その6
「あ、これはどうも!」
廊下を歩く途中で、俺を見かけた見まわりらしい衛兵があわてて敬礼をした。俺のことはちゃんと上から連絡が行ってるらしい。こりゃ助かった。もう冤罪で捕まるってことはないと思っていいな。
「お仕事ご苦労様」
俺も衛兵に手をかけてあいさつした。特別扱いされるってのも悪くない気分だな。記憶を頼りに城のなかを歩き、俺は階段を降りて一階まで行った。
「ロン・カタースタート殿であったな」
そのまま城の入口まで行こうとした俺に、背後から聞き覚えのある声がかけられた。誰だったかなと思いながら振りむくと、俺がアーサー王とサリーナ姫と会ったとき、一緒にいた髭のおっさんがいた。こっちにむかって歩いてくる。
目が笑ってなかった。
「俺のことはロンって呼びつけでいい」
返事をしながら俺は周囲を見まわした。あのとき、このおっさんと並んで立っていた槍の男は――とりあえずいないようである。
「ああ、バルガスなら見まわりに行っている。ここにはおらんぞ」
髭のおっさんが言ってきた。俺が警戒してるってわかってたらしい。
「バルガスってのは、あの槍の男か?」
「ほかの誰だと思う?」
「念のための確認だよ。それでいまは見まわりか」
だったらいいとしよう。あの槍の男が何かやろうって気になったらとっくに大騒ぎになっている。そうならない以上、少なくとも俺に喧嘩に売る気はなさそうだった。
とりあえず、いまは、だが。
「それから、確かに俺の名前はロンだけど」
言って俺は目の前の髭のおっさんをながめた。髭のおっさんが、あまりおもしろくもなさそうな顔で俺を見あげる。
「私の名前はルーファス・アンダーソンと言う。この国で宰相をやっておる身だ」
「あ、そうでしたか。あらためてよろしく」
アーサー王と一緒にいたから、そうじゃないかとは思っていたが、やっぱりお偉いさんか。一応は敬意を払うのが礼儀だろう。とは言うものの、どうしたらいいのかわからない。とりあえず、俺は衛兵の真似をして敬礼をしてみた。
「アーサー王から、衛兵になるように言われたのかね」
顔をしかめたまま、ルーファスが訊いてきた。
「準騎士にならないかって言われましたよ」
俺は敬礼していた手を降ろした。
「俺は断ったんですけどね」
「それはなんでまた?」
「興味がなかったもんで」
「ほう」
ルーファスが俺を上から下まで見た。
「なるほどな。姿は人間でも、やはりドラゴンは考え方が根本的に違うということか」
俺も苦笑した。このおっさんはこのおっさんでただものじゃないとは思ってたが、やはり見抜いていたらしい。
そして理由はわからないが、俺に敵意を持っている。最初は俺が不審者だから怪しんでるだけかと思っていたが、この感じはそうじゃないな。まあ、大っぴらな態度をとってくるまで、俺も気がつかないふりをしておくが。
「じゃ、あのバルガスがなんなのかも」
「知っとるよ。あれは魔族だ」
サターニアと同様、平然と返事をしてくる。
「元は下級の魔族だったそうだが、過去にドラゴンやらなんやら、いろいろな魔獣の血肉を食らって、その力を自分のものにしたと言っていたな。いまはアークデーモン級の力を持っているそうだ」
なるほど。魔族だけじゃなく、なんだかドラゴンみたいな感じもすると思っていたが、そういうことか。
「それをわかっていて、それで使ってるんですか」
「そもそも、あやつを呼びだしたのは私だ」
「は?」
「魂の契約書にサインしてな。私の私兵にさせている」
「ふうん」
国を守るためには、そういうことも必要なんだろうな、と俺は思った。
「それで、そなたはこの城の客人としているようだが」
ルーファスが話を変えてきた。
「サリーナ姫の護衛の仕事をもらいましたよ。準騎士の地位はなしにして」
「なるほど」
ルーファスがうなずいた。
「では、普通の平民と同じ立場だと考えていいわけか」
「そういうことになるでしょうね」
「ならば、明日から、この国のために死力を尽くして働いてもらいたい」
「俺はのんびり働いていたかったんですけど」
「平民は血の汗を流して働かなければ食って行けぬぞ」
「じゃ、せいぜいがんばりますよ」
俺はルーファスに手を振った。
「すみません、俺、宿に忘れ物があるんで、ちょっととってきます」




