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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第2章 アノコにイヤせぬキズはなし!
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008.あれ? オレまたなんかやっちゃ……えませんでした。

 さて、ドラゴンに地上へと連れ出してもらったオレとアンシィは、青草の広がる草原へと下ろされた。

 改めて、正面からドラゴンの身体を見上げる。

 青空をバックに雄々しく立つドラゴンの姿は、心からかっこいい。

 でも、ドラゴンはなぜ、オレ達をこんなところまで運んでくれたんだろう。

 どうやら、すでにオレの事を自分の子どもだと勘違いしているわけではないみたいだけど……。

 まあ、考えていても仕方がない。


「ありがとう!」

「グォオオオッ」


 オレがここまで運んでくれた礼を述べると、それに応えるように、紅き炎の竜は咆哮した。

 そのまま、飛び立つかと思われたドラゴンだったが、オレではなく、アンシィの方へと顔を向けて、なにやら目を閉じた。

 瞬間、アンシィの身体が炎に包まれる。


「えっ!?」


 いや、めっちゃええ感じで別れる流れやん!

 今更、攻撃……!?

 一瞬、とんでもなく焦ったオレだったが、違った。

 この炎は実際の炎じゃない。見た目は炎だけど。

 その証拠に、炎に包まれたアンシィはケロッとしているし、その隣にいるオレも、全く熱さを感じていない。

 でも、これはいったい。


「なんだか、力が溢れてくるわ……!」


 アンシィのただでさえ紅蓮に燃えた瞳が、炎の中で爛々と輝く。

 やがて、炎はアンシィの身体に吸い込まれるように消え去った。


『アンシィが、ユニークスキル<炎帝の加護>を獲得しました』


 脳内にアナウンスが響く。

 なんかめちゃくちゃ強力そうなスキル名のやつ来た!

 でも、なんでオレじゃなくてアンシィに……?

 微妙に納得できない思いを抱えつつ、もしかしたら、オレにも何か……と若干の期待の眼差しでドラゴンに顔を向けたのだが、それきり何を言うでもなく、ゆっくりと空に浮上した。

 そして、そのまま振り返らずに、元来た迷宮の方へと帰っていく。

 おーい、オレにも何か下さーい!!

 心の中で叫ぶものの、それきりドラゴンの姿は見えなくなった。


「うぅ、何で、アンシィだけ……」

「でも、このスキル使い方がよくわからないだけど」


 アンシィは自分の身体を眺めてみるが、特に身体的に変化があるというわけではない。

 加護というからには、何かピンチの時に助けてくれたりするんだろうか。

 まあ、ユニークスキルというからにはそれなりに強力なスキルなんだろう。


「さて」


 オレはドラゴンさんが飛び立ったのとは逆の方向へと踵を返す。

 足首くらいまでの青草が広がる丘。その丘を少し下ると、街道らしき整備された道が見える。

 きっとどこかしらの街に続く道だろう。

 まずは、あの道に沿って進んでみるとしよう。




 アンシィと連れ立って、街道を歩く。

 少し歩くと、いつしか周りは木々に囲まれ、森の中を進んでいた。

 木々の間から木漏れ日が降り注ぐ。

 天気も良いし、なんだかピクニックにでも来たみたいだ。

 ついさっきまで蒸し蒸しと暑苦しいマグマ迷宮(ダンジョン)にいたこともあってか、こうやってそよ風に吹かれて、ただただ歩いているだけで非常に心地よい。

 うむ、やっぱりシャバの空気は美味いぜ、と数年ぶりに出所したヤクザの組員みたいなことを考えていたら、唐突に街道沿いの木々の間から何者かが現れた。

 一人はスキンヘッドの筋骨隆々な男。

 一人は長身で細身の男。

 どちらも革の鎧をまとい、利き腕には武器を持っている。

 スキンヘッドが斧、細身の男がナイフだ。

 あ、これって。


「おい、そこのカップル。みぐるみ置いていきな」

「お、おお!」


 やっぱりだ。

 これってファンタジーの王道、山賊さんに襲われるイベントじゃないか!!

 なるほど、よくよく見れば、どちらもかませ犬っぽい顔をしている。


「おい、黙ってるんじゃねぇ。さっさとその場に荷物を置け。そしたら、命だけは助けてやる」


 命だけは助けてやる、だって。なんて典型的な小悪党のセリフ……。

 思わず、ぷぷっ、と鼻で笑ってしまった。


「てめぇ、何がおかしい!!」

「あ、いや、すんません……でも、ぷぷっ」

「こいつ馬鹿にしてんのか!!!」


 いや、もうセリフの一つ一つが丁寧に三下だ。

 悪いが、異世界転生モノじゃ、お前らみたいな奴は、主人公の「あれ、オレまたなんかやっちゃいました……?」的ムーブでぼっこぼこになる宿命なのだ。

 あの煉獄のようなダンジョンでは、高レベルモンスターばかりだったので、直接戦闘は避けたが、伊達に修羅場をくぐってきたわけじゃない。

 こんな山賊風情、スキルすら使わずに、一撃でクリアーだ。


「アンシィ」

「えっ、やるの?」

「当然」

「…………わかった」


 アンシィが人間型からスコップモード(スペード)へと変化する。


「な、なんだあの女!?」

「ス、スコップになりやがった!?」


 ふふっ、ビビってる、ビビってる。


「お前ら、逃げるなら今のうちだぜ」

「ふ、ふざけるな!! そのおかしなスコップごと、身ぐるみはがしてやる!!」


 そうかい、だったら。


「その言葉、後悔するんじゃないぜ……!」




 ──3分後


「ずびばぜん。ぼういぎりまぜん」

「こいつ、こんなに弱いのになんであんなに自信満々だったんだ……?」


 ボロボロになったオレ。

 山賊二人は、かわいそうなものを見る目で倒れ伏すオレを眺めている。

 あれ、おかしいぞ……。

 こういう時ってほら、人知れず迷宮の奥で力をつけていた主人公が、自分の強さを実感する的なイベントじゃないの……。

 確かに相手を舐めて、スキルも使わずに殴りかかったけどもさ。でも、こんな一方的にボコられるか、普通。


「あのね、ディグ。あくまで上がったのはスコップ技能のレベルよ。あんたそのもののレベルはおそらく初期値のままなんだから」


 えぇー、そりゃないぜ。

 あんだけいっぱい掘ったんだぜ。

 スコップから波動砲が出たり、空間ごと貫いたりできても良いはずだ!


「へへっ、このスコップ、さっき女に変化してたよな。魔法の道具か? 好事家に高く売れるぜ。おい、もう一度、女になってみろ」


 アンシィがスキンヘッドの方の山賊に小突かれる。

 ああ、このまま冒険にも出られず、どこかに売られてしまうのだろうか……。


「そこまでです!!」


 と、山賊達が立つ向こうから、凛とした女の子の声が響いた。


「誰だっ!?」


 山賊達が振り向く。オレもケツを突き出して倒れながら、視線だけそちらになんとか向ける。

 美少女がいた。

 薄いエメラルドグリーンの髪で、童顔だ。だが、育つべきところはしっかり育っている。年齢はオレと同じが少し下くらいだろうか。

 白を基調とし、ところどころに黄緑色の刺繍やバイアスのかかった修道女のような服を着ている。

 下はミニスカートでロングブーツとの間の絶対領域がまぶしい。

 うん、今オレは、地べたにはいつくばっている状態なので、なかなか際どいです。はい。


「て、てめぇは……!」

「おい、兄貴、やべぇぞ! あいつ多分、噂の……」


 あ、ご兄弟でしたか。

 長身の弟らしき男はすでに、逃げ腰。

 スキンヘッドの兄も、弟と顔を見合わせると、額から冷や汗が流れた。


「くそっ、引くぞ!!」

「あ、待ってくれ、兄貴ぃ……!!」


 山賊たちは逃げ出した。


「あのお怪我はありませんか?」


 颯爽と現れ、山賊達を引かせた少女がオレの元へと近づいてくる。

 あ、見え!

 と、絶妙なところで、アンシィがオレの視界を遮った。ちっ。


「あの……」

「だ、大丈夫。助かったよ」


 オレはアンシィを支えに立ち上がると、女の子に頭を下げた。

 うわぁ、近くで見ると一層美少女だ。

 目の色は少し青みがかった翠色なんだな。まさに、ファンタジー世界のヒロインといった容貌に、俄然テンションが上がる。


「そうですか。良かったです」


 にっこりとほほ笑むその笑顔はまさに聖母そのもの。

 恰好から判断すると、いわゆる回復職だろうか。

 後衛っぽい見た目なのに、威圧するだけで山賊達を引かせるとは、さぞ高名な冒険者なのだろう。


「あ、あの、おれ、ディグっていいます」

「あ、えーと……回復術士(ヒーラー)のフローラと申します」


 そう言って、会釈をする姿には高貴ささえにじみ出ている。

 可愛い上に所作まで美しいとは。


「あの、もし、宜しかったら、街までご一緒しましょうか? その……その恰好では何かと困ると思いますので」

「あー……」


 オレは自分の格好を見る。

 うん、半裸だ。パーカーをきちんと着れば、それなりにはなるかもしれないが、これまでの作業ですでにボロボロ。

 今、思ったけど、オレ絶対臭いよな。三日も風呂入ってないし……。


「あー、えーと、オレ、この辺りの土地勘もないし……めっちゃ助かります!」

「そうでしたか。では、是非ご一緒させて下さい」


 ああ、天使の笑顔だ。

 オレはルンルン気分でフローラさんの横に立つ。

 あ、でも、たぶん臭いと思うからちょっとだけ距離を開けとこう。

 臭いと直接言われたら、ちょっとショックだし。

 ちなみに、アンシィは空気を読んでくれたのか、終始スコップモードのまま無言を貫いてくれている。


「あ、痛ぇ……」


 少しだけ距離を開けてフローラさんの横に立ち、歩き出そうとしたところで、腹部に痛みを感じ、思わずオレは膝を折った。


「だ、大丈夫ですか!?」

「あ、うん……」

「やはりお怪我が……」

「ははっ、ちょっとボコられ過ぎたかも」


 正直、今も立っているのがやっとだったりする。

 これまでの疲れに加えて、体中ボコられたのだ。さすがに体力的にも限界に近い。

 あ、そうだ。


「あの、フローラさん、回復術士(ヒーラー)なんですよね? できたら、回復なんてしてもらえちゃったり」


 考えてみればこんなに可憐な回復術士が傍にいるのだ。

 美少女に回復魔法をかけてもらうチャンスじゃないか!

 正直、魔法というものがどんなものか早く見てみたいというのも本音だ。


「えっ…………?」

「うん、あ、いたたたた! 早く回復してもらわないと死んじゃうかも……!」


 わざとらしく、ダメージをアピール。

 美少女に回復してもらえる機会なんて、この先もあるかどうかわからんし。

 すると、フローラさんは一瞬逡巡するように視線を外した。

 あれ、なんかおかしいこと言ったかな……。

 数秒の後、フローラさんは思いの外、真剣な表情でこちらを向いた。


「わかりました。では、こちらに」


 やったー! 美少女回復術士からの癒しですよ、い・や・し!

 決して卑しい気持ちはないですよ。ええ。

 オレは嬉々として、フローラさんに近づいた。

 フローラさんがオレの胸あたりに手をかざす。


「では、いきます」

「はーい」

「……彼の者の傷を癒せ…………ヒール!!」


 ボォンッ!!!!!!!!!!

本日より毎日1話投稿していく予定です。

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