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2  放課後、それは青春の時間

「起立、礼」

「ありがとうございましたー」


 放課後、それは学生にとって青春を謳歌するための大切な時間。

 友人と遊びに行ったり、部活動があったり、それぞれが思い思いの行動をする教室で特に目立っているのは一軍グループだろう。


「今日の放課後どうする~?」


 金髪ロングのチャラそうな女子生徒が声を上げた。

 彼女は大久保瑞希(おおくぼみずき)、所謂ギャルというやつだ。

 すらっとした手足にウエストが締まっているモデル体型の彼女は、クラスの女王的な位置に君臨している。

俺からしたら一番苦手なタイプだ。


「あいてるならカラオケでも行こうよ!」


 それに対し、提案をしたのは小山夏葉(おやまなつは)

 茶色の髪にショートのボブ、はつらつとした性格が特徴的な女子生徒だ。

 彼女は男子生徒からの人気が高く、かなりの頻度で告白されているらしい。

 まあ、その理由は分からなくない。彼女を初めて見たとき、まず目が行くのは高校生にしては立派な胸だろう。

 それに彼女の性格も合わさって、モテないわけがない。


「ごめん、今日も部活があるんだ」


 しかしこの提案を断ったのは黒髪長身で学年一のイケメン男子生徒、相沢栄治(あいざわえいじ)

 バスケ部に所属していて、噂によると次期エース候補にも選ばれているとか。更に頭も良いらしく、テストの順位発表では毎回上位に位置している。

 ハイスペックすぎてもはや嫉妬すらわかないレベルの主人公だ。


「えーまたぁ?」


 断られたことに大久保が不満を漏らす。またという事は今までもこのようなことがあったのだろう。


「ごめん、代わりに次の休みにどこか出かけよう」


 出てきた不満に対しても爽やかな笑顔と解決案を瞬時に出して対応。完璧なアフターケアを見せた相沢に拍手を送りたい。


「じゃあ許すー」


 うーん平和的な解決。これには俺もにっこりだ。


「草壁君。人気がある生徒を見たところで、貴方もそうなれるわけではないわよ」


 お前にもにっこりしてほしかったんだがな、霜月よ。


「ちげーよ。ほらあれ、人間観察ってやつ」

「じゃあ今のやり取りを見て何を学んだのかしら」

「……イケメンのパワー?」

「はぁ、それを知って何の意味があるの?」


 霜月は呆れたようにため息をついた。

だってイケメンパワーだぞ。イケメンパワー。人気がある生徒が何をやっても称賛されるアレ。一体イケメンとほかの人とで、何の違いがあるというのか。この秘密を知るにはジャングルの奥地までいかないと分からないだろう。


「意味はない。だが知りたいだろ?」

「時間の無駄ね」


 ぴしゃりと放たれる一言。

 しかし、無駄でもいいのだ。ふと思いつきで学び、知った無駄が人生において役立つときはきっとくる。

 俺もつい先日、夜中にコンビニまで向かっているときに酔っ払いに絡まれたのだが、親父が酔っている時と同じような対応をして事なきを得た。

 ありがとう親父。それとは別に絡み酒だけはめんどくさいからやめてくれ。

 俺が頭の中で語っているうちに、霜月は帰りの準備を終えたようで席を立った。

 それでいいのか、花の女子高生よ。もっとこう……あるだろ。放課後の青春的イベントが、高校生的な何かが。

 まあ名誉帰宅部員である俺も同じようなものなので、何も言えないのだが。


「じゃあ私は帰るわ。貴方との無駄な会話にも疲れてきたことだし。人間観察を続けたいならどうぞ」


 そう言って霜月はさっさと帰ってしまった。

 クラスの生徒も部活であったり、用事がなかったり、ぼちぼち帰り始めている。

 俺もそろそろ帰るか、と思っていたら図書館の本の返却期限が迫っていることを思い出した。

 危ない危ない、期限を超過してしまうところだった。

 教室を出て、別棟までの道のりを歩く。

 どうして学校の図書館というものはこんなに奥地にあるのだろう。まあ、世の高校生に需要がないから隅に追いやられているのかもしれない。世の学生達よ持った本を読め。

 別棟に入り、しばらく歩くと後ろから声を掛けられた。


「あの!草壁君!」


 いったい誰だ?と思って後ろを向くと、そこには若干息を切らした小山がいた。


「ど、どうしゅた?」


 最悪だ、噛んでしまった。いやそうなるだろ、今まで話しかけられたこともない陽キャに話しかけられたら。つまり俺は悪くない。判決、草壁無罪!

 俺が現実逃避をしている間、小山はあの、その、ともじもじして話始めようとしてやめる、を繰り返していた。

 どうしたんだろう、恥ずかしがるようなこと……ハッまさかと思い、下を向いてズボンのチャックを確認してみるが、社会の窓は閉じていた。

 危なかった。もし仮にチャックが開いていて、それをクラスメイトに指摘されるなんてことになったら、恥ずかしくて不登校になるところだった。


「や、やっぱり何でもない!」

「え?」


 バヒュンとものすごいスピードで去っていく小山。あまりのスピードに前髪が若干浮く。


「いったい、何だったんだ?」


 ただ一人、置いて行かれた俺は困惑するしかなかった。


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