第十九話
次回が最終話です。
無機的な風景が広がる郊外。国道は家路を急ぐ家畜の群れのような車で渋滞気味だ。そのすぐわき、ポプラの大木に守られた緑地と創成川の流れは、小さなオアシスのよう。並木道はまっすぐまっすぐ北に延びる。夕日に照らされながら、言葉もなく歩くカオルとカオリの遠景。しつこく居座る足元の残雪に、二人の長い影が落ちる。大きなチェロケースを背負い、足を引きずり引きずり歩くカオル。その一歩先をいたわるように歩むカオリ。カオリは林檎をほおばっている。
「先に行けよ」
「早く帰ったっていいことないもん」
カオリは不意に振り返って食べかけの林檎をぽんと放る。カオルははっとして胸でそれを受ける。二人の横を一台の自転車がさっと通り過ぎる。カオルはがぶりと林檎にかじりつく。カオルの口の中にじわっと広がる強い酸味――カオルの脳裏に幸福だった子ども時代の記憶がよみがえる――。
次回が最終話で、11月10日21:00更新予定です。
それにあわせまして、本作「林檎の味」を含む四つの物語から成る連作形式の小説「カオルとカオリ」のkindle版(電子書籍)を無料にて提供します。無料キャンペーン適用期間は11月10日(金)17:00~11月13日(月)16:59となっております。
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是非この機会をご利用下さい。