その9
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翌日、日の出とともに目を覚ました俺が横をむくと、サターニアが無邪気な顔ですうすう寝息を立てていた。こうやって見てると可愛いんだがな。
「そういえば、昨日は身体を洗ってなかったっけ」
ここは城だ。朝風呂くらい入れるだろうと思いながら俺はベッドをでた。同時にサターニアも起き上がる。俺を見てにっこり微笑んだ。
「おはよう、ロン。今日は何するの?」
「とりあえず風呂に入る」
「じゃ、私は?」
「朝飯を食うなり好きにすればいいぞ」
言って俺は部屋をでた。むこうからメイドがやってくる。
「あのう」
「あ、はい。なんでしょうか?」
俺が声をかけたらメイドが驚いた顔で気をつけをした。これが本当のメイドと雇い主の力関係か。やっぱり秋葉原のメイド喫茶とは違う。
「風呂がどこにあるのか教えてほしいんだ」
もっとフレンドリーな感じでも俺は構わないんだけど、と思いながら訊いたら、メイドが会釈してから右手を廊下の先にむけた。
「あちらをまっすぐ進みまして、階段を降りて、一階にございます」
「わかった。それから、代わりの服とか、下着が欲しいんだけど」
「すぐにお持ちいたします」
「そりゃどうも。じゃ、風呂に入って待ってるから」
で、一階に行って、ほかのメイドにもう一回風呂の場所を聞いて、それで俺は風呂場を見つけた。服を脱いで入る。なんとなく壁を見ると、ドラゴンの顔をした石像の口からお湯がどばーっと流れていた。親父と少し似ている。
「いまごろ、どうしてるかな」
まだ山を下りて一ヶ月ちょっとだが、懐かしく思いながら俺は洗面器にお湯を組んだ。頭からかぶる。
「うー気持ちいい。生き返るな」
「じゃ、私も」
という聞き覚えのある声がすぐ後ろでした! 驚いて振り返ると、俺と同じようにサターニアが洗面器でお湯をかぶっている。もちろん風呂場だから、サターニアもオールヌードだった。胸がでっかいな。俺が人間のころにこれを見たらなんて言っただろうか。
驚く俺を見て、サターニアが嬉しそうに笑いかけた。
「何を見てるのよ。ロンのエッチ」
「そっちこそ何をやってるんだ」
「私もお風呂に入ろうと思ったのよ。私も昨日、身体を洗ってなかったし」
「何も一緒に入ることはないだろう」
「さっき、朝飯を食うなり好きにしていいって言ったじゃない? 私が背中を流してあげるから」
機嫌のいい調子で言い、サターニアがタオルと石鹸を手にとった。
で、なんやらかんやらあって、背中だけじゃなくて前までサターニアと洗いっことしていたら、外で何やらガタガタと妙な音が聞こえてきた。
「なんだ?」
「何かしら?」
不思議に思いながら頭を洗っていたら風呂場の入口が開いた。
「ロン様! 申し訳ありません。ここにいると聞きまして」
と言ってきたのは昨日も世話になった衛兵さんだった。で、俺たちを見てぎょっという顔をする。
「あ、あれ!? サリーナ姫様!?」
「え? 違うわよ」
俺の隣でサターニアが見ながら胸を張った。裸だってのに。
「私はサターニアよ。というか、でて行きなさい。いま私はロンと一緒に仲良くお風呂に入ってるんだから」
「あ、あの、失礼しました。ですが、すみません。いまはそういうわけにも行きませんで」
衛兵が慌てたように背をむけた。ただ、それでもでて行かずに話をつづける。
「サリーナ姫が朝から見当たらないのです。しかも、サリーナ姫を拉致した賊の書き置きらしいものまで置いてありまして。急ぎ、アーサー王の元へお越しくださるように」
「なんだと?」
「では伝えましたので!」
言って衛兵が風呂場からでて行った。なるほど、これは非常事態だな。
「すぐでるぞ」
俺はサターニアに言って、頭からお湯をかぶって石鹸の泡を流した。