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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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088.迫る決戦

 誰かが、オレの背を抱いてくれていた。


「あっ、コルリ……」

「終わった?」

「……ああ」


 気が付くと、オレは、元の最下層の広間へと戻っていた。

 目の前にはもう、あの"オレ"と"アンシィ"の姿はない。

 ただ、アンシィの手の感触の余韻だけが、わずかに手のひらに残っている。


「良い顔してるね」


 コルリはオレの土まみれの顔を右手の親指でわずかに擦った。

 その感覚がなんだかこそばゆくって、少し笑ってしまう。


「待っててくれて、ありがとう」

「ううん。一緒に……と思ったから」


 オレとコルリは揃って祭壇へと向き直る。

 そこに鎮座する緋色に輝く金属、ヒヒイロカネ。

 一歩ずつ足を進めたオレとコルリは、それに触れられる距離まで近づいた。

 顔を見合わせる。

 オレが頷くと、コルリはゆっくりとヒヒイロカネに触れ、持ち上げた。


「軽い……」


 およそ一抱え程はあるだろう。

 かなり大きなインゴットだが、コルリはまるで重さなどないかのように、それを軽々と持ち上げている。

 コルリがレベル100を超えていることを考慮しても、かなり軽い金属であるのは間違いない。


「これで、魂魄刀が作れるな」

「うん、でも……」


 コルリは周囲を見回す。

 神域の大空洞の最下層で見つけられるはずの金属は2つ。

 ヒヒイロカネとオリハルコン。

 この祭壇にはヒヒイロカネは鎮座していたが、オリハルコンの方は見当たらない。

 オリハルコンが無ければ、アンシィを蘇らせることはできない。


「大丈夫だ。オリハルコンは絶対に持ち帰る」


 オレは銀のスコップをギュッと握りしめる。


「だから、コルリはそれを持って、一足先にアイオライトさんのところに戻っててくれ」

「でも……」


 一瞬何かを言いかけたコルリだったが、オレの目を見た瞬間、こくりと首を縦に振った。


「わかった。待ってるから」

「ああ、そんなに待たせるつもりはないから。それと、これ……」


 オレはコルリに、ある意味、切り札とも言えるアイテムを手渡した。


「これ……」

「アイオライトさんに会ったら、渡してくれ」

「あっ………わかった!」


 コルリは再び首肯すると、袖の中から、転移結晶を取り出した。

 握りしめるように、それを割ると、コルリの姿が、オレの目の前から掻き消えた。

 今頃は、大空洞の入り口まで移動していることだろう。


「さあ」


 オレは銀のスコップを祭壇のすぐそばの地面へと突き立てる。


「スコップダウジング」


 スコップから超音波を発生させ、土の中に埋まっているものなどを見つけるための探知スキル。

 この迷宮に挑戦するとき、コルリはこう言った。


『神の金属は遥か地中で精製される』


 つまりこの最下層より、さらに下。

 遥か地面の奥深くにならば、インゴットほどの大きさではないにしろ、精製されている途中のオリハルコンが存在する可能性は十分にあり得る。

 いや、必ずある。なぜだか、オレにはその確信があった。

 深く息を吐きながら、地面の奥へ奥へと、音波の届く範囲を広げる。

 もう限界だという距離まで来たとき──


「…………あった」


 土の中に明らかに異質な塊の反応を捉え、オレは歓喜の笑みを浮かべた。

 



「第1次迎撃ライン……突破されました。艦艇戦力は……全滅です……」

「……そう」


 先ほどまでけたたましく響いていたスピーカーの音に、今は雑音が響くばかり。

 わかってはおった。

 艦艇戦力はあくまで都までの到達時間を延ばすために差し向けた戦力に過ぎない。

 いわゆる足止め役や。

 とはいえ、それなりに奴を消耗させられる目算はあった。

 艦艇に搭載された武器は主に2種。

 ミサイルという爆薬を搭載したロケット兵器、それと行動を阻害するためのトリモチ砲。

 前者はやはり鋼帝竜の圧倒的な防御力の前に、大した効果は得られんかった。

 後者の方は、身体にまとわりつき、ある程度ストレスを与えることに成功したものの、その巨体とパワーの前では、行動を完全阻害するには至らんかった。

 現在、奴は身体にいくつものトリモチをまとわりつかせつつも、強引に街へと向かっている。

 朗報があったとすれば、艦艇戦力のほとんどが奴の音波攻撃で破壊されたために、艦艇そのもののダメージに比して、人的被害が少なかったことやろうか。


「すぐに沿岸から救助の船を差し向けて。第2次迎撃ラインに奴が到達したら、"アレ"を出すで。ジャスパーに連絡を」

「了解。繋ぎます」


 戦闘前と同じく、ジャスパーの工房と通信がつながる。


「ジャスパー、第1次迎撃ラインが突破された」

「いよいよじゃにゃ!」


 嬉々とした声。こちらの気も知らんで……。

 だが、それはそれだけ自分の発明に自信があるということに他ならん。


「ギリギリ港からの砲撃、雷撃が届く範囲まで引き付ける。攻撃の第一波が終わったタイミングで射出頼むで」

「相分かった」


 期待値は正直半々。

 だけど、今はジャスパーの"アレ"に希望を託すほかない。

 少しずつはっきりと視認できるようになってきた鋼帝竜の巨体を見つめ、うちは唇をかみしめていた。




「はぁ……はぁ……げぼっ……」


 ボロボロの身体を引きずり、俺様は山脈の麓まで降りてきた。

 やった……やってやった。

 竜の踊り場とやらにやってきた1000体の翼竜。

 そのすべてを俺様は自身の経験値へと変えた。

 レベルは126。

 以前、あのクソドラゴンと戦った時よりも、遥かにレベルが上がった。

 俺様は確実に強くなった。だが……。


「くそが……」


 そのまま地面に寝転がる。

 一切の休憩を挟まずでの1000体の魔物の討伐。

 さすがの俺様も、身体への負担が限界を突破した。

 もはや歩く体力もろくに残ってねぇ。

 ぐぅー、と腹の虫もなった。

 せっかく強くなったってのに、このままじゃ餓死しちまう……。

 せめて、干し肉の一つでも持ってきときゃ……。


「はい」

「おう、干し肉じゃねぇか! ありがてぇ!」


 突然、目の前にプランとぶら下げられた干し肉に、俺様はむしゃぶりつく。

 ただの携帯食だというのに、限界まで酷使した身体には、他に代わるものがないくらい美味く感じる。

 ああ、生きててよかったぜ……。

 不覚にも生の喜びまで感じ始めていたその時、ふと、気づく。


「お前……」


 俺様に干し肉を差し出した人物、それは、あの双剣女だった。


「なんでここにいやがる……?」

「アルマンディン流には、人の"気"を読み取って、場所を把握する技がある」

「いや、どうやって見つけたのか聞いてるわけじゃねぇよ」


 こいつ天然ってやつか?


「あなたと私はパーティメンバー」

「はぁ?」


 こいつもクソ雑魚(ディグ)のパーティに入ったってことか?


「あなたのおかげで、神域の大空洞を攻略できた。だから、助けに来た」

「いや、待て待て」


 まったく話がわからん。


「順を追って話す」

「おう、聞いてやる」


 その後、双剣女が話すそれを聞いて、俺様は目を閉じて頷いた。


「だから、私たちがヒヒイロカネを手に入れられたのは、あなたのおかげでもある」

「なるほど、そういうことかよ……」


 正直、俺様も感じてはいた。

 翼竜を倒しているだけにしては、レベルの上がり方が少し早いと。

 こいつらが神域の大空洞で倒した魔物どもの数も、カウントされていたってわけだ。


「勝手に感謝してくれる分には構わねぇ。さっきの干し肉はその借りを返してもらったってことでいいんだよな」

「うん」


 まあ、本当はお互い様だけどな。


「はん、それにしても、ディグの(あの)野郎。ちょっとは漢を見せたってところか」

「ディグはオリハルコンを必ず持ち帰る。だから、私たちは、それまで、イーズマの都を守る」

「ふん、都なんか知ったことかよ。俺様は、ただ鋼帝竜を倒せれば満足だ」

「うん、それでいい。でも、どうせ戦うなら、武器は強い方がいい」

「…………どういうことだ?」

「あなたの武器も、アイオライトに鍛えてもらう」


 アイオライト? 確か、武器職人つったか。


「そいつが、俺様の大剣をもっと強くしてくれるのか?」

「うん、工房にアダマンタイトがある。それでその武器をコーティングしてもらえば、もっと強くなるはず」


 俺様は、傍らに無造作に放り出していた大剣の柄を握る。

 俺様自身は強くなったが、武器がついてこなくちゃ確かに奴との戦いを有利に進めることはできねぇ。

 悔しいが、そのアイオライトとやらに、武器を鍛えてもらうのは願ってもねぇ。


「借りじゃねぇからな」

「うん、わかってる」

「でも、お前が他の人間を頼るとはな」


 最初にあのクソドラゴンと戦った時、こいつは完全に憎しみを力に戦っていた。

 だが、今のこいつは違う。

 討伐に向けての強い意志は感じる。復讐心も感じないわけじゃねぇ。

 けれど、どこか自然体でいて、周囲を見渡す落ち着きすら感じられる。

 神域の大空洞とやらの攻略で、何か掴みやがったのか。

 俺様と同じく、こいつはあの時よりもずっと強い。

 身体がこいつと戦いたくてウズウズしてきやがった。


「なあ、鋼帝竜を倒したら、俺様と一戦殺し合お(やろ)うぜ」

「いいよ。でも、それまでは」

「ああ」


 双剣女が差し出す手を、オレは残った力で強く握った。


「西と東の最強コンビだ。せいぜい暴れてやろうぜ」

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