第十七話
放課後、カオルはチェロケースを抱え、久しぶりに音楽室へと向かった。このままでは自分まで幽霊になってしまいそうだった。廊下の窓から外を見上げると、カオリが屋上にいた。相変わらず空を見ている。
カオルは音楽室に入ると、いつものように隅の方に座り、ケースからチェロを取り出す。新歓シーズンだからだろう、みんなどこか浮ついた雰囲気で、練習に身が入らず、噂話に興じている。
「今日は静かだな」。「転校するんだってよ」。「誰が?」。「パンク女。うちのクラスなんだけどさ」。
カオルはチェロを調弦する手を止めて顔を上げる。
「えらく急な話だな」。「一家離散だってさ」。「マジ?」。「悲惨!」。「色々事情があるみたいだよ」。
カオルは動揺を打ち消すようにチェロを奏でるが、うまく弾けない。もうじき退院から一年になるが、時に右手に嫌なしびれを感じることがあった。カオルは演奏をやめ、手の平をじっと見つめる。
「色々って何だよ」。「何でも、父親が借金作って失踪して……」。
カオルはチェロを抱えると、そそくさとその場を立ち去った。
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