えたい気持ちを堪え続けて幾年月過ぎた
ことだろう。そろそろ僕も限界が来た。動こう。自分から!
まずは宝石、それなら大丈夫。とっておきのがひとつある。
僕の求める親友は翠玉色の輝きで僕から目を離さないんだ。
そして、生き物の…。これだって用意してある。ずっと昔、
山で捕らえられ見世物として檻に閉じ込められた大熊猫が
産んだ小さな子熊の可哀想な屍骸が剥製にされていたんだ。
朝から晩まで人の目に晒されて育児どころじゃなかったと
思うよ。育児放棄され、死んだ幼い熊猫の屍骸を入手した。
宝石と屍骸は…ある…! 残りは…僕の親友となる彼の…。
探検装備に身を固めた僕はまず王都を目指して出発した。
目的地は王都じゃない。王都の北西にある山を越えた先の
平原こそが目的地。遠い昔は領地を争うため戦争が起きた
現在は「古戦場」と呼ばれる場所が兎である僕の目的地だ。
きっと其処に彼はいる。僕の大親友となって傷ついた心を
癒して励ましてくれる僕だけの…彼が眠っているはずだ…。
相変わらず王都は華やかで衛兵たちにより秩序が保たれた
平和な…退屈な街だった…。夜になると酒場など歓楽街へ
誘う者たちが馴れ馴れしく兎の肩を叩いたが、今の兎には
最重要で絶対達成したい目的がある。花街に寄り道なんて
してられない。兎は誘いを無視して古戦場を目指し歩いた。
王都北西の山脈を越えるのは苦労したが何も飲み食いせず
只管「古戦場」だけを目指して進んだ。彼に逢うためなら
どんな苦労だって耐えられる。彼は兎を助けてくれるから。
兎は王都を越えて行った。兎の心の支えとなる彼を見つけ
宝石の人とするために…エメラルドの熊猫にするために…。