六話目、嘘という鎖で雁字搦め
あの後話し合って、部屋を出る時は事前に伝える事と。
城の外から出ない事。(庭までなら大丈夫)
そしてエレナさんとセルリアさんの二人以外の人に会ったら、名前か特徴を話す事を約束した。
最初の二つは、エレナさんの提案を少し変えてもらったものだ。
さすがに部屋から出られないのはきつい。
三番目は、自分から言い出したもの。
話す事で相手がどういう人か知るためと、エレナさんが何か対策をしてくれると考えての事だ。
まあ、あまり期待はしてないけど。
「それにしてもなぁ…」
今は自室(軟禁部屋)で夕食を食べて、ベットの上で寝転がっている。
夕食の内容はコンソメスープに、サラダとパン、
メインはロールキャベツというあっさりとしたものだった。
この時点で疑問に思った事はあったが、暇すぎて部屋の中をうろついて、
備え付けられた風呂場(トイレ付き)に入った時に確信を持った。
この世界は自分の居た世界と同じ、もしくはそれ以上の技術がある。
魔法がある時点で次元が違うと思うけど、少なくとも、
給湯器の付いてる蛇口や、シャワーなんかがあるから、それ以下の技術とは言いにくい。
それに、部屋の中も自分が居た世界とあまり変わらない。
だから大して不自由な思いはしてない。
「もしかしたら俺と同じような人が居るのかなぁ…」
異世界に飛ばされた人が何かしてるのなら、異世界から来たと言うべきか?
いや…それなら、俺と同じ黒髪の人が居るはずだ。
王族であるエレナさんが見た事が無いのなら、
異世界から来た事は絶対に知られないように隠さないと。
今後の事を考えながらも、
ふとシャンデリア(蠟燭じゃなく、光る石がついてる)がある天井を見ると。
天井の一部に、人が部屋の中を覗けるくらいの隙間が空いている。
その隙間をじっと見ていると、音も無く隙間が閉じた。
「元から期待なんてしてなかったけどね…」
今ので、天井裏の誰かに見られてた事が判明した。
いつかこうなるとは思ってたけど…情報漏洩するのが早いな…
別に知られて困る事は無いからいいけど、エレナさんは何がしたいんだ?
たとえ、さっきのが護衛の人だとしても、あまり知られない方が良いと思うんだけど。
もしあれが密偵だったら二人に報告するべきだろうけど、相手の尻尾をつかんでからでもいいよな…
基本的にあの二人を含めて、信用出来る人なんて居ないし。
王城に忍び込める時点で、かなりの実力があるか、内部犯の可能性が高い。
それに命の危険があるとは思えない。
俺を殺した所で、誰も得なんてしないだろうし。
「それに、今の俺に出来る事なんて何も無いからな…」
結局は相手を泳がせるしか無い。
エレナさんが守ってくれる事なんてありえない事だと分かっただけでも良かったと思おう。
天井裏の人の事は早々に諦めて、これからの事を考える。
今は特にする事は無いけど、
いざって時のためにこの世界の事や文字なんかは知っておくべきだと思う。
だけどどうやってそれを学ぶかが問題だ。
言葉は通じても、文字が読めないとなるとかなり不便だし、本も読めない。
そうなると、この世界の事も知りようが無くなる。
そうなればこの世界の事を知らない人間だと思われて、余計な疑いを持たれるだろう。
最悪の場合、異世界人だとばれるかもしれない…
でもだからと言って、子供が読む本を読みたいとか言うのも、
読めもしない本とにらめっこするのもなぁ…
「出来る事どころか、何も出来ないじゃないか…」
後手に回るどころか、身動き一つすら出来ない有り様。
こんな状態で、いったいどうしろと?
隠し事をするのは難しいけど、ここまでだと泣きたくなるぞ。
「結局は、流れに従うしかないか…」
無理して動けば、状況を悪化させるだけだ。
時期を見て、出来る事を探さないと…
現状がどうにも出来無い事に気付き、意気消沈していた時、ふとある事を思う。
「そういえば…向こうの方はどうなってるんだろ…?」
向こうの世界…俺の居た世界は今どうなってるんだろ?
今まで考える暇が無かったけど、俺が居なくなって周りはどうしてるんだろう…
状況的に考えると、誘拐されたようにしか思えないよな…
騒ぎになってる所に帰って来たら怒られるかなぁ…
ああ…でもいつ帰れるかも分からないしなぁ。
もしかしたら、帰って来た時には浦島太郎状態かも。
…半分冗談で考えた事だったが、もし現代に帰れない可能性を考えると…
「…ちゃんと帰れる気がしない…」
思っている以上に現代への門が狭い事に気付き、頭が痛くなる。
考えれば考えるほどに自分の望み通りに帰れる可能性は宝くじが当たるより低い、
つまり奇跡が起こらないかぎり無理だという事に気付き、
この世界で生きる覚悟をもう一度しないといけないと思いながらも、ふて寝するしか無かった。