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いつか魔法が解けるまで  作者: イノリ
第一章 「解呪の魔法使い」
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祟られた写真部事件 解答編④

 空先輩と二人きりになった部室で、綾瀬さんが残していったクッキーをつまみながら尋ねてみる。


「先輩。忘れるのが罰になるって、どういうことですか?」

「ああ、あれは私の魔法だよ」

「魔法?」

「魔法を解くための魔法さ」


 魔法。魔法の言葉――。

 なんだろう。聞き覚えがあるような。


「マジックワード?」

「それは大人の事情だとか、みんなが言ってるだとか、都合のいい丸め込みに使われる言葉のことだよ。まあ、人間にとって都合のいいことを言った自覚はあるけれどね」


 それはつまり、裏を返せば、人間ではないものには都合が悪いことを言ったということだ。

 今回の件に当てはめるならそれは、罰を決める立場にあった神、だろうか。

 ……いや、そもそも。そんな神など、果たして実在しているのか。


 ふと、先輩の言葉を思い出す。現実にも魔法はあるが、本当にはない。

 存在しないものは現実には干渉できない。その点において、今回の事件の中心にあった神は、間違いなく存在していた。その神が綾瀬さんを惑わし、様々な行動を取らせたのだから。

 しかし一方で、本質的な点でその神はやはりこの世に存在していない。なぜならその神は、一度も神罰など下してはいないのだから。神自身はこの世に、この物語に参加せず、ただ綾瀬さんを通じて存在していただけ。登場人物紹介には決して載せられない存在なのだ。

 ――そういうことなのだろう。


「先輩。僕、わかった気がします」

「何がだい?」

「現実に魔法は存在するけど、本当にはないって話」


 魔法が存在するかどうか。そんなことは一概には語れないのだ。

 なぜなら、魔法の存在を信じ込むことが魔法を生むのだから。魔法の存在を信じなければ、魔法は現実には干渉できず、存在することもできない。だが信じ込んだとしても、本質的に干渉することはやはりできない。

 魔法とはそのように曖昧な、まさしく夢のようなものなのだろう。

 先輩はそういう眼差しで、この世界を見ているのだ。

 それを理解すると、なおさらかつて抱いた疑問が膨らんでくる。


「先輩。先輩って、魔法好きですよね?」

「まあね。それが?」

「ならどうして、魔法を解くのが使命だなんて言うんですか?」


 ミステリー好きとしては、謎を解く面白さは否定しない。

 しかしこうも思う。謎は謎のままの方が面白いこともある、と。魔法などまさに、その最たる例ではないのか。

 僕の問いに、先輩は顔を背けて――表情が見えないようにしてから答えた。


「――魔法は、いつか解かれなくてはいけないんだよ」


 いやに熱の籠った声は、魔法部の部室に静かに浸透していく。


「魔法の呪いは、もちろん問答無用で解くべきだ。では祝福は? 魔法の祝福というのは甘い果実だ。都合のいい幻想に、ついいつまでもひたってしまいたくなる。でもね、祝福もいつかは呪いに転ずる。そして呪いは人を不幸にするんだ。だから私はそうなる前に、魔法を解いて回っている。……変かな?」


 途中まで自信満々で語っていたのに、最後の問いかけだけは妙に不安が見え隠れしていた。

 そのギャップに思わず笑ってしまう。


「ええ、まあ、先輩は大概変ですよ」

「……キュラ君のくせに生意気な」


 恨めしげな声と共に、先輩が再びこちらを向く。どことなく、その表情は凹んでいるように見えた。

 その顔がちゃんと見えるようになってから、僕は言ってみた。


「でも嫌いじゃないですよ。そういうところ」

「なっ」


 空先輩の顔が急速に赤くなる。普段の仕返しくらいにはなっただろうか。


「そっ、それはどういう……」

「さぁどういう意味でしょう」


 今度は僕が空先輩に背を向ける。なぜかは、聞かないでほしい。

 予想外に味わった気恥ずかしさは、先輩に教えてやるつもりなどなかったのだから。




 空先輩が本音を語る際の言葉は難解で、その真意はいつも判然としない。

 いつか、来るのだろうか。この不思議な先輩の言葉の全て――いや、空先輩の全てを理解できる日が。

 その日の到来を願いながら、僕は今日も、空先輩と一日を過ごす。

 魔法など実在しやしない、この現実という世界の中で。

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