四話目、逃げれば地獄、留まれば監獄?
「何ていう事だ…」
出来心で盗み聞きしてしまったら、色々と大変な事を聞いてしまった…
今の話を分かりやすく、かいつまんでまとめると。
エレナさんは黒髪が珍しいからっていう理由で俺を軟禁するつもりで、俺を所有物扱いしている。
しかも、エレナさんは王女様らしい。
そして最後に黒髪は俺しかいない。
少し長いけど、まとめるとこんな感じかな。
「って…何コレ…色々詰んでない?」
逃げても逃げなくても最悪の結果しか考えられない!
逃げなかったら帰れないどころか、一生軟禁生活で。
逃げても黒髪だから簡単に見付かる!
「でも逃げなきゃ…!」
でなきゃ異世界人だと知られた時、実験体にされて死ぬかもしれない!
そう思った俺は窓枠に手をかけ、誰にも見られてないのを確認して、外に出た。
「はあ…」
さっきまで近くを歩いてた騎士が遠ざかるのを見ながら溜め息を吐く。
幸い、俺が居た部屋は一階で、すぐに茂みに隠れながら、塀に沿って城門近くに居る。
ちなみに、今は日も高く明るい状態。
その上、騎士らしい人が見張っているから門はくぐれない。
「別な道を探すしか無いか…」
そうつぶやきつつ、茂みから頭を出さないように隠れて移動した時。
「ん?これって、もしかして取っ手?」
足元に四角い取っ手らしき窪みを見付けた。
もしかしてと思い、持ち上げてみるが。
「上がらない…」
力が無いせいか、動かない。
試しに前後に動かしたが、これも駄目だった。
「だったら…」
今度は塀がある右側に動かすと。
「よしっと…って、おおう…」
簡単に動いた。
分かりにくいけど、塀の下に溝があるみたいだ。
けど驚いたのはそこじゃなく、ブロックの下にあった隠し通路?にだ。
「暗いけど、降りれそうだ…」
マンホールの穴にあるはしごみたいなのもあるし、大丈夫かな?
明かりは無いけど…
「…ここは閉じておこう…」
万が一逃走ルートを知られないようにね。
…何も見えなくなるけど…
運良く見付けた隠し通路が、希望の光になればと思いながら降りる。
隠し通路の扉を閉めて真っ暗になった視界を気にしないように手探りで降りる、すると途中で。
「わ!って、急に明かりがついた?」
何に反応してかは知らないけど、通路に光が灯った。
下を見てみると地面まで三十センチしか無かったからサッと降りた。
「何かトンネルっぽいな」
地下水道みたいな物だと思ってたけど、違ったみたいだ。
残念…
「って、そんな事より早く逃げなきゃ」
残念とか思ってる場合じゃ無いよ、ゆっくりしてたら捕まるわ。
関係無い事を考えるのをやめて、城とは反対の方向へ警戒しながら歩き出した。
「ふう…やっと出られた」
地下通路の出口から顔を出し、人心地つく。
出口はスイッチで開く扉だったから、
最初はどう動かしてもうんともすんとも言わない扉に、おかしいな?と思ったけど、
偶然スイッチを見付けた。
その時、密かにガッツポーズをしたのは忘れたい。
危うく落ちる所だった…
そんな出口を塞いでいたのは一羽の大きな鳥の石像だった。
見てると頭突いてきた鳥を思い出すな…
「もう夜か…結構迷ってたからなぁ…」
さっきまで居た地下通路は正に迷路だった。
何度も行き止まりに着いて、行ったり来たりを繰り返してたら日も暮れるよな…
まだ日は落ちきってないけど。
「とにかく、誰にも見られないように此処から離れないと…」
周りを見ると、何処かの屋敷の庭に出たみたいだ。
しかも結構広い。
目の前の門を出ながら、屋敷に入った方が良かったかな、と思いながらも誰も通らない道を進む。
結局は入れないと考え、別の道を探す事にした。
そんな事を考えながら歩いていると。
「おい!向こうで酔っ払い同士がケンカを始めてるんだ、止めるのを手伝ってくれ!」
急に人の声が聞こえて物陰に隠れる。
人の声がした方向をひっそりと覗き見ると、騎士らしき人が二人で何か言い合っていた。
その後ろをよく見ると、大きな門があるのが見える。
「…城下町で逃げるよりも、町から出た方が見付からないか…?」
しばらく様子を見ていると、騎士二人は門から離れて走り去った。
おかげで門には誰も居ない。
「よし、今ならいける!」
小声でつぶやいた後、急いで誰も居ない門をくぐった。
「はぁ…っ…くっ…」
門をくぐった後、すぐに走り出して必死に逃げた。
裸足のままだったから痛かったけど、
痛みで挫けてる場合じゃ無い、と自分を奮い立たせて走り続けた。
でも今は足の裏は血だらけで、歩くのも辛い。
「…うっ…あ…!」
痛みで呻きながらも歩こうとしてふらつき、体勢を崩して倒れる。
立とうとしても体に力が入らず、またうつ伏せに倒れる。
「はぁ…はぁ…は…」
何でこんな目に遭ってるんだろ…
ただ元の世界に帰りたいだけで何で苦しい思いをしなきゃいけないんだ?
「………」
異世界な上に、毒があるかもしれないから食べ物はもちろん、水すら飲んで無い。
その上、ずっと休み無く走り続けているから、もう動けないのかもしれない。
「う…ああ…っう…」
腹が減った、喉が渇いた。
そんな言葉ばかりが頭を巡る。
力が入らない体は指すら動かせない状態で、自力じゃどうにも出来無い。
「…うっ…」
このまま死ぬのかな…?
不意に考えがそんな方向に向く。
死んだらきっと、魔物みたいな肉食獣に骨まで食われるのかな…?
ああ…こうなるんなら、逃げなきゃよかった。
そしたらこんな辛い目に遭わなかったのに…
今更な事を考え、目を開けるのも億劫になってきた時。
がさっ。
「…?」
何かが近付いている音がする?
ああ…きっと足から滲んだ血の臭いを嗅ぎ付けた狼とかが来たのかな…
きっと食べられるんだろうな…近付いて来てるみたいだし…
それに眠いや…このまま眠って、食べられるのを待とう…
丁度音が途切れた時、俺は酷い睡魔に逆らわずに眠りについた。