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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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096.全身全霊を込めて

 弓に光の矢を番え、放つ。

 鋼帝竜の猛攻を受けるアルマ。

 彼女を援護するために、ボクはそれをひたすら繰り返していた。

 本来ならもっと連射するか、あるいは束ね打ちで一気に迎撃したいところだが、鋼帝竜の角の硬度はアダマンタイトと同等。

 それを砕くためには、一発一発の攻撃に、かなりの魔力を込めなければならず、必然、手数は制限されてしまっていた。


「くっ!!」


 パドラに殺到する角の数はどんどん多くなる。

 いかに素早い精霊鳥といえども、そう長くは保たない。

 隣でボクに魔力を送り続ける艶姫も同じ考えなのだろう。

 歯噛みする気持ちで、それでもひたすらに攻撃を続ける。

 しかし、最も俯瞰的な立場で、この場に立っていたゆえに、少しずつだが、鋼帝竜についてわかってきたこともあった。

 鱗をパージしてからこっちの鋼帝竜は、機動力が大幅に上がったことはもちろんだが、その肌の硬度すらも鱗があったときを上回っている。

 その上、身体のいたるところから角を伸ばすことができ、その速度、硬度ともに、恐ろしいとしか言いようがない。

 だが、アダマンタイトほどの硬度を誇る金属がそれほどの速度で伸縮し、対象を攻撃するなんて行為がなぜ可能なのだろうか。

 肉体すらも透視することのできるボクの眼は、その答えをすでに見抜いていた。


流動性硬化魔感物質りゅうどうせいこうかまかんぶっしつ


 とでも、名前をつけようか。

 パッと見ただけではわからないが、奴の銀の肌は非常に細かい金属の粒で構成されている。

 それは普通のドラゴンの肌に比べれば、かなり頑丈ではあるが、流動性ゆえに、絶対的な防御力を持つわけではない。

 しかし、奴は、敵から攻撃を受けた瞬間、あるいは、敵へと攻撃するための角を伸ばした瞬間、必要な部位に魔力を送り込むことで、流動する肉体を硬化し、アダマンタイト以上の硬度たらしめることができる。 

 鋼帝竜の生まれ持った恐ろしい特性。金属の粒が流動するスピードも、魔力で硬化するスピードも、ほとんど脊髄反射とでも言っていいような速さであり、とても人間が対応できるレベルではない。

 硬化する前に、攻撃をしかけることはほぼ不可能。

 それを突破するための打開策として、多少なりとも実現性があると私が考えられたのは2つ。

 1つ目は、面での攻撃。フローラのスターライトのような、広範囲への攻撃であれば、奴も魔力を広範囲へ展開せねばならず、単位面積当たりの防御力は低下するのではないかという予想だ。

 しかし、現状、フローラはコルリの安否確認に行っており、それを行うことは不可能。

 2つ目は、多人数による、一斉攻撃。1つ目の時の理論と同じく、身体の各所に、圧倒的な火力をぶち込めば、対応できなくなるのではないかという予想。

 だが、これも、アルマとボクしか攻撃メンバーがいない現状では難しい。

 どちらの策を取るにしても、パーティがそろわなければ話にもならない。

 すぐさま実行することができない以上、今はアルマがかき回しつつ、ボクが援護することで時間を稼ぐほかない。

 しかし、そう悠長に時間稼ぎをすることも難しい。

 鱗を落とし、身軽になった身体で、一歩一歩着実に港へと迫っている鋼帝竜。

 このままでは、ものの1、2分で港へと到達してしまうだろう。

 陸に上がれば、こちらとしては戦いやすくはなるだろうが、街への被害は間違いなく甚大なものとなる。

 なんとしても、ここで食い止めなければならない。


「あかん!」


 艶姫が叫びを上げた。

 パドラの逃げ場がなくなった。

 まるで猛禽類の鋭利な牙を湛える口のように、上下左右、すべての空間から、伸びた角が迫る。

 あの物量、とても無事では済まない。


「アルマ!!」


 援護も間に合わず、ただただ名を呼ぶことしかできないボク。

 角の波状攻撃に飲み込まれるかと思われたその時、神視眼が、アルマの中の変化を感知した。

 人にはそれぞれ固有の魔力がある。

 量のいかんはもちろんだが、性質とでも言おうか、それぞれの人間にはそれぞれ固有の魔力の"色"のようなものがあるのだ。

 神視眼の感知するアルマの魔力の"色"、それが、唐突に変わった。


「これは……!?」


 変化の瞬間、迫ってきていた大量の角を、アルマが大剣の一閃で砕いた。

 いや、あれはすでにアルマじゃない。

 ジアルマでもない。

 容姿、能力、性格、まるで、アルマとジアルマのすべてが混ざり合ったかのような……。


「ユニオン……か!」


 心当たりがあった。

 デュアル族には、大昔対峙した経験がある。

 その時、切り札として彼らが使っていたのが、ユニオンだった。

 2つの人格の一時的な完全融合。

 今のアルマは、ジアルマであり、同時にアルマでもある。

 2人の統合された心と身体とその能力は、見事に鋼帝竜の角を砕いたのだ。

 身体から紫苑の光を放ちながら、アルマとジアルマの融合体は、次々と鋼帝竜の角を砕いていく。

 その強さは、単体でのジアルマよりもずっと上だ。

 アルマは特に戦闘に特化した能力を持っているわけではない。

 それでも、2人が融合することで、あれだけ戦闘力の向上が見られるということは、いかに2人が特殊なデュアル族かということを物語っていた。

 とにかく、これで少し盛り返した。

 このまま、アルマ&ジアルマが時間を稼いでくれれば、あるいは……。


「いや、ダメだ……」


 融合した2人の猛攻を受けながらも、鋼帝竜は歩みを止めない。

 それどころかさらに前進する速度を上げた。

 やはりこいつの耐久力は規格外すぎる……。


「皆が揃うまでは……ボクが……!!」


 神視眼の魔力を全力で解放する。

 ボクの肩に触れ、魔力を送り続けてくれている艶姫が、ビクッと震えた。

 気合を入れる、とはこういうことをいうのだろうか。

 全力で魔力を練ったボクは、弓を手放すと、両腕を鋼帝竜へと向けた。


「エアウォール!!」


 全身全霊を込めた魔力で、空気の壁を作り出す。

 弓では、鋼帝竜の歩みを止めることはできない。

 ならば、力押しだ。

 全力のエアウォールで、波の時と同じように、鋼帝竜を押し返す。


「はぁああああああああああああ!!!」


 必死になる、という感覚。

 思えば、ディグと出会う前は、こんな感覚になったことは一度たりともなかった。

 でも、彼と、仲間達と冒険を続けるうちに、ボクは、必死になる、という感覚を徐々に学習していった。

 今のボクには、守りたいものがある、守りたい人がいる。

 そのためなら、自分の限界以上の力だって、きっと引き出してみせる。

 港まで、あとほんのわずかな距離を空けて、空気の壁が鋼帝竜とぶつかった。

 巨体から発揮される圧倒的な圧力。

 壁に接して、なお進もうとする鋼帝竜の進軍に真っ向から抗う。


「うっ……うぉおおおおおお!!!」


 巨体(パワー)空気(パワー)のぶつかり合い。

 少しでも気を抜けば押し込まれる。

 だが、これまでの戦闘で、すでにボクも艶姫も多くの魔力を消費している。

 残り少ない魔力を絞り出しながら、ボクは、ひと時もエアウォールが破られないように、力を込め続けた。

 でも……。


「くっ……」


 限界は近かった。

 神視眼が明滅し、3つの目の奥が灼けるように熱い。

 全身からは大量の汗が噴き出し、口の中はカラカラだ。

 このまま続ければ、ボクの命はないかもしれない。


「シトリンはん! もうやめぇ!!」


 艶姫の悲痛な声が響く。

 でも、ボクは信じてる。


「絶対に守り抜くんだ……。ここさえこらえれば……きっと……」

『シトリン、力を抜け!』

「えっ……」


 ボクのよく聞こえる耳に、どこからか"あの人"の声が届く。

 ああ、やっと……やっと……!!


「任せたぞ……」


 エアウォールを解除し、よろけたボクの身体を艶姫が支えてくれる。

 空気の壁による妨害のなくなった鋼帝竜は、残りわずかな港までの距離を詰めようと、再び歩みを進めた。

 その……時だった。


 ドゴォーーン!!!


 何かがめり込むような音とともに、鋼帝竜の身体が、突然大きく"沈んだ"。

 まるでそう。海の中に"落とし穴"でもあったかのように。

 ふふっ……やはり君は常識外れのことをしてくれるな。


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


 朦朧とした意識の中で、ボクが世界で一番信頼する"あの人"の叫びが港に響き渡った。

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