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13 (侍女視点)

ある程度の家格の貴族になると、居間と寝室の2つの私室を持つことが当たり前になりますが、ある程度の貴族の範疇に収まらないヴェルフル魔法伯爵家においては居間・勉強(執務)室・寝室の3つの私室に加えて、私室の手前に侍従(男性従者)侍女(女性従者)や騎士が待機している待合室や準備室と呼ばれる部屋を持つことになります。その待合室の役目は部屋の主人を様々な意味で守る事にあり、部屋の主人に会う為には家族といえど待合室で待機している侍従や侍女に取り次いでもらう必要があるのです。


その待合室にて他の侍従・侍女や騎士と本日のお嬢様の予定の打ち合わせを終えた私は、後はお嬢様の起床時間を待つのみとなっていました。侍従や騎士は既に退室していて、お嬢様の朝食のチェックに向かった者、また本日は外出が予定されているので馬車を用意するように指示に向かった者、訪問先へ先触れを出す手続きをしに行った者などなど、各々が自分の仕事を始めています。


そんな訳で現在、待合室にいるのはお嬢様の筆頭侍女である私を含めた専属侍女3名のみです。流石にお嬢様の専属侍従や専属騎士といえど、男性がお嬢様の部屋に入る事は許されていません。寝室以外ならば入る事も可能ではありますが、それはお嬢様が身だしなみを整えて朝食を終えてからの事。まだお嬢様がお眠りになっているこの時間は、私達侍女のみが入ることが出来るのです。


「では打合せ通りにお願いね。

 まずクララはカーテンを開けて部屋の換気を、

 ディアナはバスルームを温めてバスタブにお湯を張ってね」


「えぇ解ったわぁ。今日は天気が良いから風が気持ちよさそう」


「魔法伯家の魔道具は流石に別格よね。あの量のお湯が一瞬で出せるんだから。

 実家のだとバスタブにお湯を張るのに30分はかかるのよ」


一瞬でバスタブにお湯が溢れかえる魔道具は、私も初めて見た時には驚きました。魔法伯邸はあちこちに魔道具が使われていて、そのおかげで私達も仕事を効率良く進める事ができるのですが、その魔道具全てが一般的なモノよりも高性能なのです。


「さぁ、おしゃべりはここまで。お嬢様の起床時間よ。

 今日も張り切っていきましょう!」


待合室に備え付けられている上質ながらも華美過ぎない時計で時刻を確認した私は、クララとディアナに声をかけました。さぁ、本日も仕事の始まりです。




「お嬢様、おはようございます。ご気分は如何ですか?

 本日は(わたくし)ヒルデ・ベルクが1日お嬢様のお傍に服事させて頂きます」


そうご挨拶を申し上げれば、ゆっくりと瞼を上げたお嬢様が静かに起き上がりました。今日は私が一日お嬢様のお傍に付き従う日で、これは侍女3人の当番制になっています。


「おはよう、ヒルデ。それからクララやディアナもおはよう。

 今日も一日、よろしくね」


起きたばかりのお嬢様は窓から差し込む朝の光に眩しそうに瞬いてから、いつも以上にふわりと柔らかい笑顔で私達に挨拶を返してくださいます。以前勤めていた某家の御令嬢は極めて寝起きが悪いうえに性格も荒く、朝の支度に四苦八苦した覚えがあります。それに比べてお嬢様の何と手のかからない事か……。


「本日、バスルームには私ディアナ・ノイマンが服事させて頂きます」


部屋中のカーテンを全て開け終えたディアナがお嬢様を伴ってバスルームへと消えて行きました。夜にもしっかりと入浴をしますが、朝は朝で髪をより美しく整えて肌の血色を良くするために軽く入浴をするのです。


そうやってディアナがお嬢様の入浴のお世話をしている間に、私とクララは本日の予定に合わせた衣装やメイク道具を打合せ通りに準備していくのでした。



━━━]━━━━━━━━━-



私がお仕えさせて頂いているお嬢様は、そのお名前をコルネリア・ヴェルフル魔法伯爵令嬢と仰られます。


私の雇用主であるエアハルト・ヴェルフル魔法伯爵閣下の書類上の娘にあたり、現在は16歳、この春が終わる頃には17歳になられる、とても穏やかで美しい御令嬢です。


ただ、その生い立ちは波乱万丈で……。


先程、お嬢様の事を書類上の娘と申しましたように、お嬢様の本当の御両親は旦那様や奥様ではありません。奥様の聖国に住まわれていた従姉妹にあたる女性のお嬢様で、約1年前に事故で亡くなられてしまっているのです。お嬢様も暫く行方が分からなくなっていましたが、外交使節団の一員として聖国へと向かわれていた奥様が、事故現場の谷よりはるか下流の小さな町の施設にいるお嬢様を見付けられたのだそうです。


ただその時のお嬢様は大怪我を負われていて、記憶すらも定かではなく……。


そんな一大事に奥様から旦那様へと連絡が入り、旦那様が(おおとり)を召喚して空を翔けて向かわれたのだとか……。


私はその鳳をまだ見た事がありませんがとても綺麗な鳳で、羽毛がまるで薄桃色の炎のように揺らめくのだそうです。しかもその背は大人が10人は乗れそうな程に巨大で、旦那様が契約している幾つもの使い魔の中でも一番に大きく、1・2を争う程に美しいのだとか。一度拝見させて頂きたいものです。



そんな訳でコルネリアお嬢様は親族にあたるアスティオス皇国(我が国)のヴェルフル魔法伯爵家へと引き取られ、ここで治療を受ける事になったのです。引き取られたばかりの頃のお嬢様は、枕から頭を上げる事すら出来ない程でした。その間は魔法伯邸に残っていた奥様の侍女がお世話したそうなのですが、やはり専属の侍女が必要だろうと募集がかけられました。


私はその募集に飛びついたのです。


その当時、私が仕えていたお嬢様は仕え甲斐の無いお嬢様でしたし、何より私は少しでも功績を上げたいと考えていましたから。


女性が圧倒的に少ないこの国で、女性が結婚をせずに1人生きていこうと思うと相応の功績が必要です。女性に求められる事は何より婚姻ですし、子を成す事です。ただ私はそういった女性としての役目より、私だからできる役目というものを重視したいのです。その思いを果たす為には何より功績が必要でした。



魔法伯家の侍女の待遇は同じような家格の家と比べても破格で、魔法伯家が新しく迎えたお嬢様をとても大切にしている事が伺い知れました。競争率も相当だったそうで、その中でお嬢様付きの筆頭侍女として選ばれた事が誇らしくてなりません。


そうして初めてお会いしたお嬢様は、まだベッドから下りられるような状態ではなく……。私の仕事も一般的なお嬢様のお世話というよりは、病人のお世話という方が正確な状態でした。


しかもコルネリアお嬢様は、私達が何か仕事をするたびに「ありがとう」と優しく微笑まれて感謝をしてくださるのです。それは初めての経験でした。


私達の仕事は()()()()を作り上げる事です。

主が快適に過ごせるように、主が望むものを当然のように用意する事が私達の仕事です。例えば湯浴みをしたいと主が口に出す前に、バスタブに湯を張り好みのバスオイルを用意する……。それが当たり前の事だと主に思ってもらえるほど常に、完璧に。


そんな()()()()に感謝をするような貴族は居ませんし、私達もそれが当然の事だと思っていました。それらの貢献はどれほど小さくとも国を支える一環ですし、全ての国民が等しく背負う義務です。そんな義務を遂行しただけの事に、感謝を返す必要は無いとそう思っていました。


なのでお嬢様が私達に感謝を口にする度に、何とも言えない居心地の悪い思いをしたのです。他の侍女たちも同じだったようで、


「うちのお嬢様は貴族としてなっていないのでは?」


「記憶を失った所為で、貴族としての振る舞いを忘れてしまったのかしらぁ?」


なんて声が聞こえてくるほどでした。私もそうですが他の侍女も下級貴族の出でしたから、「貴族たるもの」という教えは受けていましたので……。


そんな居心地の悪さは、自分の感情の奥底にあるモノに気付くまでずっと続きました。



━━━]━━━━━━━━━-



今になって思えば単に面映ゆかっただけで、お嬢様に感謝されて嬉しかったですし誇らしかったのです。そんな気持ちを今まで感じたことがなかったので、判断できなかっただけで……。自分の気持ちに気付いてから改めてお嬢様を観察すれば、常に他人やあらゆるモノに感謝をし、身分関係なく思いやりをもって接する姿勢はとても好ましいものでした。他の侍女もほぼ同時期に気付いたようで、この頃からお嬢様の事をただ仕事として仕える主ではなく、何ものにも代え難い大切な主として慕うようになったのです。その結果、コルネリアお嬢様のお世話にどんどんと力が入るようになっていきました。


この頃にはお嬢様も少し回復されていて、今まではなかなか出来なかった髪や肌の手入れにも時間が使えるようになりました。最初は艶の無い灰色の髪だと思っていましたが、実は空の色すら写し取る美しいプラチナ色をした髪だと気付いたのはこの頃です。世界で一番美しいとすら思える月光のよう髪に、太陽のような黄金色の瞳、シミ一つない白く透明感のある肌と、何もかもが美しいお嬢様でした。


私達はみな、日に日に美しさを増していくお嬢様に嬉しくなって、どんどんとお世話に力が入るようになっていったのです。


そうなると不思議な事が起こり始めました。


お嬢様の髪の手入れを熱心にすれば、何故か私の髪まで艶やかに……

お嬢様の肌の手入れを丁寧にすれば、何故か私の肌まで美しくなるのです。


最初は勘違いや思い込みかと思いましたが、鏡に映る自分の姿に驚きすぎて絶句してしまう程の違いにそんな疑いは直ぐに消えてしまいました。また他の侍女も同じ事を感じていたようで、その頃から魔法伯家では「お嬢様のお世話をすると自分まで美しくなる」なんていう噂が秘めやかに囁かれるようになりました。


そうなると黙っていられないのが女性の(さが)というものでしょうか。


奥様の侍女や、本来は侍女の役目を請け負う事のできないランドリーメイド(女性の肌着を洗う係)までもが、お嬢様の世話をしたいと立候補しだしたのです。


魔法伯爵家の人事を任されている執事長の元には連日のように転属願いが届いていたそうで、その騒ぎが旦那様の耳に入るのも当然の事でした。旦那様はとても子煩悩な事で有名で、それは血の繋がったエルンスト様だけでなく、新たに娘となったコルネリアお嬢様にも同様に愛情を注がれていました。その親子の微笑ましい光景を目にする度に、私まで心が和む程です。


そんな子煩悩な旦那様ですが、同時に魔力や魔法、魔道具に関しては魔法伯の名に恥じないスペシャリストでもあります。その能力を存分に発揮され、僅かな時間の診察でお嬢様と私達侍女の身に起きた不思議な現象の原因を解明されました。


どうやら記憶を失っていたお嬢様は、魔力の扱いも同様に忘れてしまっていたそうなのです。その為にお嬢様は魔力を常に漏出させ続けていて、その漏れ出た魔力を私達がお世話をさせて頂いた際に浴びる事で、一時的に私達の髪や肌のコンディションが良くなっていたのだろうとの事でした。


その後。コルネリアお嬢様は旦那様の指導の元、魔力の扱いを覚えられました。その結果、今までのように劇的な変化が私達の身に起こる事はなくなりましたが、それでも毎日丁寧にお嬢様のお世話をし続けていると今まで気になっていた肌トラブルなどが徐々に消えていく事が解ります。


これはお嬢様の魔力が規格外すぎる事が原因なので、旦那様も仕方が無い事だと思っておられるようです。そんな訳で、今もお嬢様の侍女に立候補する女性は後を絶たないのです。


私としてはそのような付加価値よりも、お嬢様ご自身の良さを理解できる人に侍女になって欲しいと思いますが……。



━━━]━━━━━━━━━-



「本日は午前中には冒険者ギルドへと赴き、登録と説明を受けた後、

 昼食をはさんで午後からはシュナイダー衣服店にて活動服を、

 エーデルシュタイン宝飾店にて幾つかの宝石を見繕う予定です」


「はい、解りました」


食後のお茶をゆっくりと楽しまれているお嬢様に、本日の予定を順に読み上げていきます。お嬢様はようやく身体が回復したばかりだというのに、魔境へと向かわなければならないのだそうで……。


子煩悩な旦那様がいったい何を思ってその様な無茶を……と唖然としましたが、逆に言えばそう決断せざるを得ない()()があるのでしょう。


ただ、そうなりますと色々と準備が必要になります。

我が国では魔境に入るには許可が必要ですし、その許可は国か冒険者ギルドでしか出せません。国の許可は手続きや審査が煩雑でとても時間がかかりますが、その分保障もしっかりとしてます。対し冒険者ギルドは手続きが比較的簡単ではありますが保障は全く無く、何かあった場合は全て自己責任となります。


だから貴族の子弟は国の許可を取る事が殆どなのですが、今回に限って言えば審査だけで半年はかかるという国の許可を待ってはいられないとのことで、冒険者ギルドに登録して許可を得るという方針になりました。


そんな訳で今日は私が随従する事になった訳です。

私は【危険感知】のグラティア(技能所持者)ですから。


この国のグラティア率は諸外国に比べると高めですが、それでもお嬢様に専属で仕える侍女・侍従、騎士の6名全員がグラティアなのは珍しい事です。それだけ旦那様がお嬢様を大切に思っておられる証でもあります。何せグラティアを雇うには、技能にもよりますが最低でも一般的な侍女の給金の2倍の給金が必要になりますから。


そしてお嬢様が本日向かわれるシュナイダー衣服店は、通常のドレス等とは別に魔獣の皮や角などを素材とした活動服も扱う少し変わった衣服店で、貴族や高位冒険者なら誰もがこの店の活動服を欲しがると言われる程に高い性能の衣服を扱う店です。


そういった服は主に男性用ですが、貴族の女性が乗馬服やそれとよく似た活動服を持つことは珍しくはありますが無いという程でもありません。活動服はその名の通り、何かしらの国への貢献度を上げる活動をする際に身につけるものなので、丈夫でありながら動きやすいモノが好まれるのですが、シュナイダー衣服店はそういった基本をしっかりと抑えながらも品が良くて装飾性もあるために、貴族の女性にも大変好まれるのです。


そしてもう一つの店、エーデルシュタイン宝飾店は通常の宝石も扱いますが、魔力と相性の良い宝石を主に扱う帝都でも最高級の店です。魔力だけでなく個々の魔法との相性や個人の資質といった、あらゆる相性をチェックして一番良い宝石を見立ててくれる店で、旦那様はこの機会にお嬢様に少しでも良い宝石を買い与えたいのだと思われます。




「お買い物に行くなんて、初めてだわ」


馬車の窓から見える景色に嬉しそうに顔を綻ばせるお嬢様に癒されますが、その言葉にほんの少し憐憫を覚えてしまいます。貴族の子女が今まで一度もお買い物をした事が無いなんてありえませんから、記憶を失っておられる所為で……と。


ただ記憶が無いおかげで、亡くされた本当の御両親の事でお心を苦しめずに済む事は、不幸中の幸いなのかもしれません。


「お嬢様ぁ。ほら、あちらの通りはライラックの花が綺麗ですよぉ」


「まぁ、本当ね。薄紫の花がとても綺麗。

 お庭の薔薇もとても素晴らしいけれど、街路樹の花も素敵ね」


私の右隣に座っているクララが指さした方向を見たお嬢様が、嬉しそうに答えられます。


「でしたら今度、庭師にライラックの花を植えれないか聞いてみますねぇ」


この娘はクララ・メーアという侍女で、【毒物鑑定】と【毒物抵抗】のグラティア(技能所持者)です。おっとりとした性格で少し間延びした話し方は侍女として直してほしい所ではありますが、仕事の腕は確かです。その仕事にはお嬢様の世話は勿論、食事などの毒味役も含まれています。その事にお嬢様はとても困惑された上に悲しまれ、それ以降は食事の毒味はお嬢様が見ていない所でこっそりと行うようになりました。なのでお嬢様は、今はもう毒味をしていないと思われているはずです。


そしてそのクララとは逆の左隣に座っているのはディアナ・ノイマン。【以心伝心】というグラティア(技能所持者)の中でも珍しい技能を持っています。【以心伝心】は発信専門ではありますが、遠くに居る人に自分の心の声を届ける技能で、皇国中どころか世界中を探しても所持者は2桁は居ないと言われています。とても明るい性格をしているのでお嬢様を日々笑顔にしてくれる良い侍女ではあるのですが、少々そそっかしい所がありミスも多い侍女です。


そしてお嬢様の両脇を守るように座っているのが、専属侍従のディルク・ノイマンと専属騎士のトマス・ランゲの2人です。


ディルクは苗字から解るようにディアナの兄で、彼女とは違ってしっかり者ではあるものの少々心配性の気があります。彼も【以心伝心】のグラティア(技能所持者)で、2人はどれ程離れていても意思を交わし合う事が出来るのだそうです。とは言っても皇国とその周辺国といった距離でしか試した事が無いそうなので、それ以上の遠距離でも使えるかどうかは解らないとは言っていましたが……。


そしてトマス。彼は私達6人の中で唯一お嬢様が引き取られる前から魔法伯家に勤めていた騎士で、お嬢様を守るために専属騎士になってほしいという旦那様の願いに従った人です。体躯が大きく無口で威圧感がある彼を怖がる人が多いのですが、お嬢様はそんな彼にも私達と同じように微笑みかけます。そんな時は決まってトマスの耳の後ろ辺りが少しだけ赤く染まるのですが、それは私達侍女3人だけの秘密になっています。そんな彼は【暗視】のグラティア(技能所持者)で、夜間であろうと昼間と同じように見え、そして戦えるのだと聞きました。


そして御者台で御者と一緒に座って周囲の警戒にあたっているのがクルト・クライン。彼は私達の中で一番年下で、背も低く見目も可愛らしい男です。どうもその可愛らしい見目がコンプレックスのようで、ワザと言動を荒々しく装っているところがあります。【聴覚増強】のグラティア(技能所持者)な上に身のこなしが軽く、軍で斥候の役目を請け負っていたそうなのですが、怪我を機に引退したのだとか。今後の仕事に悩んでいた時に魔法伯家の侍従募集を知り、渡りに船と応募したのだそうです。侍従としてはまだまだで半人前とすら呼べない男ですが、お嬢様をお守りする事が出来る侍従として選ばれたのだと聞いています。


侍女はともかく、侍従や騎士はローテーションでお嬢様に仕える専属ではない者が他にも居ます。ですが私にとって信頼できる同僚は専属のこの5人なのです。




さて、本来ならば専属騎士のトマスと私がお嬢様に随従するはずが、どうしてこんな大所帯で移動しているのかといえば……


全て……、えぇ全て旦那様が無理を言った所為です。

お嬢様の初の外出に、直前になってから


「町に行くのは危険ではないか??

 やはり私がついていった方が良いのでは??」


と心配になった旦那様が仕事の時間になっても言い続け、旦那様付きの侍従が「どうか執務を」と何度お願いしても動いてくださらず。見かねた執事長が私達6名全員が付き従うから大丈夫だと言って、問答無用で旦那様を執務室へと放り込んだのです。


ちなみに、比喩ではなく本当に放り込まれていました……。

アレはお二人が幼馴染だからこそできる荒業でした。




正直なところ、私の仕事や技能を正当に評価されていないのではないかと、少し不満にも思いました。ですが……


「みんなでお出かけすると、楽しさが何倍にもなるのね」


そう言ってとても嬉しそうに微笑まれるお嬢様の笑顔に、そんな気持ちはあっという間に霧散してしまい、


「はい、そうで御座いますね」


と私まで笑顔で答えてしまう……、そんな春の朝でした。


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