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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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079.砕かれた相棒

 海を引き裂くようにして、突然現れた巨大な竜。

 ひとくちに巨大といっても、その大きさは、これまで見たどんな生物よりも圧倒的にでかい。

 100メートル走のグラウンドをそのまま縦に立たせたくらいの大きさはあるだろうか。

 そんなバカでかい竜が、日光を遮るようにして、島に陰を落としている。

 あまりに非現実的な光景すぎて、オレは呆然と佇むほかない。


「何なの……こいつ……!?」


 オレと同じく、呆然と立ち尽くしていたアンシィの呟きで、ふと我に返る。


「こいつはたぶん、鋼帝竜アダマントドラゴン……でも、なんで……?」


 艶姫さんの話では、アダマントドラゴンが再び地上に現れるのは、もうしばらく先だという話だった。

 こんな風に突然現れるだなんて、いったいなぜ……。

 いや、理由なんかどうだっていい。今は……。


「アンシィ、逃げよう!」


 こんな奴とまともに戦って勝てるわけがない。

 万全の状態でも速攻で逃げを打つべき相手だ。ましてや、今の絶不調のオレでは、どうしようもない。

 それは、さすがにアンシィも理解しているようで、オレの提案に素直に頷いた。


「ディグはーんっ!!」


 と、その時だった。

 オレとアンシィが立つ岩場に、艶姫さんをはじめ、仲間たちが走ってやってきた。

 どうやら、オレ達の姿がないことに気づいて、探しに来てくれたらしい。


「艶姫さん……こいつは……」

「鋼帝竜アダマントドラゴンや!!」


 やはりそうか……。

 天災とも言われるほどのその威容……確かにこいつからはそれだけのパワーを感じる。


「うちにもわけがわからん! とにかく、今、この状態でこいつと戦うのは無謀や……。この島からはよ逃げないと……」

「はん、逃げるだと」


 と、いつの間にか、変化していたジアルマが、艶姫さんの横から一歩進み出た。


「こんな面白そうな相手を前に、ありえねぇだろ」

「お、おい、ジアルマ……!」


 大剣を取り出し、構えるジアルマ。


「や、やめぇ! こいつはまだ目覚めたばかりでボケっとしとる! 今やったら、まだ逃げられる! 刺激するんやない!!」

「うるせぇなぁ。知るかよ。それに……」


 ジアルマは犬歯をむき出しにして、にぃっと笑った。


「こいつと殺し合いしたい(やりたい)のは、俺様だけじゃないみたいだぜ」


 殺意を感じた。

 双剣を携え、一歩踏み出した人物……それは、コルリだった。


「コルリ!!」

「鋼帝竜……お姉ちゃんの……仇……!!」


 その目は血走り、どす黒い闘気が全身から迸る。

 普段のどこかダルそうな印象とはまったく違う、好戦的な空気。

 艶姫さんが、そんなコルリの腕をつかむ。


「コルリ! あかん! 今は、我慢せぇ!!」

「お姉ちゃん……! お姉ちゃん……!!」


 なんとかとどまらせようとする艶姫さんだが、レベル99のコルリの膂力は半端なものじゃない。

 じわじわと振りほどかれる。

 そんな横で、我慢できないといった様子のジアルマが、大きく剣を振りかぶった。


「さて、竜と戦うのは初めてだ。せいぜい楽しませてもらうとするぜ!!」

「おい、ジアルマ!! やめろ!! 今、戦ったら今度こそパーティを──」

「昨日言っただろ。何度も同じカードが切れると思うなよ!!」


 ジアルマはオレの静止を振り切って、鋼帝竜へと跳躍した。


「ジアルマ!!」

「はっ、本当にでけぇな!! ひと跳びじゃ、とても頭まで行けやしねぇ!!」


 膝の辺りに着地したジアルマはそのまま再度跳躍して奴の背に飛び乗る。

 そのまま首の根元まで一気に走る。


「うぉおおおおおおおっ!!」


 気合とともに、大剣を横薙ぎに振るう。

 最初は止めたオレだったけれども、心の中では、ジアルマなら本当に竜を倒せてしまうのではないかという、わずかな期待感もあった。

 だが、その一撃で、オレの淡い期待はもろくも崩れ去った。


「なん……だと……!!?」


 刃が通らない。

 聖塔で手に入れた神器級の大剣、それにジアルマの圧倒的な膂力が上乗せされた一撃が、奴の鱗に完全に阻まれた。

 驚愕の表情を浮かべるジアルマ。

 仲間達にも戦慄が走る。


「ジアルマーーー!!!」

「くっ……!?」


 今の一撃で、ジアルマ、そして、オレ達の存在に気づいた鋼帝竜が身を震わせ、ジアルマを振り落とす。


「気づかれてもた……!!」


 艶姫さんの焦りの声と同時に、さらに何者かが鋼帝竜へと飛び出した。

 コルリだ。


「はぁああああああああああああああっ!!!」


 鬼気迫る叫びと共にコルリが宙を舞う。

 剣舞の時と同じく、双剣を構えると、ジアルマさえも超える圧倒的な跳躍力で、奴の首筋へと肉薄。

 そのまま一撃を見舞った。

 だが、その脚力と俊敏な身のこなしから繰り出される痛烈な一撃も、鋼帝竜の身体には擦り傷をつけるのがやっとだ。

 この竜、あまりにも硬すぎる。


「どきやがれ、オレの獲物だぁああああ!!!!」


 吹き飛ばされ、海へと落ちたジアルマも再び腰のあたりまで昇ってくると、無茶苦茶に大剣を振り回した。

 コルリもまるで狂ったように、奴に双剣での連撃を加えるが、効果が上がってるようには感じられない。


「ディグ!!」

「援護しよう!!」

「あ、ああ……」


 フローラとシトリンに促され、オレはアンシィへと視線を向けた。


「……やれるの?」

「あ、ああ……今度こそは……!!」


 もはや戦いは始まってしまった。

 ここから逃げるにしても、コルリやジアルマを置いていくわけにはいかない。

 だとすれば、倒せずとも、せめて、一瞬隙を作ることができれば……。


「…………」


 アンシィは何も言わず剣先スコップモードに変形した。

 オレはアンシィに乗ると、嵐帝の加護の力で、竜の頭に向かって飛び立つ。

 フローラはオレを含めた前衛に、バフをかけ、シトリンは光の弓で、弱点を探すように、奴の身体を撃ちまくる。


「みんな……ダメや……ダメなんや……!」


 艶姫さんは、オレ達の戦う様子を見ながら、唇をかみしめていた。

 普段は冷静な彼女が取り乱す様子からも、鋼帝竜がいかに人知を超えた存在か分かる。

 でも、倒せはせずとも、せめて……。


「アンシィ!!」

「狙うは目よ!!」


 全速力で奴の目に向かって飛ぶ、オレとアンシィ。

 そのまま太陽を背にして、奴に迫る。

 眩しさからか、一瞬目を細める鋼帝竜。

 今だ! 今なら……!!


「うぉおおおおおおおおおおっ!!!」


 オレは大きく上空に飛び上がったまま、ヒートスコップを発動させ、そのまま全体重に自由落下の速度も乗せた一撃をお見舞いしようと迫る。

 だが──


 ドクン……!!


「うっ……!?」


 心臓が大きく跳ねた。

 頭の芯がスッと冷たくなり、脳裏に映像がフラッシュバックされる。

 これは……あの時の……。

 ジアルマの嵐のような攻撃を受け、刃がこぼれ、ひしゃげていくアンシィ。

 ダメージを受け、ボロボロの状態で人間状態に戻るアンシィ。

 必死な顔でオレを助けようとして、さらに足蹴にされるアンシィ。

 アンシィ、アンシィ、アンシィ──。

 ダメだ。オレはこいつを……。


「戦わせたく……ない……」

「ディグっ!!!!」


 目の前に奴の顔が迫っていた。

 ハッとするが、もう遅い。

 オレは不格好な姿勢のまま、奴の鼻先に落下すると、そのまま奴の身体をゴロゴロと転がった。


「う、うぅ……」

「あんた!! やっぱり……!!」


 本当は……少し前から気づいていた。

 オレの不調の理由、戦えない理由……それは。


『アンシィをあんなひどい目に遭わせたくない』


 そうだ。オレは、戦うのが怖かったわけじゃない。

 アンシィが傷つくことを無意識のうちに嫌がっていたのだ。

 あの静止する声は、誰の声でもない……オレ自身の声だ。

 傷ついたアンシィの姿を2度と見たくないと願う、オレの声だったのだ。


「うぅ……うぅうううう…………」

「ちょっと……ディグ……!?」


 オレは逃げた。

 アンシィを大事に抱え、奴の首筋を滑るように逃げる。

 ダメだ。こんなやつをアンシィで叩けば、きっと、また、傷つく。

 刃がひしゃげ、血を流し、ボロボロになる。

 いやだ。もうオレは、アンシィを傷つけたくない。


「ディグ!! ディグ!! 離しなさい!!」

「あぁ、ああぁあああああ!!!」


 訳も分からなくなって、オレは鋼帝竜の広すぎる背中を必死で逃げ回った。


「あいつ……なにやってやがる……」


 依然、奴の鱗を突破できずにいるジアルマが、オレの元へとやってきた。


「邪魔だ! どっか行ってろ!!」

「あああああ!! ああああああああ!!」

「くっ……完全に頭イッちまいやがったか……」

「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 その瞬間、奴の咆哮が耳をつんざいた。

 ただの叫び声じゃない。奴の声と共鳴するように大気が揺れ動き、強烈な振動波がオレ達の身体を激しく揺らす。


「うっ……くっ……!?」

「かっ……こいつは効くぜ……!!」


 さらに、今まで小さな動きしかしてこなかったやつが、その場で大きく足踏みをした。

 それだけで、巨大な津波が発生し、孤島を飲み込んでいく。

 岩場から援護をしていた仲間たちの姿は、波とともにいずこかへと消えていた。


「あ、ああ、フローラ……シトリン……艶姫さん……」

「おら、いつまでもボーっとしてる場合じゃねぇ……!!」


 ジアルマがオレの首根っこを掴んだ。


「仲間がやられたんだろ!! しゃきっとしやがれ!!」

「あ、ああ……ああああ…………」

「くそが……!!」


 オレはジアルマに首根っこを掴まれたまま、放り投げられた。

 鋼帝竜の背中に、自身の背中をしたたかに打ちつけられ、呼吸すらままならない。


「ふん、そこで、俺様がこいつを倒すのを眺めてやがれ!」


 ジアルマは嘯いて、果敢に奴に攻撃をしかけるが、戦力差は歴然。

 同じくコルリの裂帛の気合の籠った双剣は、すでに両方とも半ばほどで折れてしまった。

 ダメだ。こいつには絶対に勝てない……。


「ディグ!! 聞きなさい、ディグ!!」

「あ、ああ……ああ……」


 アンシィの声が聞こえる気がするが、何を言っているのか全然入って来ない。


「ディグ! アタシは……」

「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


 これまでで一番の咆哮、しっぱが海面を打ち付け、巨大な水しぶきが上がるとともに、オレ達の身体が奴の背中から弾き飛ばされる。


「ぐああああっ!?」

「ちぃいいいい!?」


 肉薄して戦っていたジアルマとコルリも同様に空中に弾き飛ばされた。

 身動きが取れない空中で、奴の巨大なしっぽが風を切る音を立てて、迫る。


「くっ……!!!!」


 オレはせめてアンシィだけは守ろうと、スコップ状態の彼女を抱きかかえたまま、奴のしっぽに背中を向けた。

 その……時だった。


「えっ……!?」


 アンシィが嵐帝の加護の力を身に纏い、オレの腕の中からすっぽりと飛び出した。

 そのまま、一人で逃げてくれるのかと思いきや、あろうことかアンシィは、肉薄してくる奴のしっぽに向けて突撃しだした。


「うぁあああああ!!!!」

「アンシィ……!!!!」


 なんで!? アンシィ!!!

 アンシィの全力の突撃で、しっぽの勢いが相殺される。

 しかし、同時に、アンシィの刃に、一筋の亀裂が入る。


「ダメだ!! アンシィ!!!」

「うぁあああああああああああああああああ!!!!」


 自身が傷つこうとも、アンシィは嵐帝の加護の力を解除しようとはしない。

 それどころか、炎帝の加護の炎すら纏って、奴の鱗を抉るようにぶつかり続ける。

 落下するばかりのオレには、どうすることもできない。


「アンシィ!! アンシィ!!! アンシィイイイイイ!!!」


 腕を伸ばす。でも、その手は遥か、届きはしない。

 遠ざかる視界の中。

 何かが割れる音が聞こえた。

 次の瞬間……。

 

「あっ……」


 アンシィの身体がバラバラになって空へと散った。

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