表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/31

29

12月は多忙なので、更新が飛ぶか短文になります。ご了承ください。

私が今いる場所は海の魔境の一つ溟海(めいかい)で、森の魔境である樹海と同様に普段ならば人が近付かない場所です。そんな海域に複数の国の船がいくつも浮かんでいるなんて前代未聞の事態です。


しかも何か揉めているらしく、遠くの船の甲板で2人の男性が言い争っているのが見えますが、流石に潮騒や風の音の方が大きくて何を言い争っているのかまでは解りません。ただ言い争っていると思われる片方はどうやらお父様のようで、遠目にも解るぐらいに大きなため息をついておられます。


「あまり良い雰囲気じゃないな」


ウィルさんが眉をしかめてそう言った時、お父様がこちらに気付いたようです。すぐさま近くの兵士に何かを耳打ちしたかと思うと、その兵士がどこかへと伝令に走りました。その直後、その船から翼の生えた動物が5頭飛び立ったかと思うと、こちらへと向かって飛んできます。


「アレは……我が家の魔法騎士団のマーナガルムでしょうか?」


お兄様の言うマーナガルムは翼のある狼で、ヴェルフル魔法伯家を守る騎士団を象徴する騎乗獣です。騎乗獣、つまり獣という分類に便宜上はなっていますが、その生態は魔法生物と呼ぶ方が相応しく。その事が一番良く解る特徴として、主となった人間の魔力を吸収して生命維持をしているので、いわゆる食事というものが不必要な事があげられます。飛行速度はそれ程速くありませんし長距離移動も得意ではありませんが、突風などをものともしない安定した飛行と魔力耐性が高い事が特徴で、魔法を高頻度で使いながら戦う我が家の騎士団向けの騎乗獣です。


「ヴィルヘルム殿下、ギルベルト殿下、御前に参ずる事のお許しを」


少し離れた場所に降りた騎士5人が、サッと膝をついて挨拶をします。魔法伯家の騎士団はあくまでも魔法伯家を守る為の騎士団で、忠誠を誓った相手は魔法伯家であり当主であるお父様です。ですが皇国の一員として両殿下への礼儀は尽くさねばなりません。


「良い、許す。それより何があった」


「こちらを……」


そう言ってウィルさんに差し出したのは大粒のマルチカラー・トルマリンでした。赤と黄色と白という3色が一つの宝石の中で煌めくさまは美しいの一言です。その宝石を受けとったのはお兄様で、その宝石の持つ意味をすぐさま理解して魔力を籠められました。


途端にその宝石から光が溢れ、宝石の上0.2クラフター(40cm)ぐらいのところに映像を映し出しました。





━━━]━━━━━━━━━-





「ガステール公爵閣下、これはどういう事でしょうか?」


お父様の声と一緒に映像に大きく映し出されたのは、モディストス王国のマグヌス・ガステール公爵でした。王国に居た頃に何度かお会いした事がありましたが、あの侮蔑しかない眼差しは忘れられません。


「これはこれは、ヴェルフル伯爵。良い天気ですな」


ガステール公爵の傲慢な態度に、映像がゆっくりと上下しました。どうもお父様の視点をそのまま映像化しているようで、今の上下の動きは感情を抑える為に深呼吸をした為のようです。


「なぜこちらに??」


「それは決まっているだろう。我が国としてもちゃんと見届けなくては。

 そなたが言う魔王討伐などというホラ話の結末をな、ふはははは。」


ガステール公爵の相手を見下した笑いに、公爵の後にいた部下たちまでもがお父様に侮蔑の視線を向けながら笑います。


「王国側が見届け人を出す事自体は想定しておりましたし、それは構いません。

 私が問題としているのは、そちらのお二人の事です!」


少しだけ語尾を強めたお父様が向けた視線の先、その先に居た人を見た瞬間、私の体が無意識のうちに小さく震えてしまいました。そこにいたのは……


「だって、心配だったんですものぉ。

 聖女である私の祈りが無ければ、魔境から無事に戻れる訳がありませんわ」


「あぁ、レイチェルは本当に優しいな。まさしく聖女と呼ぶにふさわしい。

 皇国の外務大臣よ、まずは私達に礼を言うべきではないのか?

 聖女であるレイチェルと神の寵愛を受けている私が居るからこそ、

 溟海がこれ程までに穏やかなのだから!」


ジェラルド・モディストラ殿下……いえ、今や国王となった元婚約者にレイチェル・ミーモス侯爵令嬢。その2人の後ろにチラリと見えたのはフレデリック・クロイツ侯爵子息でしょうか。そんな2人を完全に無視したお父様は視線をガステール公爵へと戻すと、更に言葉を続けます。


「ガステール公爵、これでは検証にならないのですが?」


「そのような事は勿論わかっておる。

 だが慈悲深い神の寵愛を受けたジェラルド陛下とレイチェル令嬢は

 皇国の冒険者すら助けたいと秘密裏に船に忍び込まれていてな。

 気付いた時には既に引き戻せぬ場所にまで来ておったのだ」


「しかしっ!!」


「おぉ、そうだ。

 貴国の冒険者が樹海の魔王を倒したというのが万が一本当だとしても、

 ジェラルド陛下とレイチェル令嬢が神の祝福を用いて

 樹海の瘴気と魔王の力を抑えていたからなのではないかな??」


ガステール公爵のその言葉に、王国側の人たちは「おぉ、そうだ。そうに違いない」や「流石は陛下です」といった追従(ついしょう)を言って盛り上がります。


ちょうどその時にお父様がこちらに気付いたようで、映像に一瞬だけボトルシップが映し出され、その甲板にいる私達がとても小さく見えました。お父様がこの時点まで私達に全く気付いていなかった事に驚きましたが、それだけ目の前の頭痛の種の対処が大変だったのでしょう。


ただお父様がこちらをチラリと見た事で、王国側も私達の存在に気付いたようで、


「ん? あれが(くだん)の冒険者か?

 今すぐここに呼べ。特別に会ってやっても良いぞ」


とジェラルド陛下が居丈高に命じれば、レイチェル侯爵令嬢も続いて


「確かヴェルフル伯爵の御子息も討伐隊の中に居られるとか。

 是非ともご挨拶を致したいですわ」


とお父様に向かって微笑みます。その微笑みを見て心に生じた気持ちを何と言えば良いのか……。同性だからなのかもしれませんが、可愛らしいとも美しいとも思えません。その何かしらの欲に満ちた眼差しと組み合わさって、ただただ醜悪な微笑みでした。





━━━]━━━━━━━━━-





そこで映像はプツリと途切れました。お父様が映像の保存を止めて、映像を籠めた宝石を騎士に渡して此方へと向かわせた為です。


「うわぁ……。エル、御指名だよ」


「勘弁してください」


ギルさんの言葉にお兄様が心底嫌そうな顔をします。といってもギルさんに揶揄う意図は無いようで、自分じゃなくて良かったという安心と同情心からの言葉のようです。


お父様は皇国で女性に人気がありますが、お兄様もお父様と同じぐらいに人気があります。ただお父様は既婚者なうえにお母さま一筋ですし、皇国では1人の男性が複数の女性を妻にする事は余程の事がない限り許されません。ですがお兄様はまだ未婚なうえに婚約者もいない為、年頃の娘を持つ親はお兄様に何とか自分の娘を気に入ってもらえるよう躍起になるのです。


当然ながらウィルさんやギルさん、アンディさんもその対象ではありますが、皇子である両殿下は身分が高すぎ流石にて望めないという家門も多いですし、アンディさんは次男で家を継がない為にお兄様に比べると「娘を持つ親が望む夫候補ランキング」では少しだけ負けてしまいます。


王国も皇国程ではないにしても女性不足の国です。1人の女性が2人~3人の夫を持つことも珍しくありません。そして現時点で王国における身分が高い女性の五指に入るレイチェル令嬢は、子供の頃からありとあらゆる我儘を許されてきました。欲しいもの全てを手に入れてきた令嬢は、お父様の麗しい外見を見てお兄様に目をつけただのだと思います。



「魔法伯閣下より伝言が御座います。

 ヴィルヘルム殿下、ギルベルト殿下。及びアンドレアス・カリクス卿と

 エルンスト様にコルネリア様。御一同で船を移動してほしいとのことです。

 ただしこの映像を見たうえで、しっかりと準備をしてから……と」


「はぁ……。仕方ない、解ったと伝えてくれ」


代表してウィルさんがそう言えば、一番後ろにいた騎士がお父様が乗っている船の方に向かって手旗を振って合図を送りました。


準備をと言われてお兄様たちは動き出したのですが、私はあの2人と顔を合わせなくてはならないことに吐き気がする程の拒否感があり、足が全く動きません。


「大丈夫かい、リア?」


「お兄様、私も……私も行かなくてはいけませんか?」


あの頃の私に戻ってしまったかのように、気持ちも身体も委縮してしまいます。それ程までに王国にいた頃の記憶は、私にとって辛いものばかりでした。


「この船に残っていて良いよと言ってあげたいのは山々なんですが、

 むしろ1人で残っている方が危険ですよ。

 それに私達が全員移動することで船もボトルに戻せますし。


 リア、貴方はアスティオス皇国のヴェルフル魔法伯家令嬢コルネリアです。

 私の自慢の妹です、胸を張りなさい。大丈夫、私達が付いています」


そう言うと、お兄様は私の背中をトンと気持ち強めに押しました。そのお兄様の言葉に勇気をもらうと、私はようやく一歩足を前に進める事ができたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ