三話目、出来れば誰か助けてほしい
目の前の現象を見て、今居る場所が異世界だという事が確定した。
見間違いだと思いたいが、目をこすったりしたところで、何も変わらないのはやらなくても分かる。
「えっと…どうかしたの?大丈夫?」
自分が置かれている事態に呆然としていると、エレナさんが声をかけてきた。
「あ…大丈夫です…もういいですよ、ありがとうございます」
パニックになりそうな頭を落ち着けて、何でも無いように振る舞う。
エレナさんは大丈夫そうだと思ったのか、浮かべていた光の玉を消していた。
「とりあえず此処に居るのがいいと思うわ。これからどうするかは明日決めましょう」
「そうですね…今日はお世話になります」
「それじゃあゆっくり休んで」
そう言うとエレナさん達は素早く部屋から出ていく。
「あ!」
そこで、せめて今何時なのか聞くべきだったと気付く。
外は明るいとはいえ、少し腹も空いている。
まだ御飯時でないならおやつみたいなものを頼みたい。
そう思いながら足早に扉のドアノブに手をかけた時。
「誰も居ないみたいね…」
エレナさんの声が聞こえた。
エレナ視点
「誰も居ないみたいね…」
これからする会話はなるべく人に聞かれたくないものだから、人の気配に過敏になる。
部屋を出てすぐにそんな会話をするのもどうかと思うけど、人が居ないから大丈夫でしょう。
「彼は一体何処から来た何者なのかしら」
「私もあのような方を見た事はありません。
少なくとも、私達の知らない場所から来たのだと思います」
セルリアの言葉に頷く。
名前から考えてこの国の人間では無いだろうし、
それに私が魔法を使った時の反応の理由が分からない。
まるで、初めて魔法を見て、その力に怯えているような…
その様子に少し心配になって声をかけたら、すぐに落ち着いた様子になったのも気になる。
「だとしたら、明日何処から来たのか色々と聞いてみましょう。彼の事、少し気に入ったし」
「エレナ様は今後、彼をどうするつもりなのですか?
彼はあまり此処に留まらないつもりだと思われますが」
私の気に入ったという発言に、
彼の処遇をどうするのかとセルリアは少し呆れの色を滲ませながら聞いてきた。
「私は彼を此処から出す気は無いわよ?」
「やはりそうですか…」
「当たり前じゃない?」
分かっているなら聞かなくてもいいのに。
一応で聞いたのは分かるけど、誰でもそう思う事をわざわざ聞かなくてもいいと思うのよね。
「だって黒い髪を持っているのよ?そんな人、誰も見た事無いわ」
この国はおろか、どの国にも黒髪の人間は居ない。
だから彼はたった一人しか居ない、とても希少な存在。
もし他に同じ黒髪の人間が居たとしても、珍しい事に変わりは無い。
「だから彼を助けた私が、彼を此処に閉じ込めて彼の事を知ろうというわけ」
「つまりは彼を軟禁するつもりですか」
「怪しまれないように、ある程度は自由にするつもりよ」
でなきゃ彼が逃げるかもしれないじゃない。
彼が逃げて珍しいとおもった誰かが、彼を狙う事を防ぐためにもなるんだから。
「今の彼は私の所有物なのよ。だから彼のこれからの事は私が決めるの」
「では私が彼の監視を致します」
「そうね、見知った人物の方が安心出来るだろうし」
こういう時、セルリアは有能よね。
私の侍女になった事が喜ばしいわ。
「エレナ様!」
丁度話が終わった時に、私の護衛の女性騎士が私に駆け寄って来た。
用件は大方予想出来るけど、誰からかしら?
「近衛騎士が大声で私を呼ばないで。大事があったと勘違いされるでしょう?」
「申し訳ございません!」
「何用で来たのです?早く伝えなさい」
「はい」
セルリアは近衛騎士に近付いて先を促す。
急ぎの用件であれば早くしないといけないからね。
「国王陛下が謁見せよ、とのお達しです」
「お父様が…」
多少意外な人物ではあったけど、用件は予想と同じでしょう。
「分かりました、急ぎましょう。案内をしてちょうだい」
「はっ!」
クシマ…彼の事は後にしておきましょう。
今はまだ逃げないでしょうし…