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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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095.ユニオン

 いつしか、あれは私の妄想だったのではないかと思い始めていた。

 寂しくて、寂しくて、どうしようもない私が頭の中で作り出した空想の産物。

 それが"ジア"だったのはないか、と。

 でも、違った。

 ジアは本当にいたのだ。

 私に最初の一歩を踏み出させてくれた、とてもとても優しい"妹"は、本当に存在したのだ。


「また……また、会えたんだ!!」

『お前!! 今、戦闘中なんだよ!! とりあえず落ちてる!! 落ちてるから!!』

「ふふっ♪」


 相変わらずの乱暴な口調に、なぜだか、じんわりと嬉しい気持ちが広がっていく。

 ジアちゃん、変わらないなぁ。


『お前、ミナレスんとこ行ってから、本当に能天気になったなぁ……』

「うん、ジアちゃんのおかげ!」

『褒めてねぇよ』

「あれ……」


 先ほどまであった浮遊感が薄れ、いつの間にか私の身体は下へ下へと落ち始めていた。


「なんか落ちてる?」

『さっきそう言っただろうが! とりあえず、早く身体を寄こせ! じゃないと、海に叩きつけられちまう!!』

「身体……」


 そうだ。さっきから違和感があった。

 なんだかいつもより身体が大きい気がした。胸やお尻の辺りに重みを感じるし。

 右手に何か掴んでいるのに気づいて、そちらを向くと、私はミナレス様が持っているような巨大な剣を持っていた。

 その刀身に、今の自分の姿が映る。


「だ、誰……?」

『俺様だよ! 俺様!! 中途半端に覚醒しちまったせいで、お前は今、俺様の身体を使ってるんだよ!!』

「ちょ、ちょっと何言ってるかわかんない……かも」


 えっと、ジアちゃんの身体を私が使ってるってこと……?

 そもそもジアちゃんの身体ってどういうこと。


『ああ、くそ!! もう身体は寄こさななくていいから、自分でなんとかしろ!! 俺様の身体なんだから、たぶん死にゃしねぇ!!』

「えっ、えっ、どうにかって……!!」


 どんどん加速して地面に近づいていく、誰かの身体の私。

 気持ちは少しずつ焦ってくるけど、空中で何かできるわけでもなく、私はあわあわと腕を振った。

 その時だった。


「あっ……パドラ!」


 私の大きな胸の谷間(は、はじめての感覚……)から、ひよこモードのパドラがひょこっと顔を出した。


『お前、ずっとそこにいやがったのか……』

「パドラ!! お願い、助けて!!」

「ピギィイ!」


 元気に返事をすると、パドラは巨大化し、私を乗せると、大きな翼で羽ばたいた。


『おおっ、やるじゃねぇか!!』

「助かったよ、パドラ!!」

「ピギィ♪」


 褒められたパドラは嬉しそうだ。


「で、でも、これからどうしたら……」

『ちっ……意識の受け渡しが無理なら……しゃあねぇ。お前が戦え』

「えっ!?」


 私が、戦う……?


「む、無理だよ。ジアちゃん! 私、剣を持って戦うなんて!」

『ああ、昔のお前だったら、とても無理だったろうな。でも、俺様は見てたぜ。これまでのお前を』

「えっ……?」


 ジアと別れた時の言葉を思い出す。


『俺様とお前はいつでも一緒だ』


 そうだ。辛い時も、くじけそうな時も、いつも最後の一押しをくれたのは、ジアのあの言葉だった。

 直接顔を合わせることはなかったけれど、ジアは、ずっと私の事を見守っていてくれたんだ。


『あの聖塔を昇り切ったお前なら、やってやれねぇことはねぇ!!』

「う、うんっ!!」


 そうだ。私だって、仮とはいえ、もう冒険者なのだ。

 目の前のドラゴンを見据える。

 強そうだ。怖い。逃げたい。

 でも……。


「ディグ様……」


 ジアちゃんとあの人(ディグ様)にもらった勇気があれば……そう、私は戦える。


『行け! "姉貴"!!』

「うん!!」


 大剣の柄を、強く強く握る。

 私の戦う意思が伝わったのか、パドラが大きく羽ばたいた。

 光の残滓を残しながら、ものすごいスピードで飛翔する。


「いっけぇええええええ!!」


 大剣を頭上に掲げ、竜の脳天へと肉薄する。

 すると、竜の身体から角が生え、私に襲い掛かった。

 恐ろしく硬そうな先端が私へと迫る。

 けれど、パドラが空中で見事に身体を捻ると、そのすべてを回避してみせた。

 さすが、ミナレス様が契約した伝説の精霊鳥。

 見た目は可愛いけど、とっても凄い!

 私は、そのまま剣を振り下ろすのみ!!


『ぶちかませっ!!』

「え、えぇええええええい!!」


 パドラから飛び降りるとともに、自分なりに気合を込め、竜の眉間に私の振り下ろした剣がぶち当たった。

 インパクトの瞬間、ものすごい衝撃に思わず剣を離してしまいそうになる。

 だけど、ここで離してはダメだ。

 痛みに耐えながら、私は強く強く剣を握りしめた。


「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 目の前で爆音がした。

 私の剣によるダメージで、竜が叫びを上げたのだ。


「うわっ!!」


 振り落とされるように投げ出された私を、パドラが見事にキャッチした。

 そのまま一旦、港へと下される。


「や、やったか……?」

「あ、シトリン様」


 降り立ったその場、港の崩れた突堤にはシトリン様が弓を構え、立っていた。

 どうやら私の今の一撃を援護してくれていたらしい。


「えっ、ア、アルマ……なのか?」

「そ、そうです! 私、アルマです!!」


 人の身体を使っているので、わかってもらえないかもと思ったが、神視眼を持つシトリン様は私に気づいてくれたようだった。


「お、お前、いったい……」

『おい、ロリババア、詳しい話はまた、後だ』

「ロ、ロリ……ま、また……」

「こらっ、ジアちゃん! なんて呼び方するんですか!!」

『うるせぇ! 別に俺様がなんて呼ぼうと勝手だろうが! 急にお姉ちゃん風吹かすんじゃねぇよ!』

「な、なんだか、随分面白いことになっているようだな……」


 きっと一人芝居をしているように周りには見えてしまっているだろう。

 この身体の口を使ってしゃべることくらいは、どうやらジアちゃんにもできるらしい。ますますどういう仕組みか不思議。


『んな、悠長なことくっちゃべってる暇はねぇ! ほら見ろ!』


 ジアちゃんに促され、私とシトリン様、そして、近くにやってきていた艶姫様は揃って、竜の方を向く。

 眉間を陥没させながらも、奴の赤い瞳は益々ギラギラと光っている。


鋼帝竜(やつ)はまだやる気満々だぞ』 


 その言葉を肯定するかのように、今まで悠然とその場に佇んでいた竜が一歩前へと踏み出した。

 そうして、そのまま早足で歩みを進める。


「上陸する気か!?」


 艶姫様の悲痛な叫び。

 あんな巨体がもし港に、そして、都へ上陸してしまったら、街は廃墟になってしまう。

 それだけは絶対に避けないと……。


「パドラ!」

「ピギィ!!」


 私は再びパドラに騎乗する。


『やれんな!!』

「うん!」


 ジアちゃんに叱咤激励されながら、再び竜へと飛翔する。

 けれど……。


『こいつ……!!』

「つ、角が……!?」


 先ほどよりも激しく、大量の角が、私とパドラに襲い来る。

 パドラは必死に避けてくれるが、それでも、竜本体に容易に近づくことができない。

 後方からは、シトリン様と艶姫様の援護の魔法が飛んでくるけど、それも絡みつき、より強固になった角に阻まれている。

 なんとか、なんとかしないと……!


『……姉貴』

「ジアちゃん?」

『本当はやりたかねぇが、今の状況を打破するにはこれしかねぇ』


 パドラの羽に角がかすった。

 竜の攻撃の正確さはどんどん上がっている。


『ユニオンだ』

「ユニオン……」


 私も単一人格(ユニデュアル)とはいえ、デュアル族のはしくれだ。

 その言葉の意味は知っている。

 ユニオンとは2つの人格の一時的融合の事。

 例えば、剣士の人格のAと魔法使いの人格のBが合体することで、剣も魔法も使えるものすごく強い人格Cを発現させることができる。

 しかし、ユニオンは、人格同士の信頼関係がよほど強くなければ成立しない上、融合時間も短く、さらには精神的、肉体的負担も大きい。

 西ギルドで小間使いをしていた時も、実際に誰かが使っている場面に遭遇したことはなかった。


『姉貴と俺様は共生体だ。薄々気づいてんだろ?』 

「え、えぇええ!? そうなんですか!?」

『全く、欠片も気づいてなかったのかよ……』

「はい!!」

『いい返事だなぁ、おい。全く、こいつとユニオンするのかと思うと頭が痛ぇ……』


 やれやれといった様子のジアちゃん。

 それにしても、私とジアが共生体……つまり、今私が使っているこの身体は本来ジアのものだということ。

 ようやく少しだけど、理解できてきた。

 私は実は、単一人格(ユニデュアル)じゃない普通のデュアル族で、ジアちゃんとずっと一つの身体を共有してきたんだ。

 それでも、いろいろ疑問は残るけど、今は、それについて質問していられる時じゃない。


「ジアちゃん! やりましょう! ユニオン!」

『えらく乗り気だな。成功率は……正直高くねぇぞ!』


 さらに大量の角が竜の背中から生え、私たちを囲むように、まるで、波のように襲ってくる。

 パドラの逃げ場は、もうない。


「大丈夫です! だって、私は……ジアちゃんを信頼していますから!!」

『はん! そこまで言うならやってやる!!』


 突き放すようで、どこか嬉しそうなジアの声。

 その声を聞いて、私の胸もなんだか熱くなる。


『行くぞ、姉貴!!』

「はい!!」

『はぁあああああああああ!!!』


 ジアと私の声が重なった瞬間。

 私たちの身体の中で、大きな何かが破れ、溶けあった。

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