八話目、意外な人は意外な所で会う
「う~あ~久し振りの外だ~!」
連れ戻されてから一週間が経った。
セルリアさんのスパルタな指導を受け続け、昨日やっと合格をもらえた。
その後にセルリアさんから様々な教科書と思われるものを目の前に置かれて、
よければ他にもお教えしますが、と言われた事は気にしない。
だってもう十分だから!
「あ~…太陽が目に染みる…」
一週間ぐらいまともに外を出歩くどころか、太陽の光も浴びてなかったからな…
事前に二人に庭に出る報告をしなきゃいけなくても、それをする価値は十分ある。
「それにしても、花とか木は見た事があるものに似てるな」
うろ覚えだけど、子供の時に見た図鑑に載ってたものに似ている。
さすがに名前は思い出せないけど…他にも見た事が無いものも多くある。
多分この世界特有の花とかもあるんだろうけど。
広い庭の花壇を眺めて、見た事が無い花に興奮しながら散策していると。
「あ…人が来る」
絶対に見付かっちゃいけないわけじゃないけど、髪色の事を考えると隠れた方が良いかな。
そう思い、近くにあった、低い植木の花壇の陰に隠れた。
「…どうやら、エレナさんやセルリアさんじゃなさそう…」
物陰から覗き込んだ人物は男で、髪は短めの金髪。
服装から貴族らしい事が分かる。
容姿は整って見えるんだけど…
「誰かに似てる気がするな…誰だろ?」
少し遠い所で覗いてるせいで、顔ははっきりとは見えない。
…まあ誰に似てようが関係ないか。
目の前を通る貴族を観察しながら、見えなくなるまで息を潜める。
「ふう…誰にも見られないように外に出るって大変だな」
貴族が向かった方向を見ながらのそのそと這い出る。
自分から言い出したようなものだけど、見付からないようにするって大変だな…
膝に付いた土を払いながらそんな事を考えていると、不意に木の枝がかさっと鳴った。
「…?動物でも迷い込んだのかな」
何の動物か分からないため、なるべく静かに音が鳴った方向へ進む。
しかし、相手は逃げるように音を鳴らしながら移動した。
「早いな…どんどん音が遠くなっていく」
なんとか追いつこうと急ぐが、一分もたたないうちに何処かに行ってしまった。
「やっぱり追いつけなかったか…放っておいても大丈夫かな?」
でも、俺が探すと他人に会いそうで嫌だな…奇異の目で見られるのは気分が悪くなりそうだし…
やっぱり放っておくのがいいかな。
別に俺がするべき事じゃないし。
迷い込んだ動物を探すのをやめて、通ってきた植木の間を戻っていく、すると。
「あら?花壇から出て来るなんて、迷子にでもなったのかしら?」
花壇を抜け出た先には、エレナさんが居た。
後ろにはセルリアさんも居る。
「迷子にはなってません。木が揺れたので、迷い込んだ動物を追いかけてただけです」
「それはきっと城で飼われている犬ね。時々此処に来るのよ」
「犬…ですか。でも放し飼いだと誰かに噛み付いたりしませんか?」
「番犬として騎士たちが飼っていますが、命令しないかぎりは噛み付く事はありません」
「そうなんですか」
あれはやっぱり犬…いや、だとしたら吠えてくるはずじゃ…
「それに、夜にならない限り吠えないように躾けているのよ」
「万が一、来客中に吠えないように、ですね」
なら、吠えてこなかったのも頷ける。
…調教師も躾に参加したのかな…
「エレナ様、此処では誰かに見られるかもしれません…」
「そうね…これ以上外に彼を居させると、彼を狙う人達に見付かるかもしれないし…」
二人共小声で話してるんだろうけど、俺にも聞こえてるんだけどな…
そう思いながらも、聞いてないふりのために興味をそそられる植物を見ていた。
「ちょうど貴方に会いに来たのよ。折角だから一緒にお茶でもいかがかしら?」
「そういう事なら、断るわけにはいきませんね。私の部屋でよろしいですか?」
「ええ」
「では私は準備に向かいますので」
本当はまだ一人で庭を見て回りたかったけど、
理由をつけて有無を言わさずに部屋に連れ戻されそうだから頷いておこう。
セルリアさんを見送り、エレナさんと二人で部屋に戻る事になった。
「そういえば、こんな風に二人きりで話すのは貴方を連れ戻した時以来ね」
その途中にエレナさんが話を振って来た。
そういえば…あまりの忙しさで忘れてたけど、エレナさんが部屋に来る事は無かったな…
「王族という立場上、身元の知れない人間と頻繁に会う事は出来ませんから。
こうなる事は当然だと思いますよ」
「だとしても、貴方が会いに来るっていう方法もあるのに今まで会いに来なかったじゃない」
「こちらにも、会いに来れない理由があるので…」
主にセルリアさんの宿題とか。
…まあ、自業自得ではあるけど…
「まあ…今後は時間を取る事が出来るからいいわ」
「いつでも来てください。私は会いに行けないので」
「分かっているわ。部屋を出て行くのは危険だものね」
「そうですね…ってああ、もう着きましたね。続きは部屋の中で」
扉を開けて、エレナさんを先に部屋に入れる。
色々と話したい事もあるだろうしね…