二話目、出来る事なら夢オチにしたい
…昔の事を思い出した。
子供の時の記憶や、高校生の時の記憶が走馬灯のように…って。
「何で走馬灯を見てるんだよ!」
起き上がると同時に大声でそう言ってしまった。
とりあえず、心臓が動いているか胸に手を置いて確かめてみた。
鼓動は早いが動いていて、生きていたと安心したが、すぐに別の不安に襲われる。
「何処だ此処…」
周りを見れば、今度は広い部屋のベットの上。
また見知らぬ場所に運ばれたのかと考えていると、ガチャッ、と扉が開き、人が二人入ってきた。
一人は白に近い銀髪を首の下まで伸ばしていて、髪は結われておらずくせも無い。
目は濃い青色で、宝石のサファイアに似ている感じがする。
服装は黒いワンピースに白いエプロンを着ていて、メイドさんという雰囲気がある。
もう一人の方は、青いドレスと華美な装飾品を身につけているが、
それに負けない程の輝きを放つ金髪と、エメラルドのように鮮やかな緑色をした目の整った顔は、
お姫様と言われれば納得出来てしまいそうだ。
そんな二人が入って来て、真っ先に俺は思った。
何の冗談でそんな恰好をしているんだろうと。
コスプレ好きの可能性があるから何も言えず、呆然としていると。
「あら、やっと起きたのね」
とお姫様がそう言いつつ、近寄って来た。
状況が分からず、戸惑っていると。
「貴方は川で流されていたのよ、それを私が見付けて助けたの」
とお姫様に言われて、助けてくれたのかと思うと同時に、
あの時落とされたのが夢じゃなかったのかと少し悲愴に思った。
心の中で。
「そうなんですか。助けてくださってありがとうございます」
と頭を下げ、お礼をした。
お姫様は少し微笑んでいえいえと言った。
というか、さっきからメイドさんは一言も喋らないな。
そんな事を考えていると、お姫様は微笑んだまま。
「自己紹介がまだだったわね。私はエレナ、こっちが私の侍女のセルリアよ。貴方の名前は?」
「…私の名前は串間和彦です…」
一応無礼にならないように、ベットの上で頭を下げる。
上げてもいいと言われるまで下げるべきかな?と思いながら、顔色を窺っていると。
「カズヒコ?聞いた事の無い名字ね」
と言われて、慌てて顔を上げて。
「いえ、串間が名字で和彦が名前です」
と間違いを指摘した。すると二人共訝しそうな顔をして。
「変ね。名字を先に名乗る国なんて聞いた事が無いわ」
そう言うとセルリアさんは同意するように頷いた。
それを聞いた俺は、ありえないと思っていた可能性をもう一度考える。
いくらなんでもその可能性は無いと信じたいけど、あの二メートル越えの鳥は現実に居て、
相手と自分の常識が同じじゃない理由を考えると、その可能性を否定出来無い。
だからといって確信出来るかと言われるとそうとは言えない。
何か、もっとそれ以外考えられないと思えるようなものが無いと。
そう考えていたら、その可能性を確認する方法を思いつく。
「あの、すいません」
早速それを実行するため、何故か困った様子を見せる二人に声をかける。
自分の予想が外れてますようにと、祈りながら深呼吸をして。
「魔法を使って、見せてくれませんか?」
と頭がおかしいんじゃないかと言われても仕方ない台詞を、
こっちを向いている二人に投げかける。
何を言われるか期待と不安を交わらせながら待つ。
もし俺の予想が外れていれば、あの怪鳥は突然変異で生まれたもので、
俺がおかしいと二人に思われているのは二人が常識知らずで済ませられる。
他にも色々な事が考えられるし、全部夢って事にしたいけど、
あの鳥に関しては、頭突かれて痛かったから夢の可能性は無い。
だからこそ俺は、一番納得がいく答え以外を探すために二人にこの質問をした。
その答えは…
「ええ。これでいいのかしら?」
そう言ってエレナさんは掌の上に光の玉を浮かばせた。
その光は眩しくはないが、はっきりと光っていて、白い光は温かく感じる。
だが、その光景を見た俺の心は冷え切っていた。
自分の予想が当たってこんな悲しい事は無いだろうなと思うくらい。
何せ目の前でこう言われたようなものなのだから。
此処は君が来たくもなかった異世界だよ、と。