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その2

「は? 女神?」


 と俺は聞き返したが、そうやって考えてみると、なるほど、小百合姉ちゃんがものすごい美人になってるのも納得がいく。それに、女神なら死んでも生き返れるだろう。いや、死んだから女神になったのか。日本では死人を仏様と言うし。


 とりあえず小百合姉ちゃんの言葉を信用しようと思っている俺の前で、あらためて小百合姉ちゃんが口を開いた。


「それで、あなたも死んだから」


「は?」


 これで何回目の、は? だろうか。俺は苦笑しながら小百合姉ちゃんを眺めた。


「あのさ、悪い冗談は――」


 と言いかけ、俺は小百合姉ちゃんがまるで笑っていないことに気づいた。こりゃ本気の目だ。


「――そうだよな」


 俺が死んだんなら、去年死んだ小百合姉ちゃんと再会できても不思議じゃない。


「それで、俺が死んだってことは信用するとして、死因はなんだったんだ? 俺、まるで覚えてないんだけど」


 自分のことだ。一応知っておこうと思って訊いてみたら、小百合姉ちゃんがやれやれみたいな手の形をとった。


「覚えてないんなら、無理に思いだす必要はないわよ。結構悲惨な最期だったかもしれないし」


 いやなことを言ってくるが、それはそれで正論という気がしないでもなかった。世のなかには知らないほうが得することもあるだろう。痛みでもだえ苦しんだ記憶が鮮明によみがえったりしたらシャレにならない。


 となると、あとは。


「あの、お袋は」


「あ、ごめんなさい。それは私にもわからないのよ」


 小百合姉ちゃんが困ったみたいに言ってきた。


「私、一応は女神なんだけど、こっちの管轄でね。そっちの世界のことは情報が入ってきてないのよ。悪いけど、諦めて」


「元の世界に帰る方法は?」


「死んでいて帰れると思う?」


「――思わない」


 俺は納得するしかなかった。ここでわめいたってどうにもならないことくらいは俺でもわかる。それに、親父はとっくに家をでて行ったし、俺もお袋と仲がいいわけじゃなかった。まだ若かったから、俺がいなくなればやり直しも効くだろう。これでおさらばってのもあとくされがなくて、かえっていいと考えることもできなくはなかった。この件は忘れるべきだな。


「じゃ、俺は――」


 どうなるんだ、と言いかけて、俺はおかしなことに気づいた。


「ちょっと待ってくれよ。小百合姉ちゃんは死んだあと、なんで女神になったんだ?」


「サリーと呼びなさい」


 俺の言葉を訂正してから、小百合姉ちゃん――じゃなくてサリー姉ちゃんが、ちょっとため息をついた。


「まあ、簡単に言うと、去年のいまごろ、私も同じようなことになってね。そのときの女神様――だから、いまの私の先輩なんだけど、その先輩に、このあとどうなりたいかって聞かれたのよ」


 あまり楽しくもなかったって感じでサリー姉ちゃんが説明をはじめた。


「でも、ほら、私ってヒッキーやってたじゃない? それで、人と会うのが怖くって。それとはべつに、私のことを笑ってた連中を見返してやりたいなんて思ってたし。だから私も女神になりたいって言ったのよ」


 言って、サリー姉ちゃんが自分の顔を指さした。


「で、いまこれ」


「ふうん。願いが叶ってよかったじゃん」


「それがそうでもなくてね」


 サリー姉ちゃんの顔がさらに渋くなった。

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