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オレにホレないモノはなし!~完全無欠のスコッパー~  作者: GIMI
第6章 我らにクダけぬモノはなし!
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073.あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!

「…………王手」

「えっ、ま、待った……!!」

「待ったなし」

「ぴえん……(T T)」


 あ、ありのまま今起こった事を話すぜ!


「おれはコルリに身体を押し付けられたと思ったら、いつのまにか正座をして将棋を指していた」


 な……何を言っているのか、わからねーと思うが。

 オレも何が起こったのかわからなかった……。

 頭がどうにかなりそうだった……。

 寸止めとか、賢者タイムとかそんな事前事後のあれこれじゃあ断じてねえ。

 もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…………って、いやいやいやいや、マジでオレ達なんで将棋してんの!?

 思わず気が動転して、ポル〇レフ状態になっちまったが、いや、本当に意味がわからない。

 確かに彼女はオレにもたれかかってきたよ。

 めっちゃ良い匂いだったよ。もうそれだけで、ちょっと……いろいろやばかったよ。

 でもね。あ、もしかして、おっぱい当たった!? と思った次の瞬間にはね。なぜだか、彼女の右手には将棋盤が握られてたのね。

 どうやら、ベッドの後ろの棚に置かれていたようなのね。木製の結構ちゃんとしたやつね。

 ああー、この世界にも将棋ってあるんだ~。片手で持てるなんて、コルリちゃんったら意外と力つよーい。

 とか思っている間にね。早々にセッティングされてね。

 こうしてね、床でね、正座でね、将棋指すことになったわけね。

 もうね、わけわからんね。


「次は飛車角落ち」

「あ、それなら多少は勝ち目が……って、まだ、やるの!?」

「もう寝る?」

「あ、いや、寝たいわけじゃない……!」


 他にやりたいことがあるだけさ!


「いや、リアルに聞きたいんだけども……。コルリちゃんはオレと将棋を指しにこの部屋に来たの?」

「うん。艶姫様に、あなたと大人のおもちゃで夜遊びをしてくるように言われた」

「大人のおもちゃで夜遊び……」

 

 なんてあからさまな隠喩なのだろう。

 けれども、この目の前の少女は、そんな隠喩をストレートに受け止めて、大人のおもちゃで夜遊び=将棋を指し、にきたというわけか……。

 いや、でも、さすがにそれは……。


「本当は意味わかってない?」

「…………はて、どういう?」


 どこか棒読みの口調。ああ、わかってるな、この娘……。

 大方、オレとそういう行為をするのが嫌で、こんな風に勘違いしたフリをしているのだろう。

 明確な拒絶。くぅ、童貞にはなんとも効くぜ……。

 でも、まあ、普通に考えてみれば、そりゃ初対面の野郎といきなり、あんなことやこんなことしろというのも、嫌に決まっているわな。

 きっと彼女は、あの地下アイドルっぽい娘達と違って、普段からこういう仕事をしているわけじゃないのだろう。

 オレは、だらりと弛緩すると、床に寝転んだ。

 ふぁー、まあ、正直どこかホッとした自分がいる。


「さて、次こそ勝つからな!」


 ヨッと起き上がると、オレは改めて、盤上のセッティングを終えたコルリへと向き直った。 

 オレが意を汲んでくれたと思ったのか、彼女は少しだけ申し訳なさそうな顔をしたが、すぐにいつもの鉄面皮に戻る。

 正直、残念な気持ちはあるが、こうやって彼女とただ将棋を打っているだけというのも案外楽しい。

 これまでは、素顔を見せてくれなかった上に、言葉さえ最低限しか交わさなかったからな。

 素顔でこれだけオレと会話してくれるだけでも、十分嬉しく感じるというものだ。

 どこか気持ちが軽くなって、3回目の勝負に興じる。

 飛車角落ちのコルリ相手に、それなりには善戦したが、結局最後にはオレの角を取られ、それを巧みに使われて、3度目の敗北を喫した。


「はぁ……また、負けた……」


 うーん、オレも親父との対局で、それなりに馴らした口なんだが、この子相当強いぞ。


「…………ありがとう」

「ん?」


 なんで、負けたオレにそんな言葉を?


「タコ焼き、おいしかった」

「ああ」


 なんだ、そのことか。いきなりだったので、何のことかと思った。


「それだけ……伝えたかった」


 艶姫さんの命令をわざと勘違いしたふりはするものの、こういうところは意外と律儀らしい。

 というか、今まで全然しゃべってくれなかったから、わからなかったけど、普通に良い娘っぽい。


「なあ……なんで今まであんまり話してくれなかったんだ?」

「あなたは……"ケダモノ"だと聞いていたから」

「ぶっ……!?」


 誰だ。そんなこと言ったのは……。

 いや、そもそもこのイーズマでオレの事をそれなりに知っている相手といえば、あの人しかいない。艶姫さんだ。

 確かに、西と東の話し合いの時は、いろいろ色仕掛けに翻弄されはしましたがね……。


「あなたは"ケダモノ"だから、きっと美人の私が誘惑すればオチると艶姫様は言った。でも、私は男の人とのあれこれとか面倒くさかった。だから、仮面をつけて、できるだけしゃべらないようにした」

「はぁ……なるほど」


 だから、ドーンの街では、2度目の出会いにも関わらず、何の反応もしなかったわけか。

 けれど、仮面をつけたことで、かえって興味が湧いた部分もあるかもですぜ。

 なんにせよ。艶姫さんに自分の意にそぐわないことをやらされていた、ってわけね。


「こうして話してくれるってことは、少しはオレの事、"ケダモノ"じゃないって、わかってくれた?」

「……微妙」

「微妙なのかよ」

「……胸とか、足とか、凄く視線を感じるから」


 両手で胸元と足のスリット部分を隠すように身を捻るコルリ。

 ごめん。反論できません。


「でも……」


 彼女はフッと、少しだけ表情を緩めた。


「料理人としては評価する」

「わかった。んじゃ、これからもスコップ料理で信頼を積み重ねることにする」

「うん、楽しみにしてる」


 冗談めかして言ってやると、存外、嬉しそうに彼女は少し笑った。


「か、かわいい……」


 出会った頃のシトリン以上に無表情のことが多い彼女であるが、こうやってわずかにでも笑みを浮かべると、可憐さに一層磨きがかかる。

 この笑顔をもう一度見るためにも、また、スコップ料理を頑張ってみるとしますか。


「やっぱり"ケダモノ"?」

「違う違う、心から"かわいい"と思ったの。それよりもそろそろ寝るか。明日はバカンスだし」


 みんなの水着姿が拝めるし。


「じゃあ、私は床で寝る」

「えっ……」


 彼女は将棋盤をそそくさと片付けると、そのままの姿で床にごろりと転がった。

 えっ、本当に床で寝るつもりかいな。いや、自分の部屋とかあるだろうに……。

 あれか、もしかして、艶姫さんにオレをチョメチョメしろと言われている手前、部屋を出ていくことはできないというわけか。

 だとしたら、朝まで彼女と過ごさないといけないわけで……。

 当然、彼女を床で寝かせたまま、自分はベッドでゆったり眠るなんて、そんな鬼畜な真似できるわけがない。


「いや、コルリちゃん、そんなところで寝たら風邪ひくって。オレがどっかその辺の床で寝るから……」

「そんなことさせたら、艶姫様に殺される。床で寝るのは慣れてる。だから、大丈夫」


 まあ、冒険者だったら、迷宮の硬い床で寝ることになる場合だってあるわけだから、彼女もそれくらいは苦に感じないのかもしれないが……。

 やっぱりダメだ。オレの良心がとても耐えられない。


「だったら、こうしよう!」


 オレはそれなりの広さのあるダブルベッドの片側の端ギリギリのところに寝転んだ。


「オレ、こっちを使わせてもらうから、コルリちゃんはもう片側を使ってくれ」

「でも……」

「いいから! 床に寝られるとオレの寝覚めが悪くなるんだ」


 渋っていた彼女だったが、そこまで言うと、なんとか首を縦に振ってくれた。

 オレは部屋の灯りを消すと、できるだけ彼女の方を見ないように横になる。

 背中越しに彼女が横になったのを感じた。

 わずかにベッドが軋む音を最後に、部屋は静寂に包まれる。

 昼間は蒸し暑かったが、日本と違い、夜は比較的涼しい。

 窓から入ってくる仄かな月明りとどこか遠くから響く、虫の声。

 寝る体勢に入ったことで、それらがより顕著に感じられるようになった。

 緊張して寝られん……なんて、オレの気持ちとは対照的に、ほんのわずか後には、コルリの寝息が聞こえてきた。

 まったく……警戒心がないのか、むしろ胆力があるのか。

 舐められてるのかな、オレ……。いっそ、これから襲っちまうか……。

 いや、わかってますよ。オレにはできませんよ。どうせ童貞ですよ。


「はぁ……」


 極力コルリの方を見ないようにしつつ、オレは頭の中でひたすら羊を数え続けた。




 翌日、女性陣の肌は妙につやつやしていた。

 どうやら、昨晩、それぞれの部屋で、専門のエステティシャンに施術をしてもらったらしい。

 全員元から相当の美少女(約1名男の娘)であるが、さすがにプロのエステを受けた後となれば、なんだかいつもよりいっそう可愛く見える。

 半面、オレはというと、お預けを食らった影響か、すでにお疲れモードだった。

 ああ、陽の光が目に染みるぜ。


「ふぁあああ……」

「あれ、ディグ、寝不足ですか?」

「ちょっとね……」


 楼閣前の大通りにはすでに、多くの人々が闊歩している。

 と、そんな中をガタゴトと駆動音をとどろかせながら、何やら乗り物がやってきた。

 見た目はジープや装甲車に近いだろうか。オープンスタイルで車高が高く、タイヤは全部で8つもある。

 オレの世界にあっても違和感がなさそうな、近代的なデザインだ。

 そんな男心を刺激するようなスタイルの中、唯一車の後部から突き出た巨大なゼンマイがわずかに締まらない印象を与えている。


「ディグはん、おはようさん」

「あっ、艶姫さん」


 その運転席には艶姫さん。

 そして、助手席には、コルリの姿があった。

 そういえば、朝になって目覚めると、コルリはいつの間にかいなくなっていたのだが、どうやら、先に艶姫さんのところに行っていたようだ。

 恰好が演舞の際に着ていた巫女服のようなものになっているのは良いのだが、せっかく昨日見せてくれた素顔は、再び仮面で隠されている。

 あくまで皆がいる場では、この姿で通すつもりらしい。

 いや、それにしても。


「なんなんですか? この乗り物?」

「イーズマが誇る天才カラクリ職人、ジャスパーが作った水陸両用車や。こいつで、無人島までひとっ走りやで」

「水陸両用!?」


 なんか下手したら、オレの世界の技術力よりも上じゃないか……。

 こりゃブルートが弟子入りしたいという気持ちもわかる。


「うぁー、カッコいいわね!!」


 アンシィも目を輝かせている。

 こいつ、こういう無骨で強そうな感じのもの好きだからなぁ。

 

「さあ、乗ってや!」


 アンシィを筆頭に、全員が水陸両用車に乗り込む。

 5人乗ったので、艶姫さんとコルリを含めて、7人乗りになったわけだが、ちょうどワゴン車くらいの大きさなので、定員ジャストといった感じだ。


「さあ、めいっぱい遊ぶで~!」

『お、お~!』


 こうして、奇妙なカラクリの乗り物に乗って、オレ達はバカンスの舞台である艶姫さんが個人保有するプライベートビーチへと出発したのだった。

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