009.エクストラクラス
「…………あれ、ここは……?」
気が付くとオレは見知らぬ部屋のベッドに寝かされていた。
身体を起こそうとすると、全身に鈍痛が走る。
いててて……。
自分の身体を見てみると、上半身には包帯が巻かれ、頭のコブにもメッシュが貼られている。
「ようやく目が覚めたわね」
「アンシィ……!」
声のした方を見ると、スコップモードになったアンシィが枕元で横になっていた。
「なあ、何があったんだ……?」
「えーとね、あのフローラって娘が──」
アンシィが言い終わる前に、部屋の扉が、立て付けの悪そうな音を響かせた。
「あ、良かった。目が覚めたのですね……!」
ドアを開けて入ってきたのはフローラさんだった。
手には水の入った桶を持っている。
どうやらオレの事を看病してくれていたらしい。
「フローラさん、すみません。なんか世話かけちゃったみたいで」
「とんでもないです! むしろ、すみません……というか」
「?」
よくわからないが、凄く恐縮しているフローラさん。
なんにせよ。オレを安全圏まで運んで、介抱してくれたのはフローラさんだろう。感謝以外ありえない。
「身体、痛むところはないですか?」
「あー、痛むところだらけといえばだらけですけど。大丈夫です。意外とオレ頑丈なんで」
実家では、妹からのスキンシップという名のDVを受け続けていたからな。コブや青タンくらい日常茶飯事だ。
あれ、でも、フローラさんにヒールしてもらったんじゃなかったかな。
もしかしたら、ヒール貰う前に倒れてしまったのかもしれない。
ダンジョンからずっと休みなしだったからなぁ。さすがに疲れていたのかも。
「それよりもここって……?」
「ドーンの街の宿屋の一室です」
「ドーンの街?」
「ディグさんが倒れていた森からほど近い街です。多くの冒険者が拠点としている中継都市です」
「へぇ……!」
そうか。冒険者の街なのか。
転生してきたオレにとってはおあつらえ向きの街じゃないか。
「ここって冒険者のギルドとかがあったりするの?」
「もちろんです。冒険初心者の方も、この街から仕事を始める人が多いんですよ」
おおっ、ようやく異世界に来たという実感が湧いてきた。
今まで、穴掘って、穴掘って、たまに埋めて、また穴掘るだけだったもんなぁ。
冒険らしい冒険の話が、かえって新鮮だ。
「あのさ。オレ、実は冒険者になろうと思って、この街まで来たんだ」
「そうなんですか!!」
ガバッと突然身を乗り出すフローラさん。
近い! 嬉しいけど、近いよ、フローラさん!
「あ、失礼しました……! スコップを持っていらっしゃったので、てっきり土木関係の方かと」
「あー、まあ、これは……ね」
アンシィの柄を持ちながら、お茶を濁す。
「あ、あの……」
「ん?」
「もし、冒険者登録をされるのでしたら、ギルドまでご案内しましょうか?」
「ほんと? いや、助かるよ!」
よっしゃぁ! これで、オレもようやく冒険者デビューだ!!
チートはもらえなかったが、その分、なんか強げな職業に就いて、無双できるようになってやる!
「では、ご案内します」
「ありがとう! 頼むよ!」
フローラさんの手を取り、オレは立ち上がった。
アンシィが何か言いたそうな気配を醸し出しているが、気のせいだろう。
さて、初めてのファンタジー世界の街を闊歩する。
文明レベルは中世ヨーロッパくらいだろうか。
レンガ造りの橋や家々は、牧歌的な雰囲気を醸し出している。
人口も思った以上に多い。
道行く人の姿を見れば、いわゆるRPGの村人的なチュニック風の洋服を着た人達が半分以上を占め、あとは、冒険者や農夫や大工など、専門の職業衣装を身にまとった人の姿も見える。
およそ普通の人間が多いが、中には、獣や鳥の頭を持った獣人や天使の羽根のようなものが生えている人たちもいる。どうやらこの世界には様々な亜人がいるようだ。
さすがに冒険者の街というだけあって、少し歩いただけで、プレートメイルや魔女のとんがり帽子をかぶった屈強な冒険者達とすれ違う。
そのたびに、これからの輝かしい冒険者生活をイメージして、俄然テンションが上がってしまう。
ちなみにオレの服装はというと、冒険者が鎧などの下に来ているような、旅人の服を着ている。青いラインが入っていて、なかなかカッコいい。
どうやらオレが気を失っている間に、フローラさんが用意してくれていたらしい。すでに元の世界で来ていた服はボロボロで、半裸状態だったので、たいへんありたがい。
ちょうど良いホルダー付きのベルト(おそらく本来はナイフ等を入れるものだろう)も用意してくれたので、アンシィはノーマルスコップモードでそのホルダーに納まっている。
変に魔法の道具か何かと勘繰られるのが煩わしいのか、人間形態になるどころか、先ほどから一言も言葉を発していない。
せっかく街に来たんだから、一緒に歩きまわりたかったんだけどなぁ。まあ、冒険者になってから、ゆっくり二人で回ればよいか。
「ここが冒険者ギルドです」
「おおっ、ここが……!」
石造りの頑丈そうな大きな建物、まだ、この世界の文字は読めないが、でかでかとした看板には、二振りの剣がクロスするカッコいいシンボルが刻まれている。
フローラさんに促されるまま、スイングドアを開くと、ギルドの中へ。
中もなかなか広い。どうやら奥には酒場が併設されているようだ。
まだ、日中で皆仕事に出ているのか、冒険者の姿はちらほらといったところ。
フローラさんにつきしたがって受付へ。
うわぁ、お姉さん、おっぱい大きいなぁ。フロントに乗っちゃってるじゃん。あまりに目に毒だ。
「あら、どうかされましたか?」
優しい声色のお姉さんに問いかけられて、オレは、ハッと二つ並んだお山から目をそらした。
「あの、この方、冒険者になりたいらしいのです」
答えたのはフローラさんだ。
受付のお姉さんは、フローラさんを見て、一瞬怪訝な顔をしたが、すぐに笑顔を戻した。
先輩冒険者とはいえ、登録に一緒に来てもらったりするのは、過保護だっただろうか。ちょっと恥ずかしい。
「あ、あの、オレこの街に来たばかりで……」
「大丈夫ですよ。特に身分証の提示や登録料も必要ありません。冒険者になるべき資格があるかどうかは、女神ヴィナス様のご威光により、判断されますので」
唐突に豚野郎の名前が出て驚く。
何、あいつこの世界でこんなに信仰されてるの?
職務怠慢な豚だけど、大丈夫なの?
「では、冒険者カードを作成し、職業適性を確認します。こちらに手をかざしていただけますか?」
「こ、こうですか?」
お姉さんが受付の横に設置された水晶玉のようなメカニカルな機械を指し示したので、そこに手のひらをかざす。
すると水晶が光りだし、ウィンウィンとなにやら駆動音を響かせた。
しばらくして音が止むと、お姉さんがカードを差し出してきた。ほんのポイントカードくらいの大きさのカードで、枠が書いてあるだけで、何も記入はされていない。
「そのカードを水晶にかざしてみてください」
「あ、はい」
言われるがまま、水晶にカードをかざす。
すると、まるであぶり出しのように、じわじわとカードに情報が記入されていく。
おおっ、いかにも魔法の道具って感じ。
カードへの自動記入が終わると、お姉さんが手のひらを差し出してきたので、一度カードをお渡しする。
内容をじっくり見たかったけど、まだ、オレ、こっちの世界の文字読めないしな。
「ディグさんとおっしゃるんですね。ステータスは……魔力以外の値は平均的ですね」
「えっ、オレって魔力が高いんですか!?」
なんとなく自分は物理職のイメージだったんだが、魔力が高いのなら、魔法使い系の職業もいいかもしれない。
パーティの最後方に控え、強力な魔法でどんな屈強なモンスターの群れも一掃するクールな魔法使い……うん、それもいいぞ!
「あ、逆ですね。魔力はほとんどありません」
おい、期待した気持ち返せよ。
いいですよ。素直に脳筋しますよ。
「でも、このステータスなら、魔法を使う職業以外でしたらなんでも…………って、ええぇえ!?」
「ど、どうしました!?」
もしかして、何か凄いスキルとかあるのか。
「く、職業欄がすでに埋まってます!! これは、EX職業……!?」
「えっ……!!」
お姉さんだけでなく、フローラさんも驚愕した表情でオレの顔を眺めている。
「な、なんか凄いの?」
「普通、冒険者は適正に即して、自分で職業を選択することができるんですが、ごくまれに生まれた時からその人特有の特別な職業を所持している方がいるんです。そういった方は、歴史的にも大きな活躍をする方がたくさんいらっしゃって……」
丁寧に説明してくれるフローラさん。
いや、来たんじゃね。この世界で初めての「あれ、オレなんかやっちゃいました」的ムーブ。
「なんだって!?」
「マジかよ……!?」
「す、すげぇ、初めて見た!!」
こちらの騒がしい様子に気づいたのか。酒場でちびちびとやっていた数人の冒険者達が、羨望とも驚嘆ともつかない声を上げる。
いいよいいよ、実に転生モノっぽいよ。
ほら、早く肝心のそのEX職業とやらを教えてくれ。
「そのEX職業って……?」
「ディグ様のEX職業は──」
お姉さんは何のてらいもなく、とても素敵な笑顔で宣った。
「スコッパーです!」