その8
「どうした?」
「ロン、誰と会ってたの?」
よくわからないことを言ってきた。
「べつに誰とも会ってないけど」
「嘘。何か気配が違う。私以外の女と話をしたでしょ」
サターニアが俺から離れた。宿で会った女性の皆様のことだろう。さすがは元魔王の娘だな。そのへんは敏感である。感心する俺をサターニアがにらみつけてきた。
「ひょっとして、あのサリーってクズ女神? やっぱりロンって浮気してたのね」
何か勘違いしたらしいサターニアが両手の人差し指を立てた。何をするのかと思ってたら、が自分のこめかみに人差し指をあてる。
「えーと。――あ、お父様? ちょっと聞きたいことがあってね。庭にいるレッサーデーモンなんだけど、いま、管理って大丈夫? 何匹かこっちにきて、王都の人間に何かする、なんてことはないわよね。あったら大変だと思うけど、不慮の事故ってのは起こるものだから」
言いながら、じろっとこっちを見た。まずい! 念話で親父さんと意思疎通してるのだ! しかも、私はやれなんて命令してないわって会話パターンである!! 俺はあわててサターニアに駆け寄って両手を頭から離した。
「待て待て待て。誤解してる。俺はサリー姉ちゃんと会ってなんかない。ただ、宿で女性店員の皆様に声をかけられて」
これでサターニアの目が余計に吊り上がった。
「宿で女性店員と仲良くしたの!? あなた、あのクズ女神以外にも、そんな相手と――」
怒りの表情で、あらためてサターニアがこめかみに人差し指をあてた。
「もしもしお父様? レッサーデーモンの話はよくないけど、グレーターデーモンはもっとよくないわよね? でも、ちょっと目を話してる隙に逃げだす、なんてことはあってもおかしくはないと思うし。そうね、五百匹くらい」
「だからそうじゃないんだあああ!!」
とにかくサターニアをなだめて、誤解だと納得してもらうのに一時間ほどかかった。
その夜は心労で嫌というほどよく眠れた。やはり半球催眠より熟睡のほうが俺もリフレッシュできる。