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春の暖かな日差しと庭をそよそよと吹き抜けていく風がとても心地良く、その風に乗って薔薇の花の良い香りが私のところにまで漂ってきます。隅々まで手入れの行き届いた花盛りの庭でティータイムを満喫するという、今まで一度もさせてもらえなかった贅沢をしていたら、傍に控えていてくれた私付きの侍女のヒルデが音も無くスッと離れていきました。何かあったのかしら?とその先を見れば使用人が控えていて、彼から何か耳打ちをされると直ぐに戻ってきました。


「コルネリア様、旦那様が戻られたそうです」


「お父様が? ではすぐに挨拶に向かいます」


ヒルデの言葉に私は紅茶の入ったカップをお皿に戻すと、向かい側で焼き菓子を食べていたファフナーに声をかけてから玄関ホールへと向かいました。初めて会った頃のファフナーは濃灰色の毛にべったりと血をつけていましたが、今のファフナーは真っ白いモッッフモフの毛をしていて、当然血なんて1滴も付いていません。焼き菓子の欠片は付いていますが……。


庭からそのまま玄関ホールへと向かえば、丁度お父様が執事に荷物を渡しているところでした。


「お父様、お帰りなさいませ」


そう声をかけると、ローズブロンドの髪をオールバックに整えた男性が振り返りました。今年48歳になられたお父様は皇国中の女性を虜にする程の美形で、下は社交界デビューしたばかりの御令嬢から、上はその方々からお祖母様と呼ばれるような年齢の女性にまで大人気です。魔力量は皇国内でも指折りのお父様は、当然ながら見た目も指折りの美形です。なので一人の男性としても人気なのですが、それ以上に妻一筋の愛妻家な所や、子煩悩な所が良いと憧れている方が多いと聞きます。


「ただいま、リア。

 身体の調子はどうだい?」


そう言いながら近づいてきたお父様はそっと私の背中に腕を回すと、触れるか触れないかという極めて軽いハグをしてくださいました。皇国の貴族階級の家族の挨拶は頬と頬をくっつけるチークキスが主流なのですが、まだ慣れていない私に気を使ってくださって、軽いスキンシップに止めて(とどめて)くださっています。


「今日はとても調子が良くて、

 先程までお庭でお茶を頂いていました」


心配そうなお父様を安心させるように微笑むのですが、それでもお父様の憂い顔は変わりません。


「うーん、確かに顔色はだいぶ良くなっているけれど、

 まだまだ本調子ではないようだから、無理をしては駄目だよ」


と少し困ったように、それでいながら優しく微笑まれて……。皇国の女性がお父様に憧れる理由が本当に良く分かります。こんなふうに微笑まれたら、憧れないわけにはいきませんよね。



━━━]━━━━━━━━━-



私の運命を大きく変えたあの日から10ヶ月弱が経ちました。


皇国に入って一番最初に立ち寄った魔境近くの小さな村。そこの宿屋に入った途端に私は気が抜けてしまったのか、その場に崩れるように座り込んでしまいました。しかも一晩ベッドで休んでも、回復するどころか高熱を出して動けなくなってしまう始末。ギルさんが慌てて回復魔法を唱えてくださったのですが、怪我ではなくて単に体力を限界まで消耗した事が原因の発熱の為に治す事が出来ませんでした。そのまま意識を失ってしまったのですが、次に意識を取り戻した時にはもう帝都の魔法伯邸のベッドの上でした。


後で話を聞いたら、高熱で意識が朦朧とする私に皆が大慌てし、帝国ならどんな小さな村にも必ず設置されている通信の魔道具を使って帝都に住む身内に助けを求めたのだそうです。


……えぇ、そうです。あの方々の身内です。


さすがに皇宮に連絡するのは憚られたらしく、アンディさんの侯爵家かエルさんの魔法伯家のどちらかに連絡しようという事になったそうです。その上で武門であるアンディさんのカリクス侯爵家よりもエルさんのヴェルフル魔法伯爵家の方が女手が多いので、魔法伯家の方が私にとって良いだろうというウィルさんの判断でそちらに連絡をしたのだとか。


その結果、魔法の(おおとり)に乗った魔法伯御本人様が来られたそうです……。


それというのも私の事を魔境から無事に帰還する事ができた恩人だとかなり誇張して伝えた為で、魔法伯家の唯一の子供で跡取りの恩人とあらば何が何でも助けなければ!!と伯爵様が周囲の静止を振り切り、鳳を呼び出して飛び立ってしまったんだそうです。


そして私の状態を見た魔法伯様が「体力は直ぐには無理だが、魔力ならば」と応急処置として魔力を少し別けてくださったのだそうです。ただその際に魔法伯様が思っていた以上の魔力が私へと流れ込み、再び私の体格が変わってしまいました。これには流石の魔法伯様も驚いて、どういう事なのか4人を問い詰めようとしたのですが私の状態が芳しくなく……。まずは私を休ませることを優先する為に、鳳に乗せて帝都へと向かってくださったのだそうです。



そうやって帝都へと移された私ですが、意識を取り戻したのは魔法伯家に運び込まれてから3日後で、どうにか他人の手を借りながらも自分の足で歩けるようになったのはそこから更に10日後とかなりの日数がかかりました。今まで運動らしい運動をしていなかった所為で体力が低かったことに加えて、全身を連日強打した事や肋骨を折ってしまった事、瘴気に晒された事、何より精神的な疲労があったのだろうという診断でした。



そして更に10日後、話し合いが可能な程度に回復した頃合いを見て、私の今後の身の振り方を相談する事になりました。参加者は当事者の私と、魔法伯様やウィルさん、ギルさん、エルさん、アンディさんの6人です。ファフナーも私の膝の上に居るのですが、眠っていて話し合いには不参加です。


私としては王国に戻らないと決めた時に、今後は他所の国で平民として暮らしていけたら良いなと思っていたのでそう伝えたのですが、ウィルさんたちにそれは無理だろうと言われてしまいました。何故ならまだ1割も魔力量が回復していないにも拘わらず、既に一般的な貴族の魔力量の平均値を超えている事が解ったからです。


魔法伯家は数えきれない程の魔道具を所有していて、その中には魔力量を調べる道具もあります。様々なタイプの測定器があり、現在の魔力量を数値で表記するモノもあれば、魔力の器の中に残っている魔力の割合を調べる道具もありました。魔法伯様は私に魔力を流した際に、想定以上に流れ込んだことを不思議に思って、私の魔力量を真っ先に調べられたのです。


「いやぁ、驚いた。

 この測定器の上限値は御先祖様がお遊びで設けたモノで、

 私としては無駄でしかないと思っていたんだが……。

 御先祖様の先見の明に感謝するしかないな」


そう言う魔法伯様の声が若干引きつっていたような気がします。それぐらいに規格外だったそうで、そんな規格外の魔力を持った平民なんて良くも悪くも目立ってしまって騒動の元になると言われてしまいました。10歳の測定の時点でも確かに多くはありましたが、規格外という程の魔力量ではなかったはずなのですが……。


「リア、君の希望は出来るだけ叶えてあげたいけれど、

 君自身の安全を考えたら平民は無理だよ」


本当に申し訳なさそうにギルさんが言います。


モディストス王国とは違って、この国では貴族であろうと平民であろうと重要視されるのは国に対する貢献度です。武力や知力や魔力といった国政に携わる事が多い事柄から、武器や魔法具の製作、そして掃除や料理といった日常的な仕事も全て国への貢献とされています。例えば優れた武人や魔法使いがいたとしても、病気では国の役には立てません。その優れた人を支える料理人や、快適に過ごせるように部屋を整える人など、全てが国にとって必要なのだという考え方です。


「そんな価値観を持つ国だから、

 平民に対し居丈高になって怒鳴ったり命令したりするような貴族は

 他国に比べると少ないが、全く居ないとは言えない。嘆かわしいがな」


と皇国の様々な説明の後に溜息をついてしまうウィルさん。彼の性格上、本当にそういう貴族を嫌っているようで、言葉の端々に棘と苦々しさがありました。


ただ皇国にも貴族には平民に命令する権利が与えられていて、平民は貴族の命令には服従する義務があると法律で定められています。それは戦争やモンスター来襲など有事の際、貴族が国民の命と財産を守る為に最前線で戦う事が決められているのと同時に、平民は貴族の命令に従って避難しなくてはならない為に作られた法律です。隣人や村長などに財産を全て捨てて逃げろと言ってもなかなか決断が出来ないものですが、それが貴族の命令なら決断云々以前に服従しなくてはならないという事です。


「その法律を悪用する者が居ないとは言い切れません。

 そんな貴族が貴女の前に現れて命令した時、

 平民ですと一切逆らえない事になります」


エルさんが頭痛を堪えるような表情でそう教えてくれます。


「言い方は悪いし女の子のリアの耳に入れる話しとしてどうなのかとも思うが、

 規格外の魔力を持つ平民の女の子なんて利用価値がありすぎて……。

 それに国内の貴族なら俺達で睨みを利かす事もできるが、

 国外の貴族にまで狙われかねないんだ。

 かといって俺が後ろ盾になると、それはそれで……」


本当はウィルさんが後ろ盾になりたかったらしいのですが、皇子……つまり帝室が後ろ盾になるとそれはそれで面倒な事になるのだそうです。例えば帝室の力は全ての国民に還元されるべきという価値観があり、その為に皇子であっても最前線で戦う事が求められます。流石に第一皇子が最前線に出て戦うなんて無茶は現代では無いそうなのですが、ウィルさんやギルさんが魔境に調査に来ていたのもこういった価値観があるからなのだそうです。つまり帝室の後ろ盾を得るという事は、再び私の魔力を大量消費する未来が待っている可能性が高いという事です。


私としてもそんな未来はお断りしたく……。





それまで聞く事に専念していた魔法伯様がコホンと咳払いを一つすると、ウィルさんたちの話し合いがピタリと止まって全員の視線が魔法伯様へと集まりました。


「ヴィルヘルム殿下、私に何か話したい事があるのでは?」


「いや、その……」


魔法伯様の言葉にバツが悪そうに視線を彷徨わせたウィルさんは、一拍おいてから決心したように


「そうなんだ、ヴェルフル魔法伯。

 貴殿に是非とも彼女の後見をお願いしたい」


と座ったまま頭を下げます。


「私がですか? 確かに彼女には興味をひかれはしますが……。

 あと、皇子である貴方は簡単に頭を下げてはならないと

 幼少の頃にお教えしたはずですが……?」


「俺の頭で良いのなら幾らでも下げるさ。

 俺は彼女を守るとアスティオス神へ誓言を立てているからな」


「は? 何をやっているんですか貴方は……」


大きく溜息をついた魔法伯様は片手で目を覆って天を仰ぎます。皇族……それも第二皇子という皇位継承権の高い人が、誓言を立てるというのはかなり珍しい事のようです。この国の人にとって絶対の拘束力を持つアスティオス神への誓いですが、当然ながら良い面ばかりではなく、悪用されたら目も当てられない事になるのは明白です。なので魔法伯様が溜息をつきたくなるのも仕方がありません。


「父上、私も最初はその様に思っておりましたが、

 今ならヴィルヘルム殿下の御英断だったと断言できます」


エルさんは父親にそう説明すると、くるりと私の方へと向き直りました。


「リア、私も貴女にアスティオス神への誓言を立てたいのですが、

 許可を頂けますか?」


そう言って立ち上がり、私の座っている椅子のすぐ横にまで来ると跪きます。どうしたら良いのか解らずオロオロと狼狽える私とは違い、魔法伯様は即座に自分の息子を叱責しました。


「エル! 誓言は簡単にするものではないと教えたはずだ」


「えぇ、私だって簡単に誓言をするつもりはありません。

 思案を重ねに重ねた末に出した結論です」


父親の言葉をさらりと流したエルさんの視線は私に固定されていて、今すぐ逃げ出したいほどに居心地が悪く、誰か助けてと向かい側に座っていたアンディさんに視線を向けました。何かを考えていたらしいアンディさんは、私の視線に気付くと小さく頷いてくれます。


「ならば俺もだ。俺もリア、君に誓言をしたい」


「アンディさん?!」


違いますっ、そうじゃないのですっ!!!思わずそう叫びたくなるのをグッと堪えます。息子を思い止まらせようと躍起になっている魔法伯を他所に、アンディさんは立ち上がって私の所までやってきて跪きました。この状況、どうしたら良いのでしょう……。


「解っているのか、お前たち……。

 彼女か国かという選択を迫られたら、彼女を選び国を捨てる事になるんだぞ!」


今までで一番大きなため息をついて、成人前の子供を叱るかのように強めの語気で諭す魔法伯でしたが、それに対するウィルさんの答えは単純明快で


「大丈夫です、先生。俺はリアも国も守って見せますから」


そう言い切るウィルさんの顔は真剣そのもので、その決意がとても固い事が解ります。後で知ったのですが、魔法伯家は皇家の魔法関係の教育係を代々努めているそうで、ウィルさんやギルさんから見れば魔法伯は元教育係になるのだそうです。


「むしろ父上にも誓言をしてほしいぐらいです。

 そうすれば、もっと手っ取り早く色々と事情を説明できますから」


そうエルさんが言うと、魔法伯様は何か考え込むような素振りを見せました。


「つまり彼女には事情があるという事か?

 そしてそれは誓言が必要となる程に重要な事である……と。

 ちなみにヴィルヘルム殿下は何と誓言されたのですか?」


「リアを傷つけるような事や嫌がる事をしない。

 またそういったモノから守るという誓言だな」


「なるほど……。色々と気がかりな点はありますが、

 その誓言で良いのでしたら私も誓言致しましょう」



何がどうしてこうなったのかと神々に問い質したい事態になりました。私の前には見目麗しい男性が4人跪き、抜剣して捧げるようにして自分の前に掲げています。


……あれ、一人多い?


「なぜウィルさんまで??」


「あの時は略式だったからな。正式に誓言を立てようと思う」


逃げ出したいです、切実に逃げ出したいです。彼らに悪気なんて一切ない事は解りますし、むしろ私の為にしてくださっている事も重々承知していますが、それでもこの居心地の悪さは如何ともしがたく。


唯一の救いは、立会人となったギルさんだけは跪いていないことです。というのも貴族や皇族の正式な誓言には神官の立ち合いが必要な事と、皇族が2人も誓言を立てた相手となると、やはり色々と目立ってしまうらしく……。ギルさんは


「仕方ないよね。僕は誓言をしないでおくよ。

 誓言しない事でリアを守れることがあるかもしれないしね」


と苦笑しながらも引いてくれました。



こうして私は4人の男性から誓言を受けたのです。ようやく全員が落ち着いてソファーに腰を下ろしたと思ったら、神妙な顔をしたエルさんが


「リアが後々、不安になったりしないように最初に言っておくよ。

 私が誓言した理由は、リアを様々な事から守りたいと思ったからだけど、

 同時にリアに私達を信じて欲しいと思ったからなんだ。

 君にとって此処は絶対に安全な場所だ……そう信じてほしい」


と言った後、少しだけ間を開けてから頭を下げました。


「だからという訳ではないのだけれど……、

 貴女からすれば、また利用されるのかと思うかもしれないけれど、

 有事の際には力を貸してほしいと思っている。

 勿論、有事の時だけだ。普段から枯渇する程に魔力を使わせるような事は

 アスティオス神に誓って絶対に言わないし、誰にもさせない」


「頭を上げてください。解りました、私に出来る範囲で良ければ……

 私の力が役立つのならば、それは私も嬉しいですから」


そうなんです、私は決して結界を張る事自体は嫌ではありませんでした。例え私という存在が表に出ずとも、誰からも感謝されずとも、誰かの役に立てるという事は嬉しかったのです。


「彼女の持つ力というのは何なのだ?」


未だ私の能力を知らない魔法伯様だけが首を傾げています。そこでウィルさんたちが魔境で起こった事や私の能力をお伝えしたところ、魔法伯様は絶句されてしまいました。


「そのような能力は未だかつて聞いたことがない。

 エル、後でそのイヤーカフを貸してくれ。一度検証してみたい。

 コルネリア嬢も完全に回復してからで良いから、

 詳しく教えてくれないだろうか?」


先程までとは違って、前かがみになってぐいぐいと来る魔法伯様に若干ひいてしまいますが、能力を正確に知るという事は大事です。何せ間違っていた使用法は寿命にも影響が出るのですから。


「しかしそのような稀有な能力の事を考えると、他国にも睨みが効き

 高位貴族にもある程度対抗できる有力な後ろ盾を持った方が良いという

 ヴィルヘルム殿下の言葉にも納得がいく。

 しかしコルネリア嬢は明らかに貴族の出だろう?

 他家の後ろ盾を得る事になって、御実家の方は大丈夫なのかい??」


その言葉に無意識にサッと顔色が悪くなったようで、ウィルさんが


「大丈夫か? 俺達が君から聞いた事を説明しようか??」


と気遣ってくださいますが、自分の事ですから自分で説明するべきでしょう。それにあの国の事は、もう過去の事として乗り越えていきたいのです。なのでゆっくりとですがモディストス王国での暮らしぶりを魔法伯様に伝えました。最初は「そんなまさか」だとか「信じられない」といった呟いていた魔法伯様でしたが、だんだんと「ありえない」や「度し難い……」と言葉に呆れや怒気が混じるようになりました。


一通りの説明を終えた後、魔法伯様は目を瞑ってしまわれました。エルさんが小声で言うには過去の経験上こういう時は邪魔をしない方が良いらしく、口の前に指をあてて静かにと合図をしてきました。なので皆、お茶を飲んだりして束の間の休憩をとります。5分にも満たない時間が過ぎたあと、魔法伯はぱちっと目を開けたかと思ったら


「後ろ盾ではなく、私の娘になってはどうだろうか?」


と言いだされたのです。


「は? 父上、いきなり何を?!」


突然の言葉にエルさんは取り乱し、アンディさんは飲んでいた紅茶にむせてしまいます。


「いや、でもヴェルフル魔法伯の仰る事が一番良いように僕も思うよ」


そう冷静に判断したのはギルさんでした。魔法伯家の後ろ盾があれば手を出しづらくなりますが、魔法伯家の娘となれば手を出すこと自体が出来なくなります。





そこからはとんとん拍子に色々と進みました。私は聖国に住む魔法伯様の奥様の従妹の娘のコーネリアで、両親が事故で亡くなった為に引き取って養女にしたという設定になりました。


実際、2ヶ月程前にその方々は馬車の事故で亡くなっているのだそうです。

動物や植物と違い、人間は死ぬと光となって消えてしまう為に遺骸は残りません。だからこそ通せる設定です。


これによって私の怪我はその時のモノで、聖国に住んでいた頃の記憶が無いのも事故の所為だと説明する事ができます。年齢も生まれ月は違いますが私と同じで、名前も綴りは全く同じです。帝国やモディストス王国ではコルネリアと読み、聖国ではコーネリアと読まれる名前なので、帝国で暮らしていくのならコルネリアと呼ばれても不思議ではありません。


それに「もし私が生きていて隠れ住んでいるのなら、名前ぐらいは変えるだろう」と王国側は思うだろうから、同じ名前の方がむしろ良いだろうとウィルさんや魔法伯様が仰ったので、そのままの名前を使う事になりました。



魔法伯様……いいえ、新しいお父様は本当に良くしてくださいます。何一つ持っていなかった私の為に下着を含む衣類や装飾品は言うに及ばず、家具や小物、そして何より日当たりの良い綺麗で大きな部屋など、ありとあらゆるものを揃えてくださいました。


そのうえ、私の為に新たな侍女を雇い入れてくださったのです。これがどれだけ大変な事なのかは、この国の男女比率を知らなければ解らないかと思います。皇国では女性が圧倒的に少なく、全人口の20%しか居ません。ですが世の中にはやはり女性でなくてはならない職というものがあります。出産の手助けをする助産婦や貴族の女性に仕える侍女などはその筆頭で、有能な侍女は引く手あまたの完全な売り手市場で、とても競争率が高いのです。


新しく私の侍女となったヒルデは勝色(濃い藍色)の長めのミディアムボブをハーフアップにした緑色の瞳の女性で、心持ち童顔のいつもニコニコとしている有能な侍女です。そして何より、私に初めて出来た仲が良いと胸を張って言える女性です。





こうして私はコルネリア・ヴェルフルとなって魔法伯爵家で暮らしていく事になりました。そして私は今まで食べた事がない栄養バランスの取れた3度の食事や、質の良い睡眠を初めて得ることが出来たのです。そういう生活をしているとどんどんと魔力が回復して、それに伴って容姿もどんどんと変わっていきました。お父様からは魔力の扱い方を教えて頂いて、今では9頭身程のスタイルを維持しています。


「リアの魔力量だと、下手をすれば12頭身……

 いや13頭身を超える可能性もある。そうなると面倒も起きるからなぁ」


お父様やエルンストお兄様もそうらしいのですが、余りにも頭身が高すぎるとそれはそれで奇妙に映る事があるそうで……。余剰魔力は常に全身に魔力を行き渡らせるようにして消費するのだそうです。その結果、髪も肌も瞳もありとあらゆる場所が「美しい」としか言えない状態になってしまうのですが、お父様もエルンストお兄様も口を揃えて「そちらの方がまだ良い」と断言されました。お父様たちも何だか色々とご苦労があったようです。


今では私の髪を老婆のようなくすんだ灰色と表現する人は居なくなり、青空の下にいればその蒼穹の色を映し、暖炉の前にいれば炎の色を映す輝くようなプラチナの髪と表現されるようになりました。瞳の色も濡れた朽葉色ではなく、至高の黄金色と褒められるようになりました。


ただ魔力量はあっという間に回復したものの、身体の不調はなかなか直らず。未だにお父様に心配をかけてしまう事が悩みの種です。王国に居た頃の胃に穴が開きそうな悩みに比べると「お父様が心配するから」なんて理由の悩みは面映ゆくて仕方がない悩みです。



━━━]━━━━━━━━━-



「リア、私にもお帰りなさいの挨拶をしてほしいんだけど」


この10ヶ月の間にすっかり兄としての言動が板についたエルンストお兄様が、お父様の後ろから声をかけてきました。お父様もお兄様も、そして今はお仕事で聖国におられるお母さまも、みんな揃って私には甘く……。恥ずかしくて仕方がない事が度々あります。


「はい、お兄様もお帰りなさいませ。

 何事もありませんでしたか?」


お父様と同じように極めて軽いハグをして挨拶すると


「あぁ、俺も父上も何ともないよ。

 ただモディストス王国には色々と問題があるようだけどね……」


そう、お父様とお兄様はこの5日間。外交のお仕事でモディストス王国に行っておられたのです。ジェラルド王太子殿下の婚約発表のパーティの為に。


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