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牢獄

作者: ミズキ

ぴちゃん…ぴちゃん…

どこからか雨漏りの音が聴こえてくる

重い瞼を開け、目を覚ます

相変わらずここは暗い

硬いベットの上で上半身を起こす

鉄格子の前に看守がいない

つまり今は夜ということか…

変な時間に起きてしまった

レンガでできた冷たい床に足をつき立ち上がる

蛇口の錆びた水道でぬるい水を飲む

ここは牢獄

暗く冷たくなにもない単なる牢獄だ…



ある日珍しい音を聴いた

私がこの牢獄に入ってからまだ1度も聴いたことのない音だった

鉄のようなものがひきづられる音だ

そして私の部屋の前に看守がいないということはつまりそういうことだろう

新入りだ…

鉄をひきづる音は次第に私の部屋に近づいてくる

そしてようやく新入りの顔が拝めた

私の視線に気づいたのか新入りがこちらに目をやる

すると、まるで化け物をみたかのような目になり立ち止まる

全く失礼なやつだ

元上司だというのに…

新入りは看守に促され私の部屋の前の牢屋に入る

看守は鍵をしめた後、私を一瞥してどこかへ行った

忙しいやつめ


「なぁ」


声がしてそちらを向く

先ほどの新入りだ


「あんたこんなとこにいたんだな」


私はなにも言わずただ彼を見つめる

彼は気まづそうに頭をポリポリとかき、視線を斜め下に向ける

相変わらず人と関わるのが苦手なようだ


「正直、君が来てくれて嬉しいよ

 あの看守と話すのももう飽きた」


私はただ彼を見つめ一定の口調で話した

まるで感情などないように


「あんたの他に囚人はいるのか?」

「いいや、私が初めての囚人であり、私とあの看守以外誰もいない」

「いつからここにいる?あんたが消えた時からか?」

「あぁ、そうだ

 時間にして約6年と3ヵ月と言ったところだな」


彼はその後も飯のことやここでの暮らし方について質問をしてきた

一通りの質問が終わったところで私からの質問を彼になげかける


「君は何をしてここへ?」


彼は「あぁ、」と呟き、レンガ造りの天井を見上げて話した


「社長の女を傷つけた…」

「ほう、なかなかなことをしたな」

「あんたは?やっぱりあのことか?」


私は首を横に振り、否定をした

そして少し考える

実はいうと彼とはそこまで長い月日を過ごしていない

1、2ヵ月程の仲だ

彼が入ってきたときには既に私は自分の終わりを感じていた

私は口を開く


「全てさ」


その日はその一言で話が終わった



ここでの1日の過ごし方は赤子でもできる程の簡単なことだ

1日なにもしないで牢屋にいること

ただのそれだけ

シンプル過ぎて日常がつまらなく感じてしまう

ここに看守は1人しかいない

常に私の牢屋の前に立っている彼1人だ

私は暇潰しに彼に話かけるのだが、この看守が無愛想なもので2言3言で終わらせようとしたがる

全く困ったものだ

看守にももちろん休みや休憩がある

だがそれは不思議なことにいつでも休みや休憩をとって良いことになっているらしい

例えば、夜になったら看守は自室に戻りそこで寝ているらしい

朝になればまたコツコツと靴の音を鳴らしながら牢屋の前にくる

全く律儀な男だと思うよ

いてもいなくても変わらないと言うのに

彼も聞いているだろう

自分が形だけの存在であって、本当の意味などないと

しかし彼は毎日欠かさず私の牢屋の前に立つ



「なぁ、なぁ!」


夜中、看守がいないことを見計らって新入りが話しかけてくる


「あんた一緒に脱獄しないか?」


その質問に私は思わず笑ってしまう

なんと初々しいのかと

私もそんなこと考えた時があったが今ではもう考えようともしない


「やめておけ

 無駄骨になるだけだ」

「はぁ?そんなに厳重なとこなのか?

 看守1人しかいないのに?」

「あぁ、そうだ

 看守が1人しかいないということが既に答えを表している」

「意味わかんね

 よくよく見ればここって結構隙だらけじゃねーかよ」


確かに彼の意見は正しい

しかし、この牢獄のことを知らなすぎる無知ゆえの発言だ


「レンガとレンガの間には隙が多いし、看守もいない時間がある

 特に夜なんかは朝までくることはない保証ができる

 なのになぜできないと言うんだ?」

「なら、君はここを出たあとどこへ行くつもりなんだ?」


その質問で彼もようやく気づいたのだろう

ここには逃げ場などないことに

例え牢獄を出れたところでその後はどうするのか?

ただその疑問だけが残る


「君が解雇され、ここへ来て、今牢屋(そこ)にいる

 外の世界では解雇された程度では牢獄に入れられないというのは君も知っているだろう

 しかし、ここはどこまでいっても中なんだ

 中の存在の私たちはどこまで行っても中にいるんだよ」


彼はもうその言葉になにかを返す気力すらないらしい

自分の抱いていた微かな希望が完全にゼロだとわかったのだから

まぁ、こうなるのも無理はない

私たちは所詮誰にも気づかれない中の存在なのだから

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