一通の手紙
暑くなってきた7月,いつもと変わらない雲ひとつない青空。そんな天気に嫌気がさす。
毎日同じことの繰り返し,つまらない退屈な日常。
学校に行けば,またあいつらにいじめられる。家に帰れば,私はいないも同然。
学校にも家にも私の居場所なんかない。
生きることに疲れた。
そんなある日。
私が唯一落ち着ける場所,家に帰りたくなくてぶらぶらしていた時に見つけた防空壕。今は使われておらず,誰も来ない。薄暗くて少し埃っぽい,いつもと同じはずなのになぜか違和感を覚えた。中はあまり広くない。少し奥に行ってみると,見覚えの無い一通の手紙みたいなものがあった。それは少し汚れていて最近書かれたものではなさそうだった。気になって中を見てみると,一枚の便箋が入っていた。
『7月15日
今日もいつもと変わらない辛い日々が続いている。
いつまで続くんだろうか。
早くこの戦争が終わることを願っている。
光太郞』
達筆な文字書かれてあるたったそれだけの短い文。誰かに宛てたものではなさそうだ。しかも,「戦争」ということは80年くらい前のものだろうか。疑問に思いながらも,私はすることもなかったので鞄からルーズリーフを取り出し,届くことはないであろう光太郎さんに返事を書くことにした。
『いつか必ず戦争は終わります』
たった一言,それだけ書いて封筒の中に入れた。
翌日。
今日もいつもと変わらない朝が来た。
一階に行けば家族の楽しそうな話し声がする。リビングのドアを開け私が入った瞬間,一瞬沈黙が流れたがすぐにまた楽しそうに会話が続く。これもいつもと同じだ。こんな風になったのはいつからだろう。もう覚えていない。
学校に行き,靴下のまま教室に向かう。上履きが無いのもいつものこと。最初の頃は辛かった。何が原因なのかもわからず,気づいたらクラス全員から無視されるようになりゴミのように扱われ,苦しくて,悲しかった。でも,今となってはもう何も感じない。辛いとか,苦しいとか,悲しいとかいう感情を抱くことに疲れてしまっていた。何のために生きているのかさえわからない。死にたいと思ったことだって何度もある。それなのに,そんな勇気もない自分が腹立たしい。
放課後,またあの防空壕に行く。今日もいつもと何も変わらないはずなのに,また違和感があった。その違和感に築くのに,そう時間はかからなかった。昨日一通しかなかった手紙がもう一通増えて二通になっている。
『7月16日
誰だかわからないが,返事が返ってくるとは思わなかった。
今日は隣町で空襲があった。
大人たちが話しているのを聞いたが,焼け野原だそうだ。
次は俺たちの町かもしれない。
恐ろしくて夜も眠れない。
終わりが見えないが,本当に終わるのだろうか。
光太郞』
頭の中が疑問符だらけだ。誰かの悪戯かとも思ったが,こんなところに人が来るはずもない。80年くらい前の手紙がタイムスリップしたということだろうか。よくわからないが,私は返事を書くことにした。
『私も返事が返ってくるとは思いませんでした。
今は何年ですか?』
これだけ書いて封筒の中に入れた。もし,明日三通目の手紙が来ていたらと期待して,私は家に帰った。