一話目、此処は何処?あれは何?
白くたなびくカーテン、その向こうでは木の葉がさらさらと音を立てている。
穏やかで、心休まる時間を過ごしていると、昼の十二時を告げる音楽が鳴る。
もうそんな時間かと思い、昼食は何を食べようかと考える。
けど、朝食は十時に食べて、今は特に腹も減っていないので後で食べようと思い、
読んでいた小説を読み進めた。
読んでいる小説はありがちな異世界モノで、
異世界に召喚された勇者が魔王を倒しに向かう途中で、仲間と出会ったり。
苦難に遭いながらも、魔王討伐に向かう話だ。
ありがちな設定にしては面白くて、何度見ても飽きないが、いきなり異世界に来て、
魔王を倒してほしいって言われて、やるなんて普通は言わないよなとか、
何で当たり前のように野宿とか出来るんだよ、とか思うんだよな。
そんな状況になったら普通混乱するか、今すぐ帰りたいとか思うんじゃないかと考えてしまう。
そんな事言ったら話が始まらないのは分かるけど、
俺は異世界に行きたいと思わないし、仮に行ったとしても早く帰りたいと思う。
この主人公おかしいんじゃないかと思うが、
小説に現実的なツッコミをしたらきりが無いのでやめる。
そんな事を考えながら過ごしていると、急に眠気が襲ってきた。
やる事も無いし、動く気力も無いため、そのまま眠気に逆らわずに眠りにつく事にした。
これが俺、串間和彦十八歳の、この世界で過ごした最後の時間だった。
目を開くと、そこには晴れ渡った青空が広がっていた。
雲一つ無いその光景は、絵に描いたように綺麗で、
今まで見た事が無い深い青色は、見入れば目が離せなくなりそうなほど…
そこまで考えて、現実逃避はやめようと思った。
…虚しくなるし、逃げていても何も変わらないし…
これ以上心が荒むのを止めるため、起き上がって今の状況を考える事にした。
足元は木の枝で作られた鳥の巣のような床で、
目の前は高い所に居るのが分かるほど広大な景色が広がっている。
…目を開けた時から思っていたけど、此処は何処だ?
少なくとも俺はこんな所に来た覚えは無い。
とりあえず自分の事や、今までの事を色々思い出す事にした。
俺の名前は串間和彦。
十八歳で一人暮らしをしている新社会人。
小説や漫画が好きで出版社に入社していて、
初任給の後の初めての休みに本を読みながら家でダラダラとくつろいでいたら眠くなって寝た。
それが一番最近の記憶。
…あれ?家に居たのに何で外のこんな所に居るんだ?
寝てる間に運ばれたなら何の目的で、どうやってこの場所に運んだんだろ?
ていうかどうやって帰ればいいんだ?
とりあえず降りられるか確かめるために立ち上がると、後ろから。
「ピィ!」
と鳴き声がしたので振り返ると、そこには三十センチくらいある鳥がこっちを見ていた。
見た目は鷹みたいに細いけど、顔と羽は雛鳥みたいに見えて、まだひよこだと分かる。
そのひよこ?の後ろには、同じく三十センチくらいの卵が何個かあるだけで、他にひよこは居ない。
…もし本当にあの鳥がひよこなら、親鳥はどんなに大きいんだろう…
襲われたら確実に勝てないと踏んで、端の方へ行き、下を見た。
下には川が流れていて、先には滝があった。
流れは強いみたいで、飛び降りても流されて滝つぼに落ちるかもしれない。
次に、地面の方を見る。
けど、かなり高いから降りれなさそうだ。
巣のある場所は、十メートルもある木のてっぺんみたいで、
やるなら木を使ってゆっくり降りなきゃいけない。
そう考えて木の幹がありそうな場所を探すため、端を歩いていると、
後ろからさっき鳴いていたひよこがついてきていた。
立ち止まってかがんで向き合う。
それでも動かずこっちをみているからこっちもひよこを見る。
体の色は全体的に薄い緑色に見えるが、よく見ると、青が混ざった緑色が少しだけ羽や頭にある。
大きくなったら翡翠みたいな色になるかな。
そんな事を考えながら見つめ合っていると。
バサッ、バサッ、と後ろから大きな影と共に音がたっている。
まさか…とゆっくり振り返ってみる。
そこには、かがんでいるせいか、とても大きく見える鳥が帰って来ていた。
二、三メートルに見える親鳥は翡翠が人の身長を超えて大きくなったような感じだった。
…なんだろう…親鳥の目が敵を見ている目に見える…
後ろは川だし、飛び降りて岸まで泳げば助かるかな?
そう考えて一歩後ろに下がろうとした瞬間。
「え…?」
親鳥が俺目掛けて頭突きをしてきた。
頭突かれた胸の痛みに耐えながら川に落ちるのを確認して、息を出来るだけ吸い込む。
川に落ちて水面に上がろうと泳いでみるが、流れが思った以上に強い上に、速くて上手く泳げず。
滝に落ちる前に気を失ってしまった。