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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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078.襲来

 この世界は、女神が作ったシステムによって、強さがある程度数値化されている。

 力、素早さ、体力、魔力、精神力、運。いわゆるステータスと呼ばれるそれらの数値は、レベルの上昇に比例して、ほとんどの場合は上がっていく。

 冒険者達は、レベルの恩恵のおかげで、普通に身体を鍛えたり、魔力の特訓などをするより、遥かに早く強くなることができる。

 しかし、その反面、レベルとは限界すらも決められてしまっているということに他ならず、才能があったり、人一倍努力した者はいずれはレベル99という限界値へと至ってしまう。

 もっとも、オレが出会った中で、レベル99だったのはジアルマと、そして、今こうして対面しているコルリだけなので、普通はその99といういう数値に至ることすら不可能に近いことなのだろうけど。


「コルリは鋼帝竜を倒すために、レベル99の壁を突破したい。そのために、オレのパーティに入って、限界突破スキルの恩恵を受けたいと」

「そういうこと」


 先ほどよりも、少しだけ落ち着いたコルリは、こくりと頷いた。


「私は、少し前にレベル99になった。でも……きっと、まだ、あの鋼帝竜には勝てない。だから、もっと強くなる手段を探していた」

「その……君にとって、鋼帝竜は仇か何かなのか?」

「うん」


 コルリは思い出すように顔をゆがめた。


「8年前……お姉ちゃんを鋼帝竜に殺された」

「あっ……」


 確か、艶姫さんが、鋼帝竜が以前現れたのが8年前だと言った。

 今のコルリから逆算すると、当時の年齢は8歳か9歳といったところだろう。

 その時分に、姉を失ったとなれば、大きなショックだっただろうことは、想像に難くない。


「いつの日か、再び鋼帝竜が現れるまでに、もっと強くなって、私はお姉ちゃんの無念を晴らしてみせる」


 そう言って、拳を握りしめるコルリ。

 コルリが若くして、ジアルマに匹敵するほどの戦闘力を身に着けている理由は、姉の仇を討つために、ずっと人一倍の研鑽を続けていたからなのだろう。

 それに比べて、最近のオレと来たら……。


「また、考え事?」

「ああ、いや……」


 いかんいかん。また、思考がスパイラルしようとしていた。


「……わかった。もし、艶姫さんが許可してくれるなら、コルリちゃん……いや、コルリをパーティに入れてもいい」

「本当!!」

「ああ」


 オレ自身の現状を考えれば、新たなメンバーをパーティに入れるのが得策とは思わない。

 でも、コルリの戦闘力は、ジアルマを有するオレ達パーティにとっては、願ってもない抑止力になってくれるはずだ。

 打算的で、自分でも少し卑屈な気持ちになってしまうが、とにかく今、コルリがパーティに入ってくれることは、間違いなくパーティ全体のプラスになる。


「明日、艶姫さんに聞いてみようか」

「うん!」


 よほど嬉しかったのか、コルリはオレへと抱き着いた。


「うわっ!? コ、コルリ?」


 ちょ、水着姿で抱き着かれるのは、さすがに今のオレでも反応しちゃいますぜ。

 細いと思っていたけど、こうやって密着されると確かな膨らみがばっちり感じられる。

 その上、上目遣いに見つめるその姿勢は反則級だ。


「…………する?」

「しょ、将棋を……?」

「ううん、本当の大人の遊び」


 少しうるんだ瞳で、オレを見つめるコルリ。

 いやいやいやいや、どうしちゃったの……?

 もしかして、未だにオレの事をケダモノだと思っていて、パーティに入れると言ったオレの気が変わらないように、こうやってガチの色仕掛けにシフトチェンジしたってことか……? 


「えい……!」

「あっ!?」


 そのままコルリがオレをベッドへと押し倒す。

 さすがにレベル99だけあって、力も強い。

 いわゆるマウントを取った形。もちろん上がコルリで、またがられているのがオレだ。

 お、女の子にこんなポジション取られたの初めてなんですが……。

 コルリがオレの服の胸の紐をほどいた。

 そして、少しひんやりとした指をオレの胸板へと這わす。


「はうぅ……!」


 背中に電撃が走ったような刺激。

 マッサージとも違う。これが性感帯ってやつ?

 とにかく今まで感じたことがないような快楽がオレの脳髄を駆け回る。

 コルリの体勢が徐々に前傾となり、頬の赤さまでがはっきりとわかるほどにお互いの顔が近づいた。

 ああ、めちゃくちゃかわいい……。

 白い肌に、リップを塗った真っ赤な唇が妙に艶めかしく見える。

 その唇が少しずつ、少しずつオレのそれへと近づいてくる。

 オレは、知らず知らずのうちに、目を閉じ、身を任せていた。




 …………のだが、一向に訪れるであろう甘美な感触はやってこない。

 おかしく思い目を開くと、そこにはさっきと全く同じ体勢のままでいるコルリの姿があった。

 いや、よく見れば、ただでさえ上気していた頬は一層赤く染まり、額には脂汗が浮かんでいる。心なしか目も泳いでいるような……。


「…………り」

「へっ……?」

「やっぱ……無理……!」


 そうつぶやいたかと思うと、コルリは華麗な後方二回宙返りでオレから離れると、部屋の窓を開け、外へと飛び出していった。

 レベル99の彼女にとっては、ここが2階だとか、そんなことはいささかの問題でもないらしい。

 いや、それにしても……。


「やっぱ無理しとったんかい……」


 残念なような、ホッとしたような……。

 とりあえず、今日はもう寝よう。

 



 翌朝のことだった。

 まだ陽が出るかでないかという早朝、ノックもなしに扉が明けられたと思うと、現れたのはアンシィだった。

 どこか会いづらい思いを感じていた相手が、向こうから突然やってきたことで、オレは動揺していたのだが……。


「ほら、準備しなさい」

「な、何の……?」

「リハビリよ」

「はい……?」


 よくわからないまま、いつもの冒険者の服へと着替えさせられたオレは、アンシィに手を引かれるまま、昨日、肝試しで行った森の中までやってきた。

 そして、よくわからないまま、剣先スコップモードへと変身したアンシィが、オレの手に収まる。


「え、えっ……?」

「ほら、来たわよ」


 木々の間から現れたのは、昨日と同じハードスクォーロルの亜種だ。

 しかし、徒党を組んできた昨日とは違い、今日はたった1匹でオレの方へと向かってくる。


「あいつをやっつけるのよ」

「あ、ああ……」


 なるほど、アンシィのやつ、オレの不調を治すために、あえて、魔物と戦わせようというわけか。

 確かに、それしか糸口はない。それに……。

 もしかしたら、オレに愛想を尽かしたんじゃないか、と思っていたアンシィが、こうやってオレの事を考えて、どうにかしようと動いてくれたことが素直に嬉しかった。

 その期待に応えなければ。


「よし、行くぞ!!」

「行くのよ!」


 オレはアンシィを振りかぶり、魔物へと駆ける。

 オレとあいつのレベル差なら、一撃良いのが入れば、それだけでKOできるはず。

 だが、そう思ったその時、やはりあの声が頭の中に響いた。


『やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ、やめろ!!』


「くっ……!?」

「ディグ!!」


 力が抜ける。だが、ここで止まるわけには……。


『…………後悔するぞ』


 背筋の凍るような感覚がしたかと思った次の瞬間、オレはアンシィを思わず取り落としていた。 




「はぁ……はぁ……はぁ……」


 あの後、人間形態に戻ったアンシィに肩を貸してもらい、オレ達はなんとか、魔物から逃げることができた。

 しかし、自分の深刻な状況を再認識したオレは、がっくりと項垂れるほかなかった。


「アンシィ……ごめん……」


 謝罪の言葉しか出てこない。

 本当にオレは、どうしてしまったんだろうか。

 あんな雑魚モンスターにすらまともに対峙することができない。


「ディグ……」


 オレの名を呼ぶアンシィ。

 でも、怖くて、オレはそんなアンシィの顔を見ることができなかった。

 失望……しているだろうか。

 座り込み、ただただ見つめる砂浜に、水滴がぽとりと落ちた。

 涙だ。いつの間にかオレは、涙を流していた。

 涙と一緒に、何か熱いものがオレの身体の芯から漏れていく。

 もう、オレにはどうしようもないのだろうか……。


「あっ……」


 ふと、温かい感触がオレの背を包んだ。

 どこかホッとする匂い。太陽のような、花のような、土のような、そんな匂い。


「アンシィ……?」


 アンシィが、座り込むオレの背を両の手で抱きしめていた。

 温かい手に包まれて、オレの冷え切った心にわずかながら熱が生まれた。

 そのままの姿勢で、アンシィはゆっくりと口を開く。


「悪かったわね。無理させて」

「とんでもない……。オレが……ダメすぎるだけだ」


 アンシィは、オレのためを思ってしてくれたのだ。

 全ては、その期待に応えられなかったオレに原因がある。


「ねぇ、話して。本当は何か原因があるんでしょ」


 すべてを解きほぐすようなアンシィの優しい声に、オレは、今まで言えなかったことを伝える決意をした。


「…………声が、するんだ」

「声?」

「戦おうとすると、変な声が聞こえて、身体から力が抜けるんだ」

「いつからなの?」

「あの化物ダコと戦った時から」


 アンシィは、これまでの戦いを思い返しているのか、少しだけ口を噤んだ後、再び口を開いた。


「やっぱりジアルマとの戦いから……?」

「そう……かもしれない」


 ジアルマと戦ってから、化物ダコと戦うまでの間に、戦闘らしい戦闘はしてない。

 となると、原因はあの戦いにあったと予想するのも当然のことだった。


「誰の声なの?」

「わからない……。いや、でも……」


 そうだ。

 あの声、思い返してみれば、知らない声じゃない。

 確実にどこかで聞いた声だった。

 そう、そうだ。

 あの声は……。

 

 ゴォオオオオオオオオオオ……。


 その時だった。

 島の地面の底から、何度か聞いたあの音が再び響いた。

 だが、今度は音だけじゃない。

 小刻みな振動が島全体を揺らしている。


「何っ……?」

「これは……」


 これまでとは違い、音はどんどん大きくなる。

 激しくなる音と共に、地震の振動もどんどん強くなり、島の木々が倒れ、埠頭の一部が崩落した。

 何だ。何が起こっている?


「アンシィ……!」

「ペンションまで戻りましょう! とりあえず、みんなと……」


 合流しよう、と続けようとしたアンシィの背後で、海が弾けた。

 そう「弾けた」だ。

 大量の水しぶきを上げ、巨大な質量を持った何者かが、海から飛び出した。

 でかい。でかすぎる……。

 下手をしたら、この島と同じくらいの大きさがあるのではないかという巨体が、海の中からせり出し、地面を揺らし、大波を生み出す。

 立っていることすらままならず、オレとアンシィは、水びだしになりながら、必死に岩場にしがみついた。


「ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」


 耳をつんざく咆哮の主が、降り注ぐ水滴の隙間からようやく見えてきた。

 そう、それは巨大な竜だった。

 まるで小島の如き体躯に、鋼のように鈍色に光る鱗。鋭い牙と瞳。

 首は異様に長く、その姿は昔、恐竜図鑑で見た、ブラキオサウルスにも酷似している。

 体格こそ今までのものと大きく異なるが、間違いない。

 こいつは──


「竜帝……?」


 朝日さえも遮るその巨体を見つめ、オレは呆然と立ち尽くしていた。

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