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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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080.それぞれの決意

「ディグはん……ディグはん……!!」

「あ、ああ……」


 誰かの声がする。

 なんだろう。頭がガンガン痛い。

 身体もなんだか痛いし、目を開けるのすら億劫だ。

 だが、胴を揺さぶる誰かの必死な叫びに応えて、オレはなんとか重い瞼を持ち上げた。


「あっ……」


 目の前には泣きそうな表情でオレの顔を覗き込む和風美人の顔があった。


「あれ、艶姫さん……」

「良かった……! ディグはんだけでも目を覚ましてくれて……!!」

「オレ……だけでも……?」


 その言葉に、オレは周囲を見回す。

 ひどい……有様だった。

 オレ達がひとときのバカンスを楽しんだプライベートビーチ。

 そこには、たくさんの折れた流木が流れ着き、巨大な岩が散乱し、ペンションもボロボロの水びだしになっていた。

 そして、比較的無事だった砂浜の一部には、粗末なシートが敷かれ、その上には、オレの仲間たちの姿があった。

 フローラにシトリン、2人とも砂浜の上に敷かれたシートに横たわり、目を閉じている。


「2人は……? 2人は無事なんですか!?」

「ああ、どちらも外傷はそないない……。でも、水を大量に飲んだことと頭を強く打ったせいで、すぐには目を覚まさんやろう……」

「そんな……あ、アンシィは……!? ねえ、アンシィはいったい……!?」

「それは……」


 艶姫さんがオレから目を背けた。

 その態度に、不吉なものを感じて、思わず艶姫さんの両肩を掴む。


「ねえ! アンシィは……!!」

「ディグはん、先にこれだけは聞いて。うちらが今、こうして無事でいられるのは、アンシィはんのおかげや」


 オレに肩を揺さぶられながらも、艶姫さんは努めて淡々と続ける。


「アンシィはんは、あの鋼帝竜の攻撃を自分の身を犠牲にして、相殺してくれた。ダメージを受けた鋼帝竜は、こちらを警戒したんか、今、水中に身を潜めとる」

「犠牲にって……。アンシィは……」

「ごめん……」


 謝罪の言葉に、頭がカッと熱くなり、オレは艶姫さんの肩を乱暴に跳ねのけると、だるい身体に鞭を打って立ち上がった。

 犠牲になったなんて嘘だ!!

 あのアンシィがそう簡単にやられるわけがない!!

 そうだ、そうに決まってる!!


「おーい!! アンシィー!! どこだー!!」


 オレは、漂流物が散乱する砂浜をアンシィを探して歩いた。

 粉々になった岩や流木の陰を探して歩く。

 そうこうしているうちに、オレはやがて波打ち際までたどり着いた。


「アンシィー!!」


 名を呼びながら、オレは波打ち際を歩く。

 どれくらいそうしていただろうか。

 ひとしきり広い砂浜を歩いた後、気が付くと、オレの足元には……バラバラになった剣先スコップの残骸が、静かに波にさらされていた。 




「あ、痛ぁ……」


 力任せに跳ねのけられ、砂浜に倒れ込んでいたうちは、ゆっくりと起き上がった。

 そのまま立ち上がり、服についた砂を払う。

 まさか……こんなことになるなんて思ってもみぃへんかった。

 8年前、突如、街を襲った鋼帝竜の姿は、私にとって、畏怖の対象やった。

 当時、世界最強を誇った東冒険者組合の猛者達は、次々と鋼帝竜に殺され、私自身、大けがを負った。

 家族も友達も、何人も死んだ。

 あいつへの恨みは計り知れへん。

 でも、実際に再び鋼帝竜に対峙した時、うちの中では、恨みよりも恐怖の方が大きかった。

 心の準備ができていなかった。

 鋼帝竜が再び目覚めるのは、もっとずっと先の事やと思うとった。

 そんな言い訳やったらいくらでもできる。

 けど、結局は、自分の中でずっと先延ばしにしとったことが、突然やってきて、うちはただただおろおろすることしかできへんかった。

 こんなことやあかん。

 あれから、8年……うちやって、それなりに力をつけてきたつもりや。

 東冒険者組合の代表として、半ば解体しかけた組合を歯を食いしばる思いで復興させてきた自負はある。

 機巧技師や武器職人との連携も密にして、イーズマ一環となって、いつかやってくる災害(鋼帝竜)への備えやって進めてきた。

 倒せなくても構わへん。でも、都だけは、絶対に守り抜いたる。

 そのためにも、今せなあかんことは山ほどある。

 都へ戻ったら、まずは対策本部を立ち上げる。それから、ディグはん達を──


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

「ディグはん……!?」


 砂浜で大声が聞こえ、うちは慌てて、声の元へと走った。

 そこにはディグはんと……そして、バラバラになってしもうたスコップがあった。

 あのスコップは、アンシィはんや。転生者(ディグはん)の特別な武器。

 女神から与えられたはずの武器があないな状態になってしまうなんて……。

 きっとただの武器とは違う特別な感情を持ってたんやろう。

 ディグはんの顔にもはや理性はなく、現実を受け入れられないといったように、その身を震わせながら、慟哭し続けている。

 

「落ち着くんや、ディグはん!! そない叫んだら傷口が……!!」


 慌ててディグはんの身体を押さえつけようとしたけど、完全に理性を失ったディグはんは全く落ち着く様子もない。

 このままやったら、命の危険も……。


「黙れや」

「がっ……」


 なんとかディグはんを落ち着かそうと、抱きしめていたうちの背後から、誰かがディグはんの首筋に手刀を繰り出した。

 意識を失うディグはん。


「ちっ……だせぇ姿見せやがって……」

「あんたは……」


 そう、確かディグはんがジアルマと呼んでいた女の子や。

 おそらくデュアル族……あのアルマという女の子との共生体なんやろうけど……。

 この娘のおかげで、鋼帝竜を一時撤退させることができたのは間違いない。

 アンシィはんの必死の突撃の後、一瞬動きの硬直した鋼帝竜の右目に、このジアルマはんが強烈な一撃を入れはったんや。

 さすがに瞳までは鱗と同じ強度を保てなかったのか、右目に傷を負った奴は、唸り声をあげると、海の中へと身を潜めた。

 おかげで、今うちらは無事でいられとるわけやけど、こうしていられるのもそう長い時間やない。そのうち、あいつはまた行動を開始するやろう。

 今のうちに、ディグはん達もはよ治療をしてやらんとあかん。

 ちょうどその時、連絡を入れておいたギルドの船がやってくるのが見えた。

 気を失ったディグはんの横顔を眺めながら、うちは、今やるべきことを頭の中で必死にシミュレーションしていた。




「ちっ、だせぇ……」


 ギルドから救助にやってきた定期船の甲板で、俺様は一人、遠ざかっていく孤島を眺めていた。

 悔しいが、俺様の剣は、まったく奴に歯が立たなかった。

 アイツの鱗の硬さは異常だ。

 最後こそ、あのスコップ女のおかげでできた隙をついて、攻撃することでなんとか撤退に追い込むことができたが、あのまま戦っていたところで、ジリ貧だった。

 あのクソ雑魚野郎(ディグ)のスキルのおかげで、レベルアップの限界を超えて、100レベルへと至った俺様だが、まだまだ力が足りねぇ。


「もっと、もっと強くならねぇと……」

「あんた、また、戦うつもりか?」


 同じくクソ雑魚(ディグ)を抱いたまま、甲板に座り込んでいた艶姫とかいう色白女が、オレに問いかけてきた。


「当たり前だ。俺様は破壊者(バスタード)だ。あんな奴に負けてるわけにはいかねぇ」

「強いんやな。あんさんは」


 一瞬、どこか眩しいものを見るように目を細めた色白女だったが、次の瞬間には、強かな戦士の顔つきになっていた。

 はん、なかなかオレ好みの顔しやがるじゃねぇか。


「お前もやる気じゃねぇか」

「それも当たり前や。うちには、都を守る義務があるさかい」

「へぇ、さっきとは雰囲気が違うじゃねぇか。肝が据わってやがる」


 色好みの放蕩女かと思いきや、さすがにあのミナレスと張り合うだけはあるな。


「言っとくけど、あんさんが下手に手ぇ出したからこないなことになったんやで」

「はん、知るか」


 どちらにしろ、あのコルリとかいう双剣女も手ぇ出してたじゃねぇか。


「知るかやない。どうせ戦うなら、うちらに協力しぃや。ちょっとでも強くなる方法、教えたるやさかい」

「何……?」

「イーズマは冒険者の修行の地でもある。世界一過酷な定点狩り……やってみる気はあらへんか?」

「……はん! 望むところだ!!」


 自然と口角が上がっていた。

 オレは、まだまだ強くなれる。




「鋼帝竜アダマントドラゴン……」


 客室のベッドの上で、私はにっくき仇の名をつぶやく。

 こんなところで出会うとは思っても見なかった。

 いつかお姉ちゃんの仇を取る。

 そう誓ってから、私は厳しい修練に耐え、東冒険者組合最強の冒険者になった。

 けれど、その力も奴の前では無力だった。

 机の上に視線を向ける。

 そこには、半ばから折れてしまった私の双剣が置かれている。

 鍛聖とまで呼ばれた、あのアイオライトに鍛えてもらった剣だ。

 イーズマに現存する武器の中でも、最強クラスの双剣。それでも、奴にダメージを与えることは適わなかった。

 伝説の金属、アダマンタイトでできていると言われる奴の身体の硬度は、噂以上だったのだ。


「もっと、もっと強い武器を……」


 ボロボロになってしまった双剣の柄を握りしめ、私は奴との再戦を誓った。

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