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いつか魔法が解けるまで  作者: イノリ
第一章 「解呪の魔法使い」
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祟られた写真部事件 問題編⑦

「悪いね。写真部で大体のことは聞いてきたから、手短に済ますよ」


 ベッドの綾瀬さんを見ながら空先輩は言う。

 しかし綾瀬さんは首を横に振った。


「いえ、お気遣いいただかなくて結構です。もう何ともないので」

「そうかい。それじゃあ、少しお言葉に甘えさせてもらおうかな。とりあえず確認だ。君が綾瀬さんで、君が緒方さん」


 空先輩はベッドの上の女子生徒、次いでベッドの傍に立つ女子生徒を見る。どちらも、空先輩の確認に頷いた。


「部長の浦畑先輩という人もいると聞いていたけれど」

「浦畑先輩なら、部室に戻ると言って先ほど出ていきましたよ」

「入れ違いだったか。まあ、いいだろう」


 空先輩は浦畑さんの件について軽く流す。綾瀬さんに直接尋ねる以上に有力な情報源はないだろうから、気持ちはわかる。


「それで綾瀬さん、今日は朝から体調が悪かったりはしたかい?」

「いえ、むしろここ最近の中では一番調子が良かったです」

「元から体が弱かったりは?」

「全然。ほとんど毎日ジョギングしてるので」


 それはまた熱心な鍛え方だ。これで虚弱体質という方がおかしいだろう。


「君はおまじないの雰囲気が苦手だったりするかな。何かの儀式の最中、意識がどこかに引っ張られるような体験をしたことは?」

「ないですけど……」


 そんなことあるのか、と疑わしげな様子だった。

 空先輩曰く普通にあり得ることらしいけど、僕もやや懐疑的ではあった。空先輩がわざわざあんな嘘を吐く理由もないから、おそらく本当のことだろうけれど。


「今日倒れた原因は、眩暈がしたからだと聞いたけれど」

「まあ、はい、そうですけど」

「……?」


 突然、綾瀬さんの声音が少し硬くなったような気がした。

 単なる事実確認だから、特に触れられたくない話題というわけでもないはずだ。

 空先輩もそれに気がついたようで、「ふむ」と呟き、そのまま視線を緒方さんの方に向ける。


「倒れた直後の受け答えははっきりしていたかい? 話が食い違ったりは?」

「なかったです。そういうのは」

「となると失神したわけでもなさそうか……」


 空先輩は綾瀬さんが症状を隠したと睨んだようだったが、どうやらそれは不正解らしい。

 アテが外れたせいか、空先輩は少しだけ考え込む。


「君たちは、今回の件の原因を何だと思っているのかな」

「別に。ただ、急に眩暈がしただけです」

「幽霊! 幽霊の仕業です! あの写真部、やっぱり呪われてたんです!」


 冷静に答える綾瀬さんとは対照的に、気の弱そうな緒方さんの方が、なぜだか熱を込めて主張する。その様子に空先輩は苦笑していた。


「やっぱりっていうのは?」

「だってうちの部活、変なおまじないとかありますし」

「おまじない自体はただのおまじないだよ。幽霊の仕業じゃない」

「写真を撮ってるとよく人の視線を感じますし」

「人は、カメラを構えている人には注目してしまうものだからね」

「部室でご飯食べると妙においしいし」

「うん呪い関係ないねそれ」

「みんな妙に部活に熱心ですし!」

「いいことじゃないか」


 なんか、緒方さんはちょっとズレていた。空先輩はそれに笑いながら言う。


「そういうのはオカ研に言うといい。あることないこと、たくさん吹き込んでくれるはずだよ」


 自分たちはそういうのとは違うと、先輩は言外に仄めかした。


「まあ呪い云々は頭の片隅くらいには置いておくとして。他に何か、写真部で異変というか、特別な出来事があったりしたかい? 先週か、今週辺りで」

「え? えーっと、それは……」


 緒方さんは綾瀬さんの顔をチラリと窺った。


「特に言いふらしたりはしないよ」

「……アヤちゃん、話しちゃってもいい?」

「まあ、オガがいいなら」

「じゃあ、あの。先週、アヤちゃんが檻に閉じ込められてた狐を連れてきたんです」

「狐?」


 空先輩が強く興味を引かれたように身を乗り出す。


「この子です」


 緒方さんはスマホを操作して、一枚の写真を表示した。

 写っている狐にはどことなく見覚えがあった。どこで見たのだろうと考えて、すぐに思い至る。そういえば写真部に、狐の写真が貼ってあった。視点や狐の姿勢が違ったりしているが、被写体は間違いなく同じだ。

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