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五話目、この世界で生きるための代償

 最初は、何があったのか全く分からなかった。

この状況を考えられない程衰弱していたせいかもしれない。

でも今は、全部理解出来ている。

 「おはよう、カズヒコさん」

「…おはようございます、エレナさん…」

 俺はまた、同じ場所に戻ってしまったんだと。

 「心配したのよ?貴方が急にいなくなって、セルリアも心配していたわ」

「…すみませんでした。事情があったとしても、一言伝えるべきでしたね」

 心配だったのは、自分以外の人間に黒髪の存在が知られる事だろ。

セルリアさんは自分の仕事が失敗したからかな。

 「そうね。事情があるなら話を聞いておきたかったわ」

「…言えば、迷惑をかけるかもしれませんよ?」

 一応は、抵抗として遠回しに言いたくないと伝える。

けど。

 「なら、貴方を助けるために喜んで迷惑をかけてもらうわ」

「…そうですか…なら…」

 予想外の反応に戸惑うが、

逃げている途中に、人に会った時の逃げている理由は考えていたからそれを言う。

 「私は、誰かも分からない相手に狙われているんです。子供の頃からずっと」

 とんでもない大嘘だけど、黒髪だからっていう理由で信じられるだろう。

それに、川に落ちた事がそうするしかなかったという状況だったと思ってくれるかもしれない。

 「誰かを頼れば、その人が傷付けられて苦しい思いをしました。

私が誰にも頼れないように、狙ってくる相手は仕向けたんです」

 逃げたのは危険な目に遭わせないようにするため。

そういう風に解釈してもらうため、直接的な言葉を避け、遠回しな言い方をした。

 「黒髪がどんな物なのか私には分かりません。

相手にとって稀有な存在なのか、それとも何か、特別な何かがあるからか。」

 それとなく黒髪について知っている様な事も言ってみる。

実際には、何かあるとは思ってはいないけど。

 「どちらにしろ、川に落ちた後、貴女に助けられて此処に居る事が知られて無いなら、

まだ大丈夫だと思って急いで此処から逃げたんです」

 ほとんどが嘘で作られた事情を言い終え、互いに黙り込んでいると。

 「貴方の事情は分かったわ。でも、貴方を此処から出さない方が私は良いと思うの」

「…どうしてですか?」

 そう簡単に出られないか…

さっきの説明で諦めると思っていた手前、少し面倒だ。

 「貴方が狙われているなら、一人ではいつか見付かって、捕まってしまうわ」

「…それは、此処でも同じではないですか?」

 諦めの悪い人だ、と思いながらも、自分も諦めの悪い事を言う。

それを聞いたエレナさんは首を振った。

 「一人だったら誰も貴方を助ける事は出来無いわ。

でも、私は貴方を助けられる。何があっても貴方を守って見せるわ」

「…貴女がそれを言うんだ…」

「えっ?何か言った?」

「いえ、ただ、そんな事を言ってくれる人が居た事に驚いただけです」

「人を助けるのに、理由はいらないと思わない?」

 何も知らなければ、とても良い人と思うような台詞を聞いて、正直、信用出来無いなと思った。

だって俺の事を自分の所有物って言ったんだよ?

誰だってそんな人が言った言葉を信じるわけが無い。

けど、此処に居るしかこの世界で生きる術は無いなら。

 「そうですね…それに、助けてもらったお礼も出来てないですし」

「お礼をしたいなら、私の話し相手になってくれればいいわ」

「分かりました。…これからよろしくお願いします」

 この人の籠の中に居よう。

エレナさんはまだ、良い人だって信じて。

半ば投げ遣りな気持ちでこの世界に生きる事を決めた。

帰れないならもうどうだっていい。

どうせ逃げたって、また同じように連れ戻されるだけだ。

それなら、もう此処で自由と引き換えに生きる方がいい。

 「ええ。こちらこそよろしくね」

 そんな俺の心の中など知らないこの人の笑顔に裏を感じるのは、

きっとこれで閉じ込める理由が出来たと思っている事が分かっているからだろうな。

…このままこの人の思惑通りにさせるのも腹立たしいな…

 「それにしても、こんな広い部屋は初めて見ました。

きっと貴女も、貴女の家族も、すごい人なんでしょうね」

 多少の意趣返しに何か弱味が握れないかな…と思い、

ばれない程度に会話を誘導させようと、きっかけを探してみる。

向こうは王族、外交はしているだろう、と相手の出方を待つ。

 「私達は王族よ。そんなの当たり前じゃ…」

 発言の途中で失言に気付いたのだろう、そこから先は何も言わなかった。

…隠すべき事をあっさりと…多分俺の顔が引きつっていたから気付いたんだろうけど…

うっかりにも程がある…

 「…王族って…エレナさんが…?」

「…えへっ(笑)」

 いや…そんな可愛らしくとぼけても誤魔化されませんよ?

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