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いつか魔法が解けるまで  作者: イノリ
第一章 「解呪の魔法使い」
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祟られた写真部事件 問題編④

「綾瀬さんが倒れたときの詳しい様子を教えてくれるかな」

「ん? えーと、写真部のおまじないの最中だった。渾身の写真が心霊写真になったりしませんように、って毎回部活の始めにおまじないすんの。で、始まってすぐに綾瀬ちゃんが倒れた」

「様子は?」

「顔色真っ青だった。助け起こした後も、自分で歩こうとしたらフラフラしてたし」

「ちゃんと確認しておくけれど、それ以前から彼女の体調は悪そうだったかい?」

「いや全く。今日の体育じゃ大活躍だったって、なぜか緒方ちゃんの方が誇らしげにしてた」


 伊崎さんに自身の言を疑う様子はない。綾瀬さんが取り繕っていたかもという発想すらない時点で、いかに綾瀬さんの武勇伝が壮大なものだったか窺える。


「……やはり、おまじないの雰囲気に当てられたかな。その綾瀬という子、写真部のおまじないを嫌がったりしていたかい?」

「むしろ嬉々としてやってたけど」


 伊崎さんは呆れたように言う。

 となると、元からおまじないの雰囲気に当てられやすい体質だったという説は否定される。


「あでも、最近はちょっと微妙そうだったかも」

「最近? それはいつから?」

「え? そんなの覚えてないって。先週だったとは思うけど」

「どういう風に変わったんだい?」

「んっと、今まで進行役みたいなの買って出てたんだけど、急にあたしに任せてきた。――ああそうだ、先週の火曜からだ! そうそう、思い出した」

「理由は何か言っていたかい?」

「飽きたから、たまには別の人に任せるって。なんか嘘っぽかった」


 ……いつも嬉々としておまじないに参加し、進行役まで買って出ていた子が、突然それを放り出した。そしてそれから程なくして、眩暈で倒れるに至った。

 明らかに妙だ。ならばその先週火曜の部活より前に、何かが彼女に起こったのだろうか。


「写真部の集まりは何曜日だい?」

「月、火、金だけど」


 週三日。土日はなし。まあ一般的な文化部のスケジュールだろう。今日は月曜日だから、写真部は特別な理由なく普通に集まっていたと。

 ちなみに全く関係のない余談だが、魔法部に休みの概念はない。放課後暇があれば行く、というような場所だ。そして行けば大抵、空先輩がいる。暇人なのだろうか。


「綾瀬という子に最近何か起きたりしたかい? 例えば、心霊写真が撮れたとか」

「いーや、んなことなかったけど。というか心霊写真撮れちゃったのがヤになったなら、なおさら熱心におまじないするようになるか、部活来なくなるだけでしょ」

「まあそれもそうだ」


 伊崎さんの言葉を空先輩はあっさりと認める。

 確かに、そういう線ではなさそうだ。しかし心霊写真に関連することではないとなると、おまじないを嫌がるようになる理由というのは何が考えられる?


「ふむ。それじゃあそろそろ、肝心のおまじないとやらを見せてもらってもいいかな」

「まあいいけど、そんな大したモンじゃないよ?」


 こっち、と伊崎さんは僕らに背を向け、部室内の一角へと向かった。その背に続きながら、僕らも写真部の部室にお邪魔する。

 きっちり整理整頓が行き届いた部屋で、ゴチャゴチャした魔法部の雰囲気とは対照的だった。壁には大きなコルクボードがあり、風景の写真から動物の写真、写真部の集合写真と思われるものまで、雑多な写真が貼られていた。

 その中の、狐の写真が目に留まる。なんというか、この写真だけ抜きんでて写りが悪いというか、嫌がっている狐を無理やり檻に閉じ込めて撮影したような……そう、被写体の自然さがまるで足りていなかった。


「この箱なんだけど」


 伊崎さんの声に、写真から目が引き剥がされる。

 伊崎さんは写真部の棚から、小さな桐箱を取り出していた。


「こん中に心霊写真が入ってんの。それを取り出して、ちゃんと幽霊が写真の中に閉じ込められてるのを確認してから、また箱の中に封じ込める。でもって、今日もいい写真が撮れますようにってお願いするだけ」

「その儀式、伊崎は効果があると信じているのかい?」

「あたし幽霊とか信じてないから。まあでも、気合は入るし、あとこういう変なおまじないとか面白いし? 大して手間もかからないでしょ。だから続いてんの」


 伊崎さんが桐箱を振ると、軽いものが薄木に当たるカラカラという音が響いた。

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